「陽向さん……」
「うん」
「今日も、いいですか……?」
「い、いいよ……」
ソファに座った私が了承すると、葵ちゃんは私の隣に座ってすり寄り、頭を肩に預けてきた。
葵ちゃんが合意などと言い出して以降、こういうことが続いている。
二人とも黙りこくって、お互いの体温を感じている。葵ちゃんはあんなに細い体をしているのに、触れ合う肌はもちもちしていて柔らかい……。
いやこれヤバいな!
心の中では「どんと来い!」なんて息巻いてみたものの、いざ葵ちゃんのスキンシップを受け入れてみると、私の心臓はすぐに限界を迎えた。
でも最低限の理性は残っていた。心頭滅却、諸行無常、悪霊退散……。私は脳内で四字熟語を唱えることで、葵ちゃんの柔らかさとか甘い匂いをなるべく感じないように努めた。
ところが今日は、四字熟語の隙間を縫って葵ちゃんの声が耳に入ってきた。
「あの、陽向さん……」
「は、はい。なんでしょう……」
「いつも思ってたんですけど」
葵ちゃんは頭を私に預けたまま、とろんとした上目遣いで言った。
「陽向さんって……いい香りがしますよね」
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
私は葵ちゃんを勢いよく引きはがし、両肩に手を乗せて言った。
「葵ちゃん!」
「は、はい……」
「ここここれ以上はマズいと思うな!」
すると葵ちゃんは顔面蒼白になった。
「す、すみません、あたし、調子に乗って……陽向さん、嫌な気持ちにさせて……」
「違うの違うの! 嫌では、ないんだけれども!」
私は上気して叫んだ。
「忘れちゃったかな? 私はレズビアンなの。女の子が恋愛対象なの。葵ちゃんのことが大好きなの。好きな子にそうやってすり寄られると、あのね、その……高まっちゃうの!」
葵ちゃんは驚いた様子で私のことを見た。
「だからね、これ以上は、葵ちゃんのためにも、よくないというか、そう、私も自制できなくなるというか……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
言葉を遮られた私は、少しだけ気を取り直して葵ちゃんを見た。葵ちゃんは真っ赤な顔で目を丸くしていた。
「え、陽向さん……」
葵ちゃんは何かを言おうとして、声にならずに口があわあわと動いている。
「ひな、陽向さんは……」
「な、なんでしょう……?」
「あたしのことが、好きなんですか……?」
時が止まった。
世界から音が消えた。
経験したことがないほどの衝撃で、目の前が真っ暗になった。
なんで、なんでそうなった。隠していたはずの気持ちが、なぜ……。
少しずつ、私の元に世界が帰ってきた。時計の秒針の音が聞こえてきて、時が動き出したことがわかった。
なるべく冷静であろうと努めて状況を確認する。
「……どうして、そう思ったの?」
「いや、あの、今、陽向さんがそう言いました。『葵ちゃんのことが大好き』って……」
「え」
私は慌てて脳内で時を戻した。まさか、そんなことは……。
――葵ちゃんのことが大好きなの。好きな子にそうやってすり寄られると、あのね、その……高まっちゃうの!
