『新入社員の子と親睦を深めるために、仕事終わりにご飯に行くことになりました。今日は夕飯は大丈夫です』
大学の講義の最中に、陽向さんからそんなメッセージが来ていた。
仕事終わりに、同僚とご飯。陽向さんがお酒を飲むところを見たことがないけど、きっとこういう場では飲むんだろうな。いかにも社会人って感じがして、なんだか大人っぽい。
上京して同居を始めてから、毎日陽向さんのために夕飯を用意していたけど、今日は初めてのお休みだ。ゆっくり過ごそう。
大学から家の最寄り駅まで帰ってきたあたしは、いつも通りスーパーに入った。今日は揚げ物が安い日。二人分のコロッケを買い物かごに入れてから、今日は陽向さんがいないということを思い出して、一つだけ元に戻した。
家に帰ったあたしは手持ち無沙汰だった。炊飯器をセットした後、ソファに寝転んで動画を見ていたけど、どうにも張り合いがない。スマホを閉じたあたしは、ソファから起き上がってキッチンに立った。
味噌汁くらいは作ろう。明日の朝食にもなる。鍋を火にかけると、その音だけが静かな部屋に響いた。
「いただきます」
夕飯を用意し終えたあたしは、いつも通り動画を見ながら一人で食べた。陽向さんはいつも帰りが遅い。社会人って大変なんだなあ……。
その後、お風呂に入り終えて時計を見ると、夜の八時。いつもなら陽向さんが返ってくる時間だった。でも、今日はまだ帰ってこない。今頃、会社の人と楽しく過ごしているんだろうな。
パックをしたり、スマホでパズルゲームに興じたり、なんとなく机を掃除してみたり。時刻は九時を回っていた。
陽向さんがいないと、部屋が静かだ。スマホから音は鳴っているのに。
ふと、テレビが付いていないことに気が付いた。あたし一人ではテレビを見ないけど、陽向さんは常にテレビを付けている。テレビの電源を入れると、ニュースが流れ始めた。キャスターが真剣な顔で経済の話をしているけど、ちっとも頭に入ってこない。リモコンを片手に、チャンネルを次々と変える。この行為をザッピングと呼ぶことを、陽向さんに教わった。でも、食指が動く番組がなかったので、また消してしまった。
あーあ、早く帰ってこないかな。時計を見ると、十時を過ぎていた。スマホを確認するものの、陽向さんからのメッセージは来ていない。え、遅くない? それともこんなもの?
あたしはだんだん心配になってきた。連絡も全然ないし、トラブルとかに巻き込まれていないといいけど。あたしから連絡してみた方がいいのかな。ああ、でも会社の人とのご飯中に邪魔したら悪いよね……。あたしはモヤモヤが止まらなくて、ソファにお尻を押し付けてギシギシ鳴らした。
やめやめ。考えすぎ。陽向さんのことなんて、もう知らないっと。
それから少しして、がちゃり、という音が玄関から聞こえてきて、あたしは背筋を伸ばした。
ああ! ようやく帰ってきた!
