おれとぼくの恋愛事情

 水曜の午後は、なんとなく琉生の家で過ごすという暗黙の了解ができていた。
 銀杏の葉が黄色やオレンジに色づく季節になっていた。

『今から行く』
 メッセージを送ると、OKの文字を抱えたクマのイラストで返信があった。
 琉生らしさに思わず笑みがこぼれた。
 スマホを片手に、駆け足で琉生の住むマンションへ向かった。

 チャイムを鳴らすと、まだ制服の琉生が現れた。
「早いね」
「授業が終わったら速攻帰った」
 そう言って琉生は笑い、僕の腕をつかみ、部屋に引き込んだ。
「陽向……」
 琉生のいつもになく熱い視線が僕を見つめる。
「琉生……」
 僕たちは抱き合い、どちらからともなく口づけた。
 水曜日を重ねるごとに、僕たちは少しずつ大胆になっていった。
 もっと琉生の近くにいたくて、彼の後頭部の髪をくしゃくしゃと掴んだ。
 琉生……好きだよ……。
 琉生に引き寄せられるまま、僕たちはベッドに腰を下ろした。
 何度も名前を呼んで、何度も口づけた。
 学校では決して見せられない顔を、僕たちは互いにだけ見せていた。
 
 しばらくして、二人でベッドに横たわり天井を見ていると、琉生がポツリと言った。
「もう少しで高三だな……」
「そうだね」
「陽向は進路、決めてるのか?」
「一応は。でも少し迷っている。琉生は?」
 国立の芸大に行くか、海外留学するか。
 高校を卒業したら海外で学びたいこともあり、英語も勉強してきた。
 TOEFLのスコアも、海外留学を視野に入れられるところまで来ていた。
 琉生と出会って、もっと自分の実力を試したい。
 国内の芸大を考えていたが、最近は海外まで視野に入れて考えている。
 琉生が僕を変えた。
 琉生と出会ったからこそ、作品のテーマが見つかったんだ。
「そうか、俺は大学に行こうと思っているけど、学力が致命的すぎる」
 琉生は苦笑いした。
「サッカーは?」
「高三で行けるとこまで行ったら終わりかな」
「もったいない」
 琉生は大学に行ってもサッカーを続けるものだと思っていた。
「サッカーは……高校でやり切るって決めてるから。俺はプロになる実力もないからな。大学からは他のことをやってみるのもいいかなって思ってさ」
「そうか……」
 琉生はずっとサッカーをやり続け、僕は絵を描き続けるのだと思っていた。
 でも、琉生はそうではない。
 直接聞かないと分からないことは多い。
「陽向~」
 琉生は甘えたような声で、僕の方へ身体を向けた。
 そのまま腕を伸ばされ、抱き寄せられる。
 軽い口づけのはずだったのに、離れるタイミングが分からなくなった。
「もう少し、このままでいていい?」
 耳元でそうささやくと、頬にキスをした。
 胸の奥がきゅっと苦しくなり、僕は小さくうなずいた。
 水曜日だけが知っている琉生の顔を、僕はまたひとつ覚えてしまった。