……うん、確かに言ってた。しかも「高まっちゃう」とかいうほぼセクハラな単語とともに。
終わった……。
自爆によって撃沈した私は天を仰いだ。ああ、もうダメだ。もう取り繕うことができない。
「あの……本当にごめんなさい。ノンケの葵ちゃんのことをそんな目で見てしまって……」
「え! いや、あの、そのことなんですけど……」
葵ちゃんはもじもじして言った。
「実は、最近判明したことがありまして……あたしもレズビアンらしいんです」
「…………え?」
二度目の衝撃だった。まさか、葵ちゃんが……⁉
そして、私はすぐに事態を理解して息を飲んだ。
「ちょっ、待って待って。自分の性的指向がわかったってことはさ……きっと好きな人ができたんだね?」
「あの……はい」
「それでさ、私にくっつきたいってさ、もしかして……」
「ええ……その……」
葵ちゃんは両手で顔を覆った。
「好きに、なっちゃったんです。陽向さんのこと……」
「えええ……⁉」
あまりにも信じられない。私は顔を真っ赤にして、手で口を覆った。
「葵ちゃんは、私のことが好きなの……⁉」
「は、はい……」
「え、葵ちゃんは私のことが好きなの⁉」
「二回も言わないでください……」
私たちは赤面して向かい合った。
「えっと、つまり、あれだよね、両想い……」
「そういうことですね……」
「うわあ……」
嬉しさと恥ずかしさでいっぱいだ。
「陽向さん……両想いなんですよね、あたしたち」
「うん、今そう言ったね」
「じゃあ、じゃあ……付き合っちゃったり、するんですか?」
「ふびゅ」
驚きすぎて人間とは思えない声が出てしまった。
つ、付き合う‼
私と、葵ちゃんが、付き合う‼
「そんな、い、いいの⁉」
「そりゃあ、あたしは、好きな人と付き合いたいですから……その、陽向さんが嫌でなければ」
「は、は、私も、つ、付き合いたい、付き合いたいなあ……」
私は急に気が抜けたような口調になってしまい、それを聞いた葵ちゃんは吹き出した。
「ふふっ、なんですかそれ。あの、あたしは、陽向さんと、付き合いたいです。……よければ、合意してもらえませんか?」
「はっ、合意……。し、します! 合意します!」
「うふふ、これからよろしくお願いします」
「うん‼ うん‼」
こうして、私たちは同居人という関係を卒業し、晴れて恋人同士となったのであった。
ところが。
「あの、陽向さん。付き合うって、何すればいいんですかね……?」
「そ、そうね、私も経験がなくて、よくわかんないかも……」
さっきまでソファで触れ合っていたはずなのに、お互いの関係性を意識したらどうすればいいのかわからなくなってしまった。
私たちはそわそわして、困った顔で見つめ合った。葵ちゃんは困り顔も可愛いなあ、なんて、考えてる場合じゃないよね……。
「あ!」
すると、葵ちゃんは何かを思い付いたらしく、顔をほころばせた。
「あたし、こういうことが相談できる人がいます……!」
「うん」
「今日も、いいですか……?」
「い、いいよ……」
ソファに座った私が了承すると、葵ちゃんは私の隣に座ってすり寄り、頭を肩に預けてきた。
葵ちゃんが合意などと言い出して以降、こういうことが続いている。
二人とも黙りこくって、お互いの体温を感じている。葵ちゃんはあんなに細い体をしているのに、触れ合う肌はもちもちしていて柔らかい……。
いやこれヤバいな!
心の中では「どんと来い!」なんて息巻いてみたものの、いざ葵ちゃんのスキンシップを受け入れてみると、私の心臓はすぐに限界を迎えた。
でも最低限の理性は残っていた。心頭滅却、諸行無常、悪霊退散……。私は脳内で四字熟語を唱えることで、葵ちゃんの柔らかさとか甘い匂いをなるべく感じないように努めた。
ところが今日は、四字熟語の隙間を縫って葵ちゃんの声が耳に入ってきた。
「あの、陽向さん……」
「は、はい。なんでしょう……」
「いつも思ってたんですけど」
葵ちゃんは頭を私に預けたまま、とろんとした上目遣いで言った。
「陽向さんって……いい香りがしますよね」
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
私は葵ちゃんを勢いよく引きはがし、両肩に手を乗せて言った。
「葵ちゃん!」
「は、はい……」
「ここここれ以上はマズいと思うな!」
すると葵ちゃんは顔面蒼白になった。
「す、すみません、あたし、調子に乗って……陽向さん、嫌な気持ちにさせて……」
「違うの違うの! 嫌では、ないんだけれども!」
私は上気して叫んだ。
「忘れちゃったかな? 私はレズビアンなの。女の子が恋愛対象なの。葵ちゃんのことが大好きなの。好きな子にそうやってすり寄られると、あのね、その……高まっちゃうの!」
葵ちゃんは驚いた様子で私のことを見た。
「だからね、これ以上は、葵ちゃんのためにも、よくないというか、そう、私も自制できなくなるというか……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
言葉を遮られた私は、少しだけ気を取り直して葵ちゃんを見た。葵ちゃんは真っ赤な顔で目を丸くしていた。
「え、陽向さん……」
葵ちゃんは何かを言おうとして、声にならずに口があわあわと動いている。
「ひな、陽向さんは……」
「な、なんでしょう……?」
「あたしのことが、好きなんですか……?」
時が止まった。
世界から音が消えた。
経験したことがないほどの衝撃で、目の前が真っ暗になった。
なんで、なんでそうなった。隠していたはずの気持ちが、なぜ……。
少しずつ、私の元に世界が帰ってきた。時計の秒針の音が聞こえてきて、時が動き出したことがわかった。
なるべく冷静であろうと努めて状況を確認する。
「……どうして、そう思ったの?」
「いや、あの、今、陽向さんがそう言いました。『葵ちゃんのことが大好き』って……」
「え」
私は慌てて脳内で時を戻した。まさか、そんなことは……。
――葵ちゃんのことが大好きなの。好きな子にそうやってすり寄られると、あのね、その……高まっちゃうの!
