「池田くん、お菓子」
参加賞のお菓子セットを渡しても、池田くんは不機嫌なままだった。
せっかく肝試しにやる気を出していたのに、ギリギリになって先生から「池田はノーカンな」と言われてしまったらしい。
どうやら昼間連れて行かれた先生の手伝いというのは、肝試しの準備だったらしく、池田くんはほとんどの謎の答えを事前に知っていたことになる。
でも、池田くん本人はそのことに気がついていなかったから、訳もわからずノーカン扱いされたとムッとしていた。
「池田くん、お菓子もらったんだから良しにしようよ」
「そっちは何位だった?」
「28位」
「微妙……」
「だよね。謎はミラクルな感じですぐに解けたんだけど」
多分、葉月くんと2人して順位を競ってることなんてすっかり忘れて、カラオケに行ったら何を歌うか、なんて話をしながらゆっくり歩いて帰っちゃったから……
自分の分のお菓子セットの中から、うまい棒を取り出して、池田くんに差し出した。
「うまい棒のチーズ味あげるから、機嫌直して」
「何でチーズ味?」
「え? 1番美味しいのもらったら嬉しくなるでしょ?」
「いや、1番はメンタイコだろ」
「チーズだよ」
「メンタイコ」
スマホでうまい棒ランキングを検索したら、1位がコーンポタージュ味だったことに、2人してショックを受けた。
そんなふうに池田くんとずっと話していたから、いつの間にか瑛里華と葉月くんがいなくなってることに気がつかなかった。
それで池田くんと別れた後、ひとりで女子部屋に向かっていると、同中の日和がわたしを見つけてかけって来た。
日和は中2、中3と同じクラスで、同じグループだった子。
「真優! どうだった?」
「お菓子もらった」
「同じ」
「ねぇ、うまい棒の1番美味しいのって何味だと思う?」
「たこ焼き」
「たこ焼き? チーズじゃなくて?」
「たこ焼きだよ?」
「うまい棒ランキングはコーンポタージュ味だった」
「それは違うよ! たこ焼きだって。そのランキング間違ってるって」
「やっぱりそうだよね」
噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかわからない話をしていると、急に日和は周りをきょろきょろしてから小声で言った。
「ねぇ、葉月くん、真優のクラスだよね? 誰とペア組んでたの?」
それを聞かれて、笑みを見せてしまった。
「まさか!」
「そのまさかですけど」
「で、どうだった?」
「え? どうって? 普通」
自分でそう答えておきながら、本当のところ「普通」が何なのかよくわからない。
「普通」って何だろう?
葉月くんが女の子と2人になった時、どんな話をしているのか知らない。
わたしが知ってるのは、クラスで何人かの女の子に囲まれて話してるとこや、瑛里華と話してるとこくらいで……
「まぁ、葉月くんには堀北さんがいるもんねー。やっぱりあの2人付き合ってるの?」
「付き合ってないと思うよ」
「みんなに隠れて付き合ってるとか」
「そんなことないと思うけど」
もし、付き合ってたら、瑛里華は教えてくれるんじゃないかと、何となくだけど思うし。
そんな話をしていると、日和のクラスの子が日和を呼びに来たので、話は終わってしまった。
部屋に戻ると、先に戻っていた子達が布団を敷いていて、慌てて手伝った。
「ごめんね。ちょっと他のクラスの子と話してて戻るの遅くなっちゃた」
「いいよー。みんなでやってたからすぐだったし」
部屋の中にも瑛里華はいない。
「瑛里華知らない?」
「藤代さんと一緒なんだと思ってたんだけど、違ったの?」
「うん」
シーツを敷き終わってから、瑛里華を探すために部屋を出た。
食堂で姿を見かけなかったから先に帰って来ちゃったけど、もしかしたら、どこかでわたしのことを待ってるのかもしれないと思った。
でも、食堂はもう施錠されていて、その近くにも瑛里華はいなかった。
だれかと話し込んでるのかと思って、3つある女子部屋を全部覗いてみたけれど、やっぱり瑛里華はいなくて、部屋を出たところで昼間洗い場で会った子たちとばったり鉢合わせしてしまった。
「……新見くん、なんで堀北なんか……」
「……告っても……」
新見くん?
告る?
会話の前後は聞きとれなかったけど、誰かが告ったってこと?
誰が? 誰に?
すれ違う時、その中の1人は泣いていた。
階段のところまで来た時だった。
話声が聞こえて立ち止まった。
瑛里華の声、と、もう1人。
「真優には知られたくない」
「わかった。言わない」
「ごめんね」
「いいよ」
そっと、階段の手すりに隠れながら覗くと、屋上に続くドアの前にいたのは瑛里華と葉月くんで……
声なんてかけられない雰囲気。
そっとその場を立ち去った。
部屋へ戻ってから、みんなで昨日見たドラマの話とか、好きなアイドルの話とか、とにかく話し続けた。
消灯の時間が近づいた頃、ようやく瑛里華は戻ってきた。
今までずっと葉月くんと一緒だったんだ。
わたしに知られたくない話って何?
