高校一年と高校二年の狭間。
僕と、僕のお母さんと、幸一君と、幸一君のお父さんの四人は、春休みに集まって、大きな公園に桜を見に来ていた。
「咲いててよかった〜」
「綺麗ねぇ」
「風が良い」
「良い天気だな」
四者四様の感想を呟いて、僕はおにぎりに齧り付くつ。
今日は僕のお母さんがピクニックセットとして、沢山とおにぎりとおかずを作ってくれていた。
「あ、幸一君、それ僕が握ったやつだよ」
「なんで分かった」
「ふふ、ちょっと大きいからね!」
あと、ちょっと歪だからね!
笑いながら眺めていると、幸一君は大きく1口齧り付いて、僕を見て笑う。
「美味い」
「へへ」
それもそのはず。
だって、その混ぜご飯の味付けをしたのは僕のお母さんなのだから!
けれど、ちゃんと愛情を込めて握ったから、感想が貰えて嬉しい。
「涼太君も手伝ってくれたのか」
「はい、おにぎりを握って、ウインナーを焼きました!」
「そうか、ありがとう。とても美味しそうだ」
優しく微笑む幸一君のお父さんに、僕も僕のお母さんも微笑んで、食べる姿を見守る。
ベンチと、少しの遊具がある公園は、まだ他に人が居なくて、穏やかで平和だった。
風が吹くと沢山の桜の花びらが散るのに、桜の木はまだまだ全体がふっくらとしていて、一体何枚の花びらがあるのだろうと不思議に思う。
そんな僕を幸一君がじっと見ているから、幸一君が持つおにぎりに僕が焼いたウインナーを乗せると、笑ってちゃんと食べてくれた。
幸せだな、と思う。
皆笑顔で、とても幸せだと思う。
「二人に、相談したいことがある」
「え」
おにぎりもおかずも全部無くなって、遊具に遊びに行こうかな、とソワソワしていたら、幸一君のお父さんが話し始めて、向き直る。
「私は幸一も、涼太君も、それから、芽依さんのことも、幸せにしたいと思っている」
……芽依さん。
それは、僕の、お母さんのことで。
「家族に、ならないか」
「……か、ぞく」
僕が繰り返すと隣から、幸一君が飛び付いてくる。
「わあっ」
「はは、仲が良いな、本当に」
「涼太、涼太」
「こ、幸一君」
ちょっと濡れた幸一君の声に、僕も涙が出てくる。
ずっとずっと願っていた、家族になるという夢。
長いようで、早いようで、念願で、嬉しくて。
「僕たち、ずっと、兄弟になれたら、って、話して、たんです」
止まらない涙の中そう言うと、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、驚いた様子で顔を見合せていて。
「僕も、家族になりたいです」
「……俺も」
「ははは、はああ、そうか、良かった」
「……ありがとう、二人共」
泣きながら言う僕と、僕に抱き付いたまま言う幸一君。
それにほっとして笑う幸一君のお父さんと、涙ぐむ僕のお母さん。
ずっと、ずっと、願っていた。
例え行き先が地獄でも、僕は幸一君とずっと一緒に居たいと、願っていた。
それが今、正式に叶おうとしていて。
幸一君の背中を撫でながら、僕も幸一君を抱き締める。
「嬉しいです、嬉しい。本当に嬉しい」
そうして僕たちがあまりに喜ぶから、幸一君のお父さんがぽつりぽつりと話してくれる。
お正月に僕が言った、また皆でご飯が食べたいという言葉を聞いて、心から嬉しいと思ってくれたことを。
それから、僕のお母さんが言った、『一緒にご飯を食べられる時間も、もう残り少ないかもしれないものね』という言葉を聞いて、考えさせられたのだ、ということを。
「私は幸一と、長い期間すれ違いの生活を送っていた。そのことがどうしても心に残っていて、これからの時間は、何よりも大切にしたいと思っていた。そんな時に、とても嬉しい涼太君からの言葉を聞いたものだから、舞い上がってしまって」
ははは、と照れて笑う幸一君のお父さんに、僕も照れて微笑む。
あの願いは、また皆でご飯を食べたいという願いは、本当に僕の心から出たものだった。
だからそう言ってもらえるのは嬉しいし、何より、二人の後押しになったのなら、素晴らしいことだと思う。
「私は芽依さんにとっくに惹かれていたから、直ぐに話をさせてもらったよ。それから、家族になるのなら、早めが良いという話もね」
この話は、幸一君のお父さんの行動力の賜物なのだな、と思って感動する。
