おれとぼくの恋愛事情

 3年生が引退してしまった。
 残されたのは私一人。
 非常にまずい状況に陥っている。

 先日、2年2組の教室の入り口に顧問の小林先生が現れた。
 私?
 小林先生と目が合うなり、私は「私?」という意味で自分を指さした。
 コクリとうなずき、小林先生はこっちへおいでと言わんばかりに激しく手招きした。

「お前ひとりになったな。活動できるのか?」
 廊下に呼び出すなり小林先生が口を開く。
「任せてください!」
 笑顔で答えるも、額から冷や汗が噴き出した。
 どう考えてもまずいのだ。
 人員不足と情報不足。今の私はダブルパンチを食らっている状況なのだ。

「でも、一人じゃ作れないだろ?」
「で、で、できます!」
 笑顔は崩さないように。
「俺も一人の部員のために顧問やってるのも面倒だしなぁ。それに、お前が卒業したら誰もいないだろ? 新聞部……」
 小林先生がため息をつきたいのを我慢しているのが伝わってくる。
 一応私に気を使っているっぽい。
「でも、でも、困るんです! 私一人でも新聞発行しますから!!」
「取材して、写真撮って、記事を書いて。一人で全部できるのか?」
「やります!」
「ったってなぁ。来年には廃部になるんだろうから、廃部の時期を早めるだけだろ」
「そこを何とか!!」
 両手を合わせて拝んだ。
 廊下を歩く生徒たちがじろじろ見ている視線が痛い。
 小林先生の眉間のしわは深くなるばかりだ。
「そしたら、1回だけチャンスくれてやる」
 神の声!
 下げていた頭を上げ、目を潤ませた。
「な、何でしょう?! そのチャンスとは……」
「今学期中。そうだな、今学期中に新聞を発行しろ。その新聞でアンケートを取って満足度が80%以上だったら顧問続けてやる」
 !!
 80%……。
 実は新聞部は年に3回新聞を発行している。
 毎回読者アンケートなるものを集計しているのだが、アンケートの結果は毎回散々たるもので、アンケートの回収も満足にいかないのが現状なのだ。
 そう、我が新聞部は今までそんな数字を取ったことがない。
 先輩たちはゆるーく取材して記事にするという、「何か残せばいいんでしょ?」程度のお遊び気分で所属していた人たちばかり。
 そんな中、比較的真面目に活動していたのがこの私なわけだけど……。

「無理か? だったら……」
「やります! やります。今学期中に新聞発行します! 満足度80%取ってみせます!!」
「ただし、回答数は最低百件。身内だけに答えさせるのはなしだ」
 わっはっは。
 小林先生は豪快に笑いながら職員室に向かっていった。
 鬼、悪魔!
 ハードル高すぎる!!
 まずい。まずい。まずい。
 あんなできもしない約束しちゃったよーーー。
 様子を見ていた友達の亜友美が駆けつけてくる。
「ねえ、マユ。大丈夫なの? 小林、こういうところだけ容赦ないじゃん。できないとホントに廃部になるよ?」
「どーしよー」
 涙目になって亜友美の手を取る。
「はぁ」
 亜友美は私の手から自分の手をスッと抜くと、「がんばれ! 応援してる」と笑顔を向け席に戻ってしまった。
「あーーー! どうしよう!!」
 髪の毛をくしゃくしゃに掻いているところに授業の予鈴が鳴った。
 
 ふと廊下に目をやる。
 廊下の向こうを、ひときわ目立つ男子が通り過ぎた。
 周囲の女子たちが、まるで潮が引くみたいに道をあけ、彼に視線を奪われている。
 私はニンマリした。

 必要なのは、誰もが読みたくなる特集。
 学校中の視線を奪える、最高の被写体を見つけた!!