おれとぼくの恋愛事情

 琉生の試合へ向かう準備をしていると、スマホが鳴った。
 こんな時に……。
 画面を見ると沙羅だった。
 ため息をついて電話に出ると、沙羅のか弱い声がした。
『……陽向……?お、おねがい……きて……』
「沙羅?どうしたの?」
 僕はカーテンを開け、向かいにある沙羅の部屋を確認したが、カーテンは閉まっていた。
 どうしよう。
「……ひ、ひな……た……」
 電話の向こうから沙羅が呼ぶ声が聞こえる。
 僕は部屋を飛び出し、玄関へ向かった。
 あいにく、沙羅の両親は旅行中だった。
 何かあった時のために預かっていた鍵をつかみ、向かいの沙羅の家へ走る。
 玄関の鍵穴に鍵を差し込み、扉を開けた。
「沙羅!!」
 返事はない。
 僕は靴を脱ぐのももどかしく、二階へ駆け上がった。
「沙羅!」
 部屋のドアを開けた瞬間、床に倒れ、お腹を抱えている沙羅の姿が目に飛び込んできた。
「お腹が……痛い……」
 絞り出すような声で訴える沙羅を、そのままにしておくことはできなかった。
「救急車、呼ぶよ」
 震える手でスマホをタップした。
 
 救急隊員に「付き添える方はいますか」と聞かれ、僕はそのまま救急車に乗り込んだ。
 時計に目をやると、試合はすでに始まっている時間だった。
 処置室の扉を見つめても、運び込まれた沙羅はなかなか出てこなかった。
 緊迫した表情の看護師が立て続けに出たり入ったりしている。声をかけられる雰囲気ではなかった。
 待合室のベンチに座り、時計の針をじっと眺めながら沙羅を待った。
 当たり前だけど、時間は待ってはくれなかった。
 琉生に……連絡……。
 沙羅がこんな時なのに、琉生のことが気になってしまう。
 でも、この状況をどう説明すればいいのか。
 沙羅を置いて行くことも、琉生に「行けない」と伝えることも、どちらもできなかった。
 琉生……。
 組んだ両手に額を押し当て、祈った。
 お願いだ、勝ってくれ。