夜ご飯は食堂で食べて、順番にお風呂に入った。
お風呂に入ってから肝試しだったから、一部の女の子達から不満の声が上がっていた。
せっかくお風呂に入ったのに、また外に出たら汗とか出ちゃうから、ということだったけれど、私はお風呂→肝試しの順番で心から良かったと思っていた。
ご飯の後、お風呂までの時間に、誰と組むか話し合って、池田くんと瑛里華、葉月くんとわたしがペアになったから!
肝試しの集合時間に食堂へ集まると、先生から説明があった。
「ペアごとにクジを引いて、そこに書かれた物を探し出して持って帰ったら終了でーす。早く帰って来たグループは明日の片付けが免除されますので、がんばってください」
池田くんが、「ほらな」と得意げに言った。
1組から順番にスタートしていくのを並んで待つ。
「わたし、こういうのあんまり得意じゃない……」
瑛里華が池田くんに言うと、池田くんは余裕の笑みを見せた。
「まぁ、どーにも歩けなかったら、オレが担いで行ってやるよ」
冗談なのか本気なのかわからなかったけど、本当にしそう。
お姫様抱っこじゃなくて、担ぐってとこが池田くんっぽい。
「くじひいて」
並んでいる生徒のところへ順番に先生がくじの箱を持って回っていた。
このくじの箱、どこかで見たことがあると思ったら、木崎先生が持っていたのと同じだ。
「藤代ひいて」
そう言われて、箱の中に手を入れて、折りたたんである紙を一枚とった。
紙を広げると、中に「つよいいし」と書かれていた。
「謎解き?」
「そういうことか。だからそこまで間隔開けずに次々スタートするんだ」
「これは池田くんから聞いてなかったの?」
「去年は数学の問題で、答えの数字が隠されているのを探したって聞いてた」
「2人で答えを話し合うようにしてるんだね」
「何だろこれ……」
気にしてないって言ってたけど、やっぱりあの噂があるから、葉月くんは瑛里華とじゃなくわたしとペアなのかな、とかちょっと考えてしまう。
『一緒に回った男女のペアは呪いで結ばれない』
でも、結ばれるとか結ばれないとか、そんなの他人が決めることじゃないって思い直した。
わたしの横には葉月くんがいて、課題をクリアするまでは2人きりなんだから。
前のペアと少し時間を空けてからスタートとなった。
でも、そんなに間隔が空いてるわけじゃないから、何か話してても聞こえないけど、前を歩く人の姿は見えている。
スタート地点から目的の建物に向かって、一本道をしばらく歩いたところで、葉月くんが言った。
「藤代は、幽霊とかジンクスとか信じないタイプ?」
「そうかも」
「良かった。俺も信じない人」
ガサッという音がして、何かの動物が前を横切った。
「うわっ!」
葉月くんは驚いた声を出すと、すぐに恥ずかしそうな顔をした。
「ちょっと、俺だけビビるとか、今の恥ずい」
「わ、わたしもびっくりしたよ。びっくりしすぎて声が出なかっただけで」
「いいよ、気を使わなくても」
「きゃあ」とか言って、しがみつくようなキャラだったら良かった。
でも、きっと、そんなことしたら葉月くん、困ってたよ?
「瑛里華、大丈夫かなぁ?」
「勇がいるから大丈夫だよ。あいつの怖いものって、親父だけだから。多分幽霊見ても動じないと思う」
「そうなんだ」
急に葉月くんが立ち止まった。
「じっとして」
「何?」
トクンっと心臓が鳴った気がした。
「少しだけ動かないで」
葉月くんの視線の先を見ると、わたしの肩の所にカナブンがくっついていた。
「カナブンが――」
「本当だ」
カナブンをひょいと捕まえて、ぽいっと脇の草むらに投げた。
「怖くないんだ?」
そう言われて、果てしなく後悔した。
これ、「怖ーい」「取ってー」とかいうやつだ!
さっきから、少女漫画とかでよく見る「肝試しあるある」を自分でぶち壊してる気がする。
「田舎のおばあちゃん家に行ったら、よく網戸についてて……きれいな色してるから子供の頃集めたりしたから……」
葉月くんが笑った。
「藤代って、ホント、いい意味で予想外」
「ほ、褒められてる?」
「うん。面白い」
「面白い」は、褒め言葉なの?