……うん、確かに言ってた。しかも「高まっちゃう」とかいうほぼセクハラな単語とともに。
終わった……。
自爆によって撃沈した私は天を仰いだ。ああ、もうダメだ。もう取り繕うことができない。
「あの……本当にごめんなさい。ノンケの葵ちゃんのことをそんな目で見てしまって……」
「え! いや、あの、そのことなんですけど……」
葵ちゃんはもじもじして言った。
「実は、最近判明したことがありまして……あたしもレズビアンらしいんです」
「…………え?」
二度目の衝撃だった。まさか、葵ちゃんが……⁉
そして、私はすぐに事態を理解して息を飲んだ。
「ちょっ、待って待って。自分の性的指向がわかったってことはさ……きっと好きな人ができたんだね?」
「あの……はい」
「それでさ、私にくっつきたいってさ、もしかして……」
「ええ……その……」
葵ちゃんは両手で顔を覆った。
「好きに、なっちゃったんです。陽向さんのこと……」
「えええ……⁉」
あまりにも信じられない。私は顔を真っ赤にして、手で口を覆った。
「葵ちゃんは、私のことが好きなの……⁉」
「は、はい……」
「え、葵ちゃんは私のことが好きなの⁉」
「二回も言わないでください……」
私たちは赤面して向かい合った。
「えっと、つまり、あれだよね、両想い……」
「そういうことですね……」
「うわあ……」
嬉しさと恥ずかしさでいっぱいだ。
「陽向さん……両想いなんですよね、あたしたち」
「うん、今そう言ったね」
「じゃあ、じゃあ……付き合っちゃったり、するんですか?」
「ふびゅ」
驚きすぎて人間とは思えない声が出てしまった。
つ、付き合う‼
私と、葵ちゃんが、付き合う‼
「そんな、い、いいの⁉」
「そりゃあ、あたしは、好きな人と付き合いたいですから……その、陽向さんが嫌でなければ」
「は、は、私も、つ、付き合いたい、付き合いたいなあ……」
私は急に気が抜けたような口調になってしまい、それを聞いた葵ちゃんは吹き出した。
「ふふっ、なんですかそれ。あの、あたしは、陽向さんと、付き合いたいです。……よければ、合意してもらえませんか?」
「はっ、合意……。し、します! 合意します!」
「うふふ、これからよろしくお願いします」
「うん‼ うん‼」
こうして、私たちは同居人という関係を卒業し、晴れて恋人同士となったのであった。
ところが。
「あの、陽向さん。付き合うって、何すればいいんですかね……?」
「そ、そうね、私も経験がなくて、よくわかんないかも……」
さっきまでソファで触れ合っていたはずなのに、お互いの関係性を意識したらどうすればいいのかわからなくなってしまった。
私たちはそわそわして、困った顔で見つめ合った。葵ちゃんは困り顔も可愛いなあ、なんて、考えてる場合じゃないよね……。
「あ!」
すると、葵ちゃんは何かを思い付いたらしく、顔をほころばせた。
「あたし、こういうことが相談できる人がいます……!」



