榊原の指示を受け、アレクシスが転移の準備を始める中、鈴村君が深いため息をつきながら、私に話しかけてきた。
「先生……異世界での絵師活動、本当になっちゃいましたね」
彼の顔には、疲労と諦めが入り混じっている。
シリルと分離したことで、肉体的な負担は減っただろうが、精神的な負担は増しているようだ。
「そうだね……。それにしても、アレクシスさん、漫画のモデルが自分だってこと、どう思ってるんだろうね」
私が問いかけると、鈴村君は首を横に振った。
「多分、全く理解していないと思いますよ。彼は、自分の存在が『愛の料理』を広めるための天命だと思っているので、先生が描く漫画も、その『天命』の一部だと考えているんじゃないでしょうか」
鈴村の言葉に、私は妙に納得した。
アレクシスにとって、全てが愛に帰結する。
その純粋さが、私の精神を常に揺さぶるのだ。
「スズムラが苦労しているのは、長く一緒にいた私には分かります。しかし、アヤノ様と共にアレクシス様を支えるのは、我々の使命でもあるのですよ」
シリルさんが、鈴村君の肩にぽんと手を置く。
生身となったシリルはどう見てもやはり、配色違いの鈴村君にしか私には見えないのだが、皆はどう思っているんだろう。
「あのですね! シリルさん……もう僕の身体は乗っ取らせませんよ!? なんだか気が休まらないなあ……魂の片割れとかほんと」
鈴村君は、疲れた顔でシリルさんを見つめる。
え、魂の片割れってなんなんだ。
今初めて聞いたぞ。
国立魔術研究院での調査とやらで判明した新事実なのだろうか。
めちゃくちゃ気になる。
でも、今はそれどころじゃない。
そう、この予測不能な日々が、私の創作意欲を刺激しているのもまた、事実なのだから。
「わかりました……やります。異世界での絵師活動も、アレクシスさんの旅にも……付き合います」
私の諦めに近い返事に、アレクシスは満面の笑みを浮かべた。
彼の笑顔は、まさに太陽のようだった。
「やはり君は、俺を唯一理解してくれる存在なのだな。共に伝説を紡ぐ旅に出よう」
異世界と日本、二つの世界を股にかける私のBL漫画家人生は、まだ始まったばかりだ。
アレクシスの純粋な熱意、榊原の冷徹な策略、鈴村君とシリルの献身的なサポート。
個性豊かな仲間たちと共に、私はこの予測不能な冒険を進んでいく。
これは、ただの異世界転移物語ではない。
二次元と三次元の境界を越えて、愛とネタを貪欲に追求する、一人のBL漫画家の終わらない戦いの記録。で、ある。



