おれとぼくの恋愛事情

 俺はわかっていた。
 陽向がまだ何かを抱え込んでいることを。
 でも、陽向の口から全部聞いてしまったら、今までのことがなかったことになりそうで、わざと、陽向がそれ以上言えないような空気を作った。
 たぶん、陽向はもっと大事なことを伝えようとしていた……。
 
 あの日、美術室を二人で出て一緒に帰った。
 手はつながなかった。
 触れようと思えば触れられる距離なのに、お互いそうしようとしない。いや、しようとしなかった。
 そうこうしているうちに気まずい空気は和らがないまま、俺の自宅に着いてしまった。
 どうにか空気を変えたくて、別れ際に口を開いた。
「陽向も頑張ってるんだもんな。俺も受験勉強に専念するよ」
 自分らしくない言葉に思わず苦笑いが出た。
 陽向は今までに見せたことのない表情をしている。
 笑っているのに、どこか泣きそうな顔だった。
「お互い頑張ろう。忙しくても連絡するよ」
 どうにか絞り出した言葉に、陽向もうなずいた。
「ありがとう。僕も連絡するよ」
「じゃ……」
 陽向の顔から、悲しみは消えなかった。
 去っていく陽向の後姿を見えなくなるまで眺めていた。