それから、ふと思い出した。
初めて会った時も、そうだったことを。
幸一君のお父さんは残業続きで、仕事以外に割く時間が全然なくて、けれどそれでも、幸一君のお父さんは無理矢理時間を空けて、有給を使って、僕たちと会ってくれた。
あの時も、幸一君のお父さんの行動力に感動していたことを、思い出したのだ。
あの日の会話や決め事があってこその今だし、あの日から今日までずっと、約束を守ってくれていた幸一君のお父さんや、料理を作り続けてくれた僕のお母さん、それから、僕を好きで居続けてくれる幸一君によって、今が紡ぎ出されていることを感じる。
「あとは幸一と涼太君がどう思うかだったけれど、何も心配要らなかったね」
まだ抱き合っている僕たちを見て、幸一君のお父さんが微笑むから、僕は頷く。
「はい。大好きです。大好きなんです」
僕が言うと、嬉しそうに、幸一君のお父さんと、僕のお母さんが再び顔を見合わせる。
きっと僕が言った『大好き』は、友達とか、人としての『大好き』なのだと伝わったのだろうけれど。
僕は愛を込めた、幸一君への『大好き』を、皆に届ける。
この意味は一生、二人には伝わらなくていい。
ただ、大好きであるということが、伝わってくれたら良い。
僕は幸一君が大好きで、それから、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、大好きだった。
意味は違えど同じ『大好き』で、だから、それで、十分だった。
僕の背を強く抱き締めてくれる幸一君からの想いも、僕には確かに、届いている。
それから、いつお引越ししましょうか、色々手続きが大変ね、共に乗り越えていきましょう。
そんな二人の会話を聞きながら、僕はずっと、ずっと泣いていた。
嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったから。
病める時も、健やかなる時も、幸一君の傍に居ることを誓います。
何年経っても、僕たちが老いても、僕たちの親が、この世を去ってしまったとしても。
僕は、僕たちは、ずっと一緒に居ることを誓います。
だから神様、お願いです。
僕たちを地獄へ連れて行くのは、もう少し、いえ、かなり先まで、待っていてほしいです。
それから僕は、幸一君だけでなく、僕のお母さんと、幸一君のお父さんも、必ず幸せにして見せます。
だから、行き先は地獄でいいけれど、きっとどうか、幸一君と同じ地獄にしてください。
これから沢山、沢山徳を積みますから。
どうかどうか、見守っていてください。
そう胸の中で、どこかの神様へ、或いは自分自身へ、しっかりと誓う。
けれど、仲睦まじい二人を見ていたら、僕が小細工をするまでもなく、二人は惹かれ合い、人生を共にしていたのではないかなと思う。
でも僕がしたことも事実で、幸一君が『一緒に地獄に堕ちるか』と言ってくれたことも、僕の中の宝物で。
全て、今に繋がっている。
そして、これからに全部、繋がっているのだろう。
僕と幸一君は、高校二年生から、二人共苗字が『久保井』となった。
事情を知った周囲の人は、嘘だろ?ってかなりザワザワとしたけれど、僕たちには何一つ響かなかった。
可哀想に、だなんてとんでもない。
僕たちは、手に入れたのだ。
永遠に近い宝物を。
僕たちは、手に入れたのだ。
誰にも邪魔できない、揃いの苗字を。
僕たちは、手に入れたのだ。
地獄へと続く、素敵な片道切符を。
「大好き、幸一君」
「……俺も」
「そこは大好きって言ってよう」
「大好きだよ」
「ぐ……」
僕たちはきっと、ずっと一緒に居る。
大好きな僕たちのお父さんと、お母さんを大切にしたまま、きっと、ずっと、一緒に居る。
僕と、僕のお母さんと、幸一君と、幸一君のお父さんの四人は、春休みに集まって、大きな公園に桜を見に来ていた。
「咲いててよかった〜」
「綺麗ねぇ」
「風が良い」
「良い天気だな」
四者四様の感想を呟いて、僕はおにぎりに齧り付くつ。
今日は僕のお母さんがピクニックセットとして、沢山とおにぎりとおかずを作ってくれていた。
「あ、幸一君、それ僕が握ったやつだよ」
「なんで分かった」
「ふふ、ちょっと大きいからね!」
あと、ちょっと歪だからね!
