おれとぼくの恋愛事情

 そんな風に過ごしていたある日、部室の扉を開けようとしたところで、中から声が聞こえた。

「そういや白城陽向先輩って、高円寺沙羅先輩と付き合ってるんですか?」
 後輩の声がした。
「付き合ってるんじゃねーの?毎日登校一緒だし」
 杉本の声だ。
 俺は唾を飲み込んだ。
「ベストカップルっすよね。あの二人」
「まあ、あの二人が通るところはモーセの海割りの如く、左右に人が分かれるしな」
 後輩と杉本の笑い声が聞こえてきた。
「なんで?白城陽向に興味あるん?」
「聞いてくださいよ、先輩―!自分、振られたんすよ。白城陽向が好きだからごめんって」
 後輩の声が沈む。
「そうかそうか。白城じゃ無理だわ。文化系の王子っていわれるくらいだから、お前にゃ勝てんよ」
「そうっすよね。惨敗っす」
「よしよし」
 杉本が後輩の頭を撫でたようだ。
 和やかな失恋話が部室内で繰り広げられていた。
 高円寺沙羅?
 あいつと白城は付き合っている??

 ―――マジか。

 言われてみれば、あの二人はいつも一緒にいる。
 登下校も一緒、昼休みも一緒。
 白城の隣にはいつだって高円寺沙羅がいる。
 何でこのことに気づかなかったんだ。
 完全にフリーだと思いこんでいたから、彼女がいるとは思いもしなかった。
 えっ?!
 何だろ、俺。
 すげーショック……。
 湿気を帯びた初夏の風を全身に感じた。
 なんだか気持ちが悪い。
 白城も自分と同じ感情を抱いているかも?なんて考えていた自分がバカすぎる。
 胸の奥が、鈍く痛んだ。
 まばたきをすると、視界が少しにじんだ。

 ガチャッ。
 ドアが内側から開いた。
「アレ? 琉生先輩すか?」
 後輩がドアの隙間から顔をひょっこり見せた。
 俺はすぐさま涙を袖で拭い、部室に背を向けた。
「ごめん。今日体調悪いから部活休むわ」
 キョトンとした顔の後輩を残し、部室を後にした。