おれとぼくの恋愛事情

「これとか、いいね」
 陽向が指した写真は練習している時に撮られたものだった。
 グラウンドを走り、指令を出している姿だ。
「マユの奴、一体いつ撮ったんだか」
 原稿を持っている陽向の左手近くにあった写真を覗き込んだ。
 笑いながら陽向に顔を向けるとすぐそこに陽向の唇があった。
 思わず俺は陽向の唇を撫でた。
 綺麗だ……。
 静まり返った部屋の中で陽向と俺は今までにないくらい近くにいる。
 俺は思わず、陽向に口づけていた。
 陽向の持っていた原稿は床に落ちた。
 陽向は逃げなかった。
 それどころか、ためらうように俺の背中へそっと腕を回した。
 その指先が、少し震えていた。

 こうしたかった……。
 ずっと、触れたい気持ちを押し込めてきた。
 今日は……無理だった……。
 陽向の柔らかい唇が俺の欲望を溶かしていく。
 もっと近づきたい。
 もっと、このままでいたい。
 俺も陽向の背中に腕を回し、ギュッと力を込めた。

 でも、一瞬不安がよぎった。
 これ以上進んだら、戻れなくなるんじゃないか……。

 キッチンから母親が夕食を作る派手な音が聞こえてきた。