そのことを考えると、うまく笑えない気がして、「疲れたぁ、眠ーい」なんて言いながら布団に入った。
頭の中でいろんなことがぐるぐるとして、目を閉じても全然眠れなかった。
みんながいる時は大丈夫だったけど、帰りのバスは瑛里華と隣の席で……
上手く話せない。
瑛里華の方もなんだかよそよそしい気がする。
ずっと黙ってたから、前の席の子達が話すのが全部聞こえてしまった。
「……じゃあ、告ったの?」
「うん。肝試しでなんかいい雰囲気になって」
「それで?」
「向こうもわたしのこと気になってたって言ってくれて」
「嘘っ。じゃあ、OKってこと?」
「うん」
「すごーい。良かったじゃん」
なんだ、呪いなんてやっぱりただの噂じゃん。
何だかこんな話ばっかり聞いてる気がする。
そんなふうに思いながら、ふと、昨日聞いてしまった瑛里華と葉月くんの会話が頭に浮かんでしまった。
瑛里華と葉月くんって、もしかして付き合い始めた……とか?
頭の中がモヤモヤしてきて下を向いてしまった。
「真優? 気分悪い?」
「え?」
瑛里華が心配そうな顔をしてわたしを見ている。
「あ、大丈夫だよ」
「ごめんね。行きもわたしが窓際に座らせてもらったのに、帰りも座っちゃって。席変わろう」
「違うよ、大丈夫だって」
「変わる!」
瑛里華に言い切られて、席を変わった。
「外のね、近くじゃなくて、遠くを見てたらいいんだって。お茶飲む? 眠る? あ! 酔い止め持ってる。すぐ効くやつ。リュックの中にあるから――」
わたしのことを一生懸命心配してる瑛里華を見て、やっぱり瑛里華のこと好きだなぁ、って思った。
わたしは葉月くんが好きで、瑛里華のことも好きで、そんな2人がもし付き合ったとしても、それは好きが2倍になるだけ。
「瑛里華ぁ」
そう言って、わたしは瑛里華の腕に自分の腕を絡めた。
「離してくれないと酔い止めとれないよ?」
「もう大丈夫。瑛里華とこうしてたら治る」
瑛里華は「へへ」と嬉しそうな顔をしてわたしを見た。
バスを降りて、解散になったところで同じクラスの男子から「おいっ! じゃない方!」と呼ばれ、振り向いてしまった。
「何?」
と、つい返事までしてしまった。
「名前を覚えてやるもんか」は、わたしのところまで来ると、リュックの中をゴソゴソして、中からうまい棒を取り出した。
「やる」
「何で?」
「昨日、池田とチーズ味好きって話してるの聞こえたから。オレもチーズ味は悪くないと思う」
「名前を覚えてやるもんか」は立ち去るわけでもなくその場に立ったままでいる。
「えっと……そっちは何が好き?」
「納豆」
「な、納豆?」
「そ。じゃあな」
「あ、ありがとう、新庄くん」
思わず「名前を覚えてやるもんか」の名前を呼んでしまった。
昨日、池田くんにチーズ味をあげてしまったけれど、チーズ味が返ってきたみたいな?
もらったチーズ味をリュックに入れて、顔を上げたら、今度は目の前に葉月くんが立っていた。
「新庄に何もらってた?」
「チーズ味のうまい棒。わたしが好きなの聞いたからって」
「ふうん」
ちょっと不機嫌?
葉月くんのこういうのってめずらしい気がする。
「手出して」
手?
葉月くんの前に手を出すと、「両手」と言われ、両手を差し出すと、5本のうまい棒をのせられた。
全部チーズ味。
「あげる」
え?
何で?
「こんなに? いいの?」
「俺の勝ちでしょ」
「勝ち」って何が?
「あ、ありがとう」
「じゃあ、また学校で」
葉月くんの姿が見えなくなって、自分の手の上のうまい棒をじっと見た。
えーーーーーーーっ?
これ、何?
うまい棒だけど。
「勝ち」って何が?
うまい棒だし。
先生は「お菓子セットの中のうまい棒の種類はランダム」と言っていた。
だから、みんながチーズ味をもらったわけじゃない。
でも葉月くんがくれたのは全部チーズ味。
瑛里華のことは? 付き合ってるんじゃないの?
いやいや、ただうまい棒くれただけだし。
うまい棒だよ。
葉月くん……瑛里華がいながら……実は悪いやつ?
いやいや、たかがうまい棒くれただけだし……
これ何?
だからうまい棒なんだけど。
葉月くん、わたしがチーズ味好きなのどうして知ってるの?
わかんないっ!