葉月くんの中で褒め言葉なんだったらいいけど。
へへっ、と女の子っぽくない笑いを返してしまった。
建物に入ると、中はひんやりしていて、遠くで「きゃあ!」とか聞こえたりした。
誰かが怖がってる、と思うとなんだか冷静になってしまう。
「端の部屋から見て行こうか」
そう言われて、一番手前の部屋に入った。
机やイスは置かれていなくて、何もない。
すぐに出て、隣の部屋に入った。
やっぱり何もない。
どうやら1階には何もないみたいだった。
それで、階段を上がって2階に上がった。
階段から一番近い部屋のドアを開けると、隅っこに不自然に布がかかって、人型に盛り上がった塊がある。
これは、あれだよね……
近づいて葉月くんが布をどけると、人形が置いてあって、後ろから「わっ」と脅かされた。
振り向いてから、抑揚もなく「きゃー」と言うと、血のりのメイクにボロボロの服装をした先生に「お前らもういいから、さっさと出て行け」と言われてしまった。
「かなぁ?って思ってた通りだった」
「うん、あまりにもお粗末」
「もしかして、葉月くん、ホラー系好きな人?」
「結構見るかも。藤代も?」
「つい見ちゃう。今までで一番怖かったのって何?」
「あー、『呪怨』かなぁ」
「わかる! あれは怖い。振り向いたら絶対いるよね?って、わかってるのに怖い」
「確かに」
「村シリーズも見たよ。一番最初のが一番怖かった」
「海外のも観たりする?」
肝試し感なく、普通に映画の話をしながら廊下を歩いていると、足元の何かにつんのめって、こけそうになった。
でも咄嗟に葉月くんに腕を掴まれて、こけずにすんだ。
「ごめん。ありがとう」
「気を付けて」
足元を見ると不自然に石が落ちている。
「何だろう?」
拾って何気に裏を見ると「強いイシ」と書いてあった。
「もしかしてこれ?」
わたしたちの課題は「つよいいし」だった。
「そういうこと?」
しょうもないダジャレみたいな課題を、あっけなく見つけてしまい、拍子抜けしてしまう。
「やっぱ、藤代って予想外」
葉月くんが隣でウケている。
「笑ってないで戻ろう」
「ごめん。でもなんか笑えて」
隣で葉月くんが笑っているのが嬉しくて、自然と顔がほころぶ。
「わっ!」
「あっ!」
今度は葉月くんの助けが間に合わず、盛大にこけた。
「ごめん」
「なんで葉月くんが謝るの?」
「何となく。助けられなかったから」
「葉月くんのせいじゃないよ」
今度は何に躓いたのか、下を見たけど何もなかった。
葉月くんの差し出した手を無意識に掴んで立ち上がった。
「何もないけど?」
「うん……でも……」
確かに、何かに躓いたのに……
ずっと葉月くんの手を掴んだままだったことに気が付いて、慌てて離した。
さっきの……何だったんだろう……
「てっ――」
「て?」
「て……」
「て?」
変な問答が続く。
「て、丁寧に切ってあったよね、野菜!」
なんでヤケクソみたいな言い方?
「バーベキューの?」
「そう。バーベキュー」
「きれいに切ってあったのは池田くんの。わたしのは厚みとかバラバラで池田くんに怒られちゃったよ」
「でも、美味しかった」
「うん、美味しかったね」
「藤代、マシュマロばっか食べてなかった?」
「そういう葉月くんはピーマンさけてたよね?」
「わかった?」
「わかっちゃった」
葉月くんは持っていたしおりをくるくると筒状にして、わたしの方に向けた。
「反対側持って。こけそうになったら、これぎゅっと掴んで」
「……うん」
途中、すれ違った他のクラスのペアが不思議そうな顔で見ていたのも、葉月くんはきっと気づいていない。
「きゃー」とか「怖ーい」とかそういうことにはならなかったけど、リレーのバトンをふたりで持ってるみたいで、特別な気がしてしまう。
でも、リレーのバトンは渡したらそこで終わっちゃうけど、これはすぐに終わらない。
葉月くんがほんの少しだけ先を歩いてくれていて良かった。
きっと、今……耳まで赤い。


