カインドネス・リベンジ

 俊介は追い詰められていた。

 次は何だ、次は俺から何を奪う。
 空良、おまえは俺をどうするつもりなんだ。

 どんどん追い詰められていく恐怖から、俊介は夜も眠れなくなっていた。

 今も、リビングには家族の笑い声が響いている。
 その中に奴の声も混じっていた。

 それが俊介の神経を逆撫でする。

 あれから、空良は父への往診という名目(めいもく)で、家に頻繁に出入りするようになっていた。

 家族は空良のことを気に入り、よく食事に招待した。
 困ったことや悩みがあると、家族は俊介よりも空良に相談し、いつしか空良を中心に家族がまとまるようになっていった。

 空良と家族は日に日に仲良くなり、信頼関係を築いていく。
 本当の家族である俊介より、空良のほうが家族に馴染んでいた。

 ――そうか、今度は家族を奪うっていうんだな。

 恋人、親友、家族。
 そうだろうな、そうくると思ったよ。

 俊介の目は瞬きもせず、どこか虚空を見つめる。
 その口だけが笑っていた。

「もうそろそろ、本気であいつをどうにかしないと……」

 ブツブツつぶやく俊介の表情は、もう正常ではなかった。


 そんな俊介に追い打ちをかけるように、今度は俊介の不正がネットニュースに上がった。

「なんだと?」

 俊介が大臣に賄賂(わいろ)を渡していたというのだ。

 確かに政治家になる時に少し世話になったが、賄賂など渡したことはなかった。
 まさか、俺の知らないところで親父が勝手に渡していたのか。

 いや、それにしても今さらこんな話題がニュースになるなんておかしい。
 誰かが流したんだ。

 空良、あいつしかいない。

 世間というのは、人を叩くのが楽しくてしかたないらしい。
 俺みたいな小物でも、面白おかしく報道され、そのせいで表も堂々と歩けなくなった。

 世間の目も冷たく、ネットの中で俺はもうゴミや虫けらのような扱いだった。
 次の選挙では生き残れないだろう。

 なぜ、俺がこんな目に遭う?

 俊介は衝動のままに、周りにある物を次々と壊していく。

 気が変になりそうだ。

 どうしてくれる?
 どうしてこうなった?
 誰のせいだ?

 あいつだ、全部あいつのせいだ!

 俊介は虚ろな目で、何もない一点を見つめる。

 もう駄目だ。空良を放置しておけば、俺の平穏な人生がめちゃくちゃになる。

 あいつを消さないと……平穏な日々は訪れない。

 空良が悪い。
 俺からすべて奪ったから。

 俊介は気味の悪い笑みを浮かべていた。