来年の一翔くんの誕生日にはお祝いをするって約束した。
来年の夏休みは2人で遊ぼうって約束した。
来年のわたしの誕生日は一緒にいようって約束した。
クリスマスは、来年もやってくる。
誕生日だって、夏休みだって、来年もやってくる。
だけど、わたしたちに「来年」はやって来なかった。
一翔くんが見えなくなった後も、その場に立ったままでいた。
へへへ、って一人で笑った。
周りには幸せそうなカップルがいっぱいで、街中がクリスマスの飾りでキラキラしている。
去年のクリスマスは、塾に行っていた。
帰ってからテレビに映る街の様子を見ながらケーキを食べて、すぐに塾の復習をするために部屋へ行った。
高校に入ったら、彼氏とかできて、2人でクリスマスのイルミネーションを見に行ったりして……なんて想像しながら、苦手な数学の問題を解いていた。
青葉高校に入るという夢が叶って、もう一度会いたいと思ってた人にも会えた。
好きになった人に、好きって言ってもらえた。
でも……一翔くんのお誕生日はお祝いできなかった。
だから、来年こそはお祝いしたかった。
夏休みに遊びに行く約束はなくなって、わたしの誕生日は、わたしのせいでちょっとしか会えなくて……
体育祭は半分中止。文化祭も途中で強制終了。
そして、クリスマスは……
そうだ……オリエンテーションの肝試しでペアになったふたