カインドネス・リベンジ

 あれから数ヶ月がたった。
 
 由紀は調子が良く、今は退院して、リハビリ代わりにアルバイトを始めていた。
 よく仕事の愚痴をこぼしているが、それは元気な証拠だ。

 雅人はそんな彼女の笑顔を近くで見ていられることに、毎日幸せを感じている。

 こんな幸せで穏やかな毎日を送れるのは、空良のおかげだった。

 空良が由紀の主治医になっていた間、親身になって治療してくれたおかげで、病状も以前より良くなっていたらしい。

「このままだと、もう入院しなくてもいいかもしれないね」

 と笑顔で語る由紀。

 空良は雅人を救い、そして由紀も救ってくれた。

 本当に空良には頭が上がらないことばかりだった。

 現在、雅人は秘書の仕事を辞め、医者を目指すために大学に通い直している。

 三十四にもなって、今さら何考えてるんだって自分でもあきれる。

 周りの目も冷たかった。
 心が折れそうな時もある。

 でも由紀が励ましてくれるから、なんとか続けられていた。
 それに、空良がくれた想いや言葉があるから、ちょっとやそっとじゃへこたれない。

 雅人はもともと人を助ける仕事がしたかった。
 中学の頃、医者になりたいと思った時期だってある。

 もちろん、由紀の病気の役に立ちたいという気持ちも大きい。

 でも、一番の理由は――。



 気持ちのいい太陽の光が注ぐ中、二人は霊園の中を歩いていく。

 小高い丘の上にあるここは、周りに草木があり、とても自然豊かな場所だった。
 遠くには海が見え、潮の香りが鼻をくすぐっていく。
 地面には細かい草花が生えていて、風が吹き抜けていくたびに軽やかに揺れていた。

 雅人と由紀は目的のお墓の前に辿り着くと、一礼してから掃除をはじめる。
 掃除を終えると、持ってきた花を由紀が丁寧に供えた。

 線香を焚いて、お墓に手を合わせる。

 ゆっくりと目を開けると、雅人が静かに語りかける。

「空良……これ、君の大切なものなんだろ?」

 雅人はネックレスを墓前にそっと置いた。

 このネックレスは、空良がずっと身に着けていたようで、あの事件のあと看護師から渡された。

 そういえば、空良の首にはいつもネックレスが見えていたように思う。
 きっと家族の誰かの大切なものを、いつも肌身離さず持っていたんだよな?

 雅人はふっと息をついてから、力強く言った。

「空良……僕、これからは、自分の人生と君の人生、二人分生きるから」
 
「空良先生、雅人のこと見守ってあげてね」

 二人は手を繋いで、笑い合った。
 そのとき、ザアッと強い風が吹き抜けていく。

 
 君に言われたように、これからは自分をしっかり持ち、自分で選んだ人生を、自分の足で歩いていこうと思う。

 由紀と一緒に。

 きっと見守っていてくれるんだろ? 空良。

 雅人が空良に笑いかけるように微笑むと、
 ネックレスがキラッと光った。