笑いながら眺めていると、幸一君は大きく1口齧り付いて、僕を見て笑う。
「美味い」
「へへ」
それもそのはず。
だって、その混ぜご飯の味付けをしたのは僕のお母さんなのだから!
けれど、ちゃんと愛情を込めて握ったから、感想が貰えて嬉しい。
「涼太君も手伝ってくれたのか」
「はい、おにぎりを握って、ウインナーを焼きました!」
「そうか、ありがとう。とても美味しそうだ」
優しく微笑む幸一君のお父さんに、僕も僕のお母さんも微笑んで、食べる姿を見守る。
ベンチと、少しの遊具がある公園は、まだ他に人が居なくて、穏やかで平和だった。
風が吹くと沢山の桜の花びらが散るのに、桜の木はまだまだ全体がふっくらとしていて、一体何枚の花びらがあるのだろうと不思議に思う。
そんな僕を幸一君がじっと見ているから、幸一君が持つおにぎりに僕が焼いたウインナーを乗せると、笑ってちゃんと食べてくれた。
幸せだな、と思う。
皆笑顔で、とても幸せだと思う。
「二人に、相談したいことがある」
「え」
おにぎりもおかずも全部無くなって、遊具に遊びに行こうかな、とソワソワしていたら、幸一君のお父さんが話し始めて、向き直る。
「私は幸一も、涼太君も、それから、芽依さんのことも、幸せにしたいと思っている」
……芽依さん。
それは、僕の、お母さんのことで。
「家族に、ならないか」
「……か、ぞく」
僕が繰り返すと隣から、幸一君が飛び付いてくる。
「わあっ」
「はは、仲が良いな、本当に」
「涼太、涼太」
「こ、幸一君」
ちょっと濡れた幸一君の声に、僕も涙が出てくる。
ずっとずっと願っていた、家族になるという夢。
長いようで、早いようで、念願で、嬉しくて。
「僕たち、ずっと、兄弟になれたら、って、話して、たんです」
止まらない涙の中そう言うと、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、驚いた様子で顔を見合せていて。
「僕も、家族になりたいです」
「……俺も」
「ははは、はああ、そうか、良かった」
「……ありがとう、二人共」
泣きながら言う僕と、僕に抱き付いたまま言う幸一君。
それにほっとして笑う幸一君のお父さんと、涙ぐむ僕のお母さん。
ずっと、ずっと、願っていた。
例え行き先が地獄でも、僕は幸一君とずっと一緒に居たいと、願っていた。
それが今、正式に叶おうとしていて。
幸一君の背中を撫でながら、僕も幸一君を抱き締める。
「嬉しいです、嬉しい。本当に嬉しい」
そうして僕たちがあまりに喜ぶから、幸一君のお父さんがぽつりぽつりと話してくれる。
お正月に僕が言った、また皆でご飯が食べたいという言葉を聞いて、心から嬉しいと思ってくれたことを。
それから、僕のお母さんが言った、『一緒にご飯を食べられる時間も、もう残り少ないかもしれないものね』という言葉を聞いて、考えさせられたのだ、ということを。
「私は幸一と、長い期間すれ違いの生活を送っていた。そのことがどうしても心に残っていて、これからの時間は、何よりも大切にしたいと思っていた。そんな時に、とても嬉しい涼太君からの言葉を聞いたものだから、舞い上がってしまって」
ははは、と照れて笑う幸一君のお父さんに、僕も照れて微笑む。
あの願いは、また皆でご飯を食べたいという願いは、本当に僕の心から出たものだった。
だからそう言ってもらえるのは嬉しいし、何より、二人の後押しになったのなら、素晴らしいことだと思う。
「私は芽依さんにとっくに惹かれていたから、直ぐに話をさせてもらったよ。それから、家族になるのなら、早めが良いという話もね」
この話は、幸一君のお父さんの行動力の賜物なのだな、と思って感動する。
