おれとぼくの恋愛事情

 水曜に陽向と会っているうちに、あっという間に三年生になった。
 桜の花を楽しむ間もなく、日差しが強くなっていた。
 最後の地区大会が目の前に迫っていた。
 
「琉生、何か隠してることない?」
 部室で着替えをしていると杉本がニヤニヤした顔で近づいてきた。
「別に。なんでだよ」
「コレコレ。ずっとつけてるじゃん」
 杉本は俺の左手首を指した。
「彼女、できたんじゃねーの?女子が好きなやつに渡して、願掛けするやつだろ?」
 陽向は流行っていると言っていたが、本当だったんだと今さらながら気づく。
「これはちげーよ!」
「隠す必要ないだろ。誰?いつも来ているファンの子?」
「ファンには手を出さないっての」
「気になるな~。あんなに女子から騒がれても流してたのに。琉生のハートを射止めたのは誰なのか」
 杉本の声に興味を持ったのか、後輩まで俺を取り囲んだ。
「琉生先輩の彼女すか?」
「だからちげーっての」
「みんな気になるよなー」
 杉本がまくしたてると、後輩たちまで一緒に騒ぎ出した。
 部室の外から顧問が声を張り上げている。
「お前たち、早く来い!」
 俺たちは慌てて部室を出た。

 インターハイが近づくにつれ、練習はきつくなっていったが、ミサンガを見ると陽向が近くにいるような気がして、むしろ気合が入った。
 恥ずかしいところは見せたくない。
 今年は勝つ。
 絶対に決勝で勝つ。
 うちの学校は毎年決勝まではいくのだが、最後の最後で敗れる。
 だが俺は今年が最後だ。
 夕日が半分沈み始めていた。
 ベンチに戻ると、グラウンド脇にいた女子たちが騒ぎ出した。
 タオルで汗を大雑把に拭いた。
 以前はうざったいと思っていた甲高い声が、最近はそこまで気にならない。
 俺の視線が向かう先は、一人しかいないからだ。
 ふと、美術室の窓に視線を向けたが、明かりは消えていた。
「琉生先輩、さすがっすね。あの中に彼女が?」
「違うっての」
 後輩はまだ、俺の手首のミサンガが気になっているらしい。
 しつこい奴め。
 実は陽向とのことは、お互いに暗黙の了解で誰にも言っていない。
 バレたら面倒だと分かっているから、二人だけの秘密にしている。

 今日の練習も、やっと終わった。
 明日は水曜日だ。
 陽向に会える……。
 明日が来るのを、俺は当たり前みたいに待っていた。
 でも、当たり前はずっと続くものじゃない。
 この時の俺は、まだそれを知らなかった。