さよなら、ブラック

上からわたしを見つめる、穏やかなまなざし。
胸がはち切れそうだった。
そっと手を伸ばし、歩の顔を包む。
わたしは、あなたが……

「大好き」

歩のその言葉に、胸が熱くなった。
降り注ぐ、深いキス。
絡み合う指。

歩の吐息に溺れたい。
あなたが愛しい。

「ひとつになりたい……」

歩の首に手を回して、かすれた声で囁いた。
「嬉しい」
歩は微かに笑みを浮かべた。

その温もりに、体がふわりと浮き上がりそうになる。

切なげな彼の目が、胸を焦がす。
覆い被さる長いまつげが、麗しい。

こみ上げてくる悦び。
これが、愛されるということ。
愛するということ。

いつの間にか、涙が溢れていた。
「愛してるの……」
わたしは、歩の首にしがみついた。

歩がわたしを後ろから抱きしめてくれた。
包まれているおろしたてのシーツが、心地いい。
背中に歩の胸板を感じる。
耳に吐息を感じる。
幸せの余韻。

「嬉しかった」
耳元で囁いて、わたしの耳にそっと口づけた。
「わたしも」
歩の腕にそっと手を乗せた。

歩が初めての人だったら、良かったのに。
あんな思いも知らずに済んだのに。
ずっと、そう思ってた。

だけど。
あの哀しみがあったから、歩の深い愛情に気づけた。
愛しあうって、こんなに心が満たされるんだ。

「ねえ、みちる」
「なに?」
歩の鼓動が聞こえる。
「俺の声、どう思う?」
「……優しい」
そして、とろけそうなくらい甘い。
「俺の手は?」
「……大きくて、あたたかい」
そして、安心できる。
「俺って、どんな奴?」
「……優しい人」
そして、穏やかな海のような人。
「俺のこと、どう思う?」
その問いに、わたしは歩の腕に顔をうずめた。
「大好き」
そっと呟くと、歩はわたしを抱きしめる腕にぎゅっと力を入れた。
「俺も」
そう言って、わたしの耳たぶにキスをした。

「みちるは、いい子だね」
耳元で囁く歩の声がくすぐったい。
「みちるは俺のこと、ちゃんとここで見ていてくれる」
そう言って、歩はわたしの胸にそっと手をあてた。
とくんとくんと、鼓動が波打つ。
歩の手に、鼓動が伝わる。
それは、歩のおかげなんだよ。
わたしは、歩の手に自分の手をそっと重ねた。

わたしが幸せの余韻に浸っていると、歩は不敵な笑みを浮かべながら、わたしを振り向かせた。
なに?なんなの?
わたしが眉をひそめていると。
「だから、俺、どんな服着ていてもいいでしょ?」
なんてことを言うので、わたしは思わず吹き出してしまった。
それを見て、歩も愉快そうに笑った。