それから、ふと思い出した。
初めて会った時も、そうだったことを。
幸一君のお父さんは残業続きで、仕事以外に割く時間が全然なくて、けれどそれでも、幸一君のお父さんは無理矢理時間を空けて、有給を使って、僕たちと会ってくれた。
あの時も、幸一君のお父さんの行動力に感動していたことを、思い出したのだ。
あの日の会話や決め事があってこその今だし、あの日から今日までずっと、約束を守ってくれていた幸一君のお父さんや、料理を作り続けてくれた僕のお母さん、それから、僕を好きで居続けてくれる幸一君によって、今が紡ぎ出されていることを感じる。
「あとは幸一と涼太君がどう思うかだったけれど、何も心配要らなかったね」
まだ抱き合っている僕たちを見て、幸一君のお父さんが微笑むから、僕は頷く。
「はい。大好きです。大好きなんです」
僕が言うと、嬉しそうに、幸一君のお父さんと、僕のお母さんが再び顔を見合わせる。
きっと僕が言った『大好き』は、友達とか、人としての『大好き』なのだと伝わったのだろうけれど。
僕は愛を込めた、幸一君への『大好き』を、皆に届ける。
この意味は一生、二人には伝わらなくていい。
ただ、大好きであるということが、伝わってくれたら良い。
僕は幸一君が大好きで、それから、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、大好きだった。
意味は違えど同じ『大好き』で、だから、それで、十分だった。
僕の背を強く抱き締めてくれる幸一君からの想いも、僕には確かに、届いている。
それから、いつお引越ししましょうか、色々手続きが大変ね、共に乗り越えていきましょう。
そんな二人の会話を聞きながら、僕はずっと、ずっと泣いていた。
嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったから。
病める時も、健やかなる時も、幸一君の傍に居ることを誓います。
何年経っても、僕たちが老いても、僕たちの親が、この世を去ってしまったとしても。
僕は、僕たちは、ずっと一緒に居ることを誓います。
だから神様、お願いです。
僕たちを地獄へ連れて行くのは、もう少し、いえ、かなり先まで、待っていてほしいです。
それから僕は、幸一君だけでなく、僕のお母さんと、幸一君のお父さんも、必ず幸せにして見せます。
だから、行き先は地獄でいいけれど、きっとどうか、幸一君と同じ地獄にしてください。
これから沢山、沢山徳を積みますから。
どうかどうか、見守っていてください。
そう胸の中で、どこかの神様へ、或いは自分自身へ、しっかりと誓う。
けれど、仲睦まじい二人を見ていたら、僕が小細工をするまでもなく、二人は惹かれ合い、人生を共にしていたのではないかなと思う。
でも僕がしたことも事実で、幸一君が『一緒に地獄に堕ちるか』と言ってくれたことも、僕の中の宝物で。
全て、今に繋がっている。
そして、これからに全部、繋がっているのだろう。
僕と幸一君は、高校二年生から、二人共苗字が『久保井』となった。
事情を知った周囲の人は、嘘だろ?ってかなりザワザワとしたけれど、僕たちには何一つ響かなかった。
可哀想に、だなんてとんでもない。
僕たちは、手に入れたのだ。
永遠に近い宝物を。
僕たちは、手に入れたのだ。
誰にも邪魔できない、揃いの苗字を。
僕たちは、手に入れたのだ。
地獄へと続く、素敵な片道切符を。
「大好き、幸一君」
「……俺も」
「そこは大好きって言ってよう」
「大好きだよ」
「ぐ……」
僕たちはきっと、ずっと一緒に居る。
大好きな僕たちのお父さんと、お母さんを大切にしたまま、きっと、ずっと、一緒に居る。