陽向さんが鞄を置いて靴を脱ぐ音がリビングまで伝わってくる。
安心して笑顔になったものの、時刻が十時半だったのを見たら、真顔に戻ってしまった。
「ただいまー」
帰宅した陽向さんは、なんだかいつもよりもへらへらしているように感じた。お酒のせいかな。
「……お帰りなさい」
もう、帰りの連絡の一つくらいくれればいいのに。酔っているのかご機嫌で、ちょっと汗ばんだ陽向さんを見たら、あたしはつい拗ねた態度をとってしまった。
「あたし、もう寝ますね」
「うん、しっかり寝て体を休めなよ」
寝室のベッドに潜り込んだあたしはスマホを開き、陽向さんから来たメッセージを何気なく見返した。
『今日は夕飯は大丈夫です』
あたしはため息をついてスマホを伏せた。ああ、ひとこと言ってやればよかった。いつまで待てばいいかわからないから、帰るときは連絡くださいって。でも、ただの居候であるあたしに、そんなことを言う権利はないかもしれないな。
ドアの下の隙間からは明かりが漏れていた。その向こうから、リビングでガサゴソする陽向さんの音が聞こえてくる。あたしは目を閉じて、その音をじっくりと聞きながら眠ることにした。
大学の講義の最中に、陽向さんからそんなメッセージが来ていた。
仕事終わりに、同僚とご飯。陽向さんがお酒を飲むところを見たことがないけど、きっとこういう場では飲むんだろうな。いかにも社会人って感じがして、なんだか大人っぽい。
上京して同居を始めてから、毎日陽向さんのために夕飯を用意していたけど、今日は初めてのお休みだ。ゆっくり過ごそう。
大学から家の最寄り駅まで帰ってきたあたしは、いつも通りスーパーに入った。今日は揚げ物が安い日。二人分のコロッケを買い物かごに入れてから、今日は陽向さんがいないということを思い出して、一つだけ元に戻した。
家に帰ったあたしは手持ち無沙汰だった。炊飯器をセットした後、ソファに寝転んで動画を見ていたけど、どうにも張り合いがない。スマホを閉じたあたしは、ソファから起き上がってキッチンに立った。
味噌汁くらいは作ろう。明日の朝食にもなる。鍋を火にかけると、その音だけが静かな部屋に響いた。
「いただきます」
夕飯を用意し終えたあたしは、いつも通り動画を見ながら一人で食べた。陽向さんはいつも帰りが遅い。社会人って大変なんだなあ……。
その後、お風呂に入り終えて時計を見ると、夜の八時。いつもなら陽向さんが返ってくる時間だった。でも、今日はまだ帰ってこない。今頃、会社の人と楽しく過ごしているんだろうな。
パックをしたり、スマホでパズルゲームに興じたり、なんとなく机を掃除してみたり。時刻は九時を回っていた。
陽向さんがいないと、部屋が静かだ。スマホから音は鳴っているのに。
ふと、テレビが付いていないことに気が付いた。あたし一人ではテレビを見ないけど、陽向さんは常にテレビを付けている。テレビの電源を入れると、ニュースが流れ始めた。キャスターが真剣な顔で経済の話をしているけど、ちっとも頭に入ってこない。リモコンを片手に、チャンネルを次々と変える。この行為をザッピングと呼ぶことを、陽向さんに教わった。でも、食指が動く番組がなかったので、また消してしまった。
あーあ、早く帰ってこないかな。時計を見ると、十時を過ぎていた。スマホを確認するものの、陽向さんからのメッセージは来ていない。え、遅くない? それともこんなもの?
あたしはだんだん心配になってきた。連絡も全然ないし、トラブルとかに巻き込まれていないといいけど。あたしから連絡してみた方がいいのかな。ああ、でも会社の人とのご飯中に邪魔したら悪いよね……。あたしはモヤモヤが止まらなくて、ソファにお尻を押し付けてギシギシ鳴らした。
やめやめ。考えすぎ。陽向さんのことなんて、もう知らないっと。
それから少しして、がちゃり、という音が玄関から聞こえてきて、あたしは背筋を伸ばした。
ああ! ようやく帰ってきた!
陽向さんが鞄を置いて靴を脱ぐ音がリビングまで伝わってくる。
安心して笑顔になったものの、時刻が十時半だったのを見たら、真顔に戻ってしまった。
「ただいまー」
帰宅した陽向さんは、なんだかいつもよりもへらへらしているように感じた。お酒のせいかな。
「……お帰りなさい」
もう、帰りの連絡の一つくらいくれればいいのに。酔っているのかご機嫌で、ちょっと汗ばんだ陽向さんを見たら、あたしはつい拗ねた態度をとってしまった。
「あたし、もう寝ますね」
「うん、しっかり寝て体を休めなよ」
寝室のベッドに潜り込んだあたしはスマホを開き、陽向さんから来たメッセージを何気なく見返した。
『今日は夕飯は大丈夫です』
あたしはため息をついてスマホを伏せた。ああ、ひとこと言ってやればよかった。いつまで待てばいいかわからないから、帰るときは連絡くださいって。でも、ただの居候であるあたしに、そんなことを言う権利はないかもしれないな。
ドアの下の隙間からは明かりが漏れていた。その向こうから、リビングでガサゴソする陽向さんの音が聞こえてくる。あたしは目を閉じて、その音をじっくりと聞きながら眠ることにした。



