カインドネス・リベンジ

 空良が到着した頃には、すでに家は炎に包まれていた。

 燃え盛る炎に野次馬たちが群がっている。その人波をかき分け、空良は進んでいく。
 すぐ側では、消防隊員がせわしなく動き、消火活動を開始していた。

 空良が家に向かって走り出すと、消防隊員に止められた。

「君、危ないから下がって!」
「家族が! 家族がいるんです!」

 消防隊員の手を振りほどき走っていくが、すぐにまた止められる。

 空良は足掻きながら叫んだ。

「父さん、母さん、真衣!!」

 そのとき、家の一部が崩れ落ちる。
 それを目の当たりにしても、空良は叫び続けた。

 家に近付くことを許されず、消火活動を見守ることしかできない空良は、辺りを見回した。

 すると、野次馬の中に見知った顔を見つける。

 俊介だ。

 なぜ彼がここにいる?
 彼の自宅はここから遠い。
 夜遅く、こんなところの火事を聞きつけていること自体おかしな話だ。

 空良は目を疑った。

 彼は笑っていた。
 空良の家が燃えているのを見て、嬉しそうに笑っていた。

 空良の頭の中で、パズルのピースが繋がっていく。

 さっき、雅人は様子が変だった。視線が泳ぎ、落ち着きがなかった。
 雅人はどっちから来た? 自宅の方から来た。

 そして、現場には俊介がいて、空良の家が燃えているのを見て笑っている。

 それが意味するものは――。

 空良はとんでもない想像に辿り着いてしまった。

 愕然とし、全身から力が抜ける。
 倒れそうになった体を、地面に手をついてなんとか支えた。

 まさか、俊介がここまで非道な人間だとは思わなかった。

 いや、思いたくなかった。
 こんな酷いこと、誰ができる? 考える?
 それに……雅人まで俺を裏切ったのか?

 彼のことだ。きっと脅されたのだろう。

 それにしても、こんなことをするなんて!

 俺をどれだけ嫌おうが恨もうが構わない。嫌がらせだって耐える。
 しかし、大切な人を傷つけることだけは許せない。

 ましてや、こんな……。

 空良は歯を食いしばり、血が出るほど強く自分の手を握り締めた。

 俺の家族が何かしたか!
 何の罪もない家族を、俺の大切な家族を。

 よくも……。

 許さない、絶対。



 まだ薄暗く、もうすぐ太陽が地平線に顔を出そうとしている頃。

 灰となった家の残骸の中を、空良がゆっくりとした足取りで歩いていく。
 しばらくすると、ふと歩みを止めた。

 そこには、生前、母が大切にしていたネックレスがあった。

 焦げてはいたが、原型は綺麗に残っている。

 空良は大切そうにそれを拾うと、強く握り締めた。

「父さん、母さん、真衣……安らかに眠って」

 目を閉じ、手を合わせる。
 次に開いたその瞳には、決意が滲んでいた。

 顔を伏せた空良は、静かにその場を去っていった。