一緒に地獄に堕ちるか。

「明けましておめでとうございます!」
初詣から帰って寝た後、僕たちはまた、幸一君のお家で、今度は僕のお母さんと、幸一君のお父さんも交えて再会する。
僕のお母さんの実家、つまり僕のおばあちゃんのお家は割と近いところにあって、結構マメに会っているので、お正月は会うことを予定していなくて。
幸一君のお父さんのご実家は、遠いから新年の挨拶はビデオ通話でした、とのことだった。
だから僕たちは元旦早々に集まって、それぞれ挨拶を交わして、豪華なおせちをつつく。
僕のお母さんは何もしなくて良いよと言ったけれど、お雑煮を作って持ってきていて、食べるのは初めてだという幸一君が、興味津々でとても可愛かった。
きっと僕と、僕のお母さんと、幸一君のお父さんは同じ表情をして幸一君を見つめていたのだと思う。
幸一君が僕のお母さんと幸一君のお父さんの視線から逃れるように僕を見た後、僕に対しても呆れた顔をしていたから、そう思った。
おせちは四人で食べてもまだまだ残っていて、この量ならお料理教室の再開まで持ちそうですね、って僕のお母さんが笑う。
僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、三が日が明けるとお仕事再開とのことで、あれだけ願ったお仕事の再開も、いざ近くなってくると寂しくなるから困った。
「また皆でご飯、食べたいです」
思わず呟くと、シン、とするので焦る。
まだ欲深過ぎる願いだったかも、と思ったけれど、隣に座る僕のお母さんが、肩に手を置いてくれるので、その顔を見た。
「そうねぇ……一緒にご飯を食べられる時間も、もう残り少ないかもしれないものね」
「……え?」
どういう意味だろう、と不安に思うと、向かいで幸一君のお父さんが、腕を組むのが分かる。
「……仰る通り、大学や就職となると、こう簡単に全員が集まることは難しくなるかもしれませんね」
「あ……」
そっか、と思う。
僕は大学へ行くなら、お母さんと住むあのマンションから通うのだと考えていたけれど、確かに進路によっては、あのマンションを出て、何処か遠い所で、一人暮らしを始めるかもしれなくて。
就職だって、地元でできるとは限らなくて、確かに、本当に、四人で集まる機会は、もう残り少ないのかもしれない。
幸一君を見ると、幸一君も僕を見ていたけれど、その目は何を語っているのか、読み取ることができなかった。
クリスマスイブとは違って、少し重い空気になってしまって、僕は申し訳なく思う。
また皆で、という願いに嘘はないけれど、皆がそれぞれ物思いに耽っていて、静かだった。
「気付きをありがとう、涼太君」
「へ」
暫くして、腕組みを解いた幸一君のお父さんが、僕の目を真っ直ぐに見て、何故かお礼を言ってくれる。
それから席を立った幸一君のお父さんは、少しして、両手に紙袋を持って戻ってきた。
「これはお二人のおせちです。荷物になってしまうけれど、良ければ」
「えっ、そんな、宜しいんですか」
「はい。もう届いているので、食べなくては腐るだけです」
お茶目な言い方で幸一君のお父さんが言うから、僕も、僕のお母さんも笑って受け取る。
「それから玄関にミカンの箱もあります。後でお車に積みますね」
「は、箱……!?」
ミカンといえば、バラ売りか、五個くらい入ったセットしか見たことがない。
だから桁違いの規模感に驚いていると、幸一君が楽しそうに笑うから、ちょっと胸がきゅっとした。
きっと、僕の反応を楽しんでいるのだと思う。
幸一君にとってはもう当たり前の規模でも、僕にとってはやっぱり何度考えても、箱は大量だと思うのだ。
「消費が厳しければジャムにでも。私たちは最後の方、ジュースにしています」
「なるほど……!」
その手があった、と思う。
料理に関しては僕のお母さんがプロだから、きっと問題ないと思う。
けれど、ではお暇しますね、と挨拶をして、廊下に出ると、玄関に三箱積まれていたのでたまげた。
「さっ、三箱!」
「これでも控え目だぞ」
「ええっ」
幸一君のおじいちゃんとおばあちゃん、恐るべし。
ミカンの箱は幸一君と、幸一君のお父さんにも手伝ってもらいながら車へと運び込む。
新年早々、思わぬ重労働に皆笑って、楽しく解散した。
「ミカン楽しみだね、何作る?」
「そうねぇ、仰っていたジュースにジャム、それからコンポート、あとはゼリーに……」
「わあ」
思っていた数倍の返事が返ってきて、驚くと共に笑う。
大量のミカンを前にして、お母さんの料理魂に火が着いたみたいで、ちょっと面白かった。
帰るとヘトヘトになりながら僕がミカンを運んで、お母さんは早々にエプロンを着けていたので笑う。
剥いた一つ目はそのまま食べて、その甘さに二人でとても驚いた。
大袈裟なんかじゃなく、こんなに甘いミカンは初めてだったのだ。
「これだけでデザートみたいね」
「ね!そのくらい甘い……!」
煮詰めるとどうなるのだろう。
冷やすとどうなるのだろう。
気になった全部を試してもまだ残りそうなミカンを前に、僕とお母さんは時間も忘れて、ひたすらミカンを剥いていた。

「これ、ミカンジャムと、ミカンの皮のピール」
「ぴーる?」
「うん、お砂糖で煮詰めて、乾燥させたやつ」
「へええ」
この二つは、お正月がミカン祭りだった僕とお母さんの、二人で作った力作だった。
三が日が明けて、僕のお母さんと幸一君のお父さんのお仕事が始まったから、僕は幸一君のお家にお邪魔して、手土産として幸一君にミカンセットを渡していた。
「ミカン本当に甘くて美味しかった。おせちも、本当にありがとう」
「うん、伝えておく」
「ありがとう」
いつも感謝を預かる側の僕が、伝える側なのは少し新鮮で嬉しい。
それから、ぎゅっと抱き付くと、幸一君も力強く抱き締め返してくれるから、ようやく息ができるような心地になる。
「幸一君だ。僕寂しかった」
「ん」
「幸一君も寂しかった?」
「……ん」
小さな肯定が聞こえてきて、嬉しくなって、近くの首筋にキスをする。
少しだけ反応した幸一君に気を良くして、更にキスしようとすると、押し留められるので、むっとした。
「なあに」
「瓶落とす」
「ふふ」
それは危ないね、って納得して離れると、幸一君は冷蔵庫にジャムを入れに行く。
だからその場で待っていたら、リビングから出てきた幸一君が、手を差し出すので素直に近寄った。
「いっぱいして」
「……」
ずっと言いたかったことを言うと、固まった幸一君は、その後しっかり僕の手を握って、幸一君のお部屋まで連れて行ってくれる。
その手の力強さが答えであり、ちょっと煽りすぎちゃった、と後悔した点でもあった。
もういいって言っても離してくれなくて、結局徹夜で課題をする羽目になってしまったから。
二人で手分けてして問題を解いて、分かった答えをメッセージでどんどん送り合っていくのは、少し、楽しかったけれど。