おれとぼくの恋愛事情

 学校に行けば陽向には会えるが、俺たちは他人のふりをしている。
 校内新聞の取材でだけ知り合った関係。
 だから、陽向と俺は校内では話をしない。
 まあ、陽向の隣にはいつでも高円寺沙羅がべったりといるので、話しかけようにも、話しかけられないのだが。
 
 水曜の放課後、ほんの数時間だけが俺たちの時間だった。
 本当は水曜と言わず毎日会いたかったが、陽向は陽向で放課後は忙しいし、俺も部活があるので、水曜以外はお互い難しかった。

 玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると陽向が立っていた。
 相変わらず、腹が立つくらい綺麗だった。
 目を細め、少しだけ口角を上げている。
 「早いね」
 その声を聞いた瞬間、学校で他人のふりをしていた時間が全部ほどけた。
 俺は陽向の腕をつかみ、部屋の中へ引き入れた。
 白い花の奥に残るホワイトムスクが、ふわりと香る。
 水曜日だけの陽向が、俺にしか見せない陽向が、ここにいる。
 そう思っただけで、胸の奥が熱くなった。
 
 二人で触れ合っている時は、陽向のことがわかったような気がするのに、そうでない時はわからないことがあった。
 陽向は本当に大切なことは言わない。
 聞かれれば答えるのだろうが、聞かれなければ自分からは話さない。
 さっきも進路のことを聞いたが、陽向は詳しく話さなかった。
 聞いてはいけなかったのか?
 何か言いかけて飲み込んだような、気まずさが一瞬流れた。

 陽向は大きな決断をするとき、一人で決めるようなところがあった。
 夏休み中、たまたま部活が休みの日があった。
 陽向に会おうとメッセージを送ると、『今、ボストンにいる』と返ってきた。
 俺は目を丸くした。
 国内ならいざ知らず、ボストン……。
 今から向かえる距離ではない。そもそもそんな準備もしていない。
 いつ帰るのか聞くと、『1週間後だよ』と、あっけない返事があった。
 せめて行く前に一言言ってくれれば。
 心臓がキュッと締め付けられる感じがした。
 陽向は日本に帰国しても、俺に連絡をしてこなかった。
 しびれを切らして俺から連絡すると、『ごめん。いろいろと忙しくて』とあっけない返事があった。
 いろいろって何だ?!
 俺に言えないことなのかよ。
 スマホを持つ手が小刻みに震えた。

 俺の知らない陽向がまだいる。
 隣に陽向がいるのに、遠い存在のように思えた。
「陽向~」
 俺はいつもになく甘い声を出して、陽向に抱きついた。
 もっと、いや、ずっとこのままでいたい。