さよなら、ブラック

あんなことがあって、歩はわたしの心の中に何かしらあることに気づいたようだったけれど、それが何なのかを尋ねようとはしなかった。
今までと同じように、わたしに接してくれた。
その優しさが、とても痛かった。
わたしは、彼の期待に応えられていない。
わたしのせいで、歩を苦しませているのではないか、そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
わたしも、歩が好きなのに。

そんな時。
わたしは、たちの悪い夏風邪をひいてしまった。
高熱が出て動けない。
ベッドの上で天井を眺めていると、天井がぼやけたり歪んだりするので、これは重症だと思い、歩に助けを求めた。
授業が終わってからでいいと言ったのに、歩は買い物袋を下げ、血相を変えて飛んできた。

ひとり暮らしを始めてからアパートに歩はおろか、男性を上げることも初めてだった。
でも、高熱のせいで思考がぼんやりとして、そんなことは今、最重要課題ではなかった。
初めてわたしの部屋にやって来た歩は、少し遠慮がちにしていたが、わたしがふらふらとよろけると、
「いいから、寝てて」
と言って、わたしを優しくベッドに寝かせてくれた。
「ありがと……」
かすれてしまった声でそう言うと、
「気にしないで」
と言って、優しい笑みを浮かべた。

歩は、さっき買ってきたレトルトのおかゆを温めてくれたり、額にぬれたタオルをのせてくれたりと、そこまでしてもらわなくてもいいのに、とこちらが遠慮してしまうくらい優しくしてくれた。
「ありがとう」
わたしは歩の手をそっと握った。
歩はにっこり微笑んで、
「俺を頼ってくれて、嬉しかった」
と言って、わたしの頬にそっとキスした。
わたしの体の芯が、一瞬熱をおびた。
「そんなことしたら、風邪、移っちゃう」
鼻まで布団をかぶって、歩の顔をちらりと見た。
すると、彼はにやりとして、
「みちるの風邪なら、喜んでもらってやる」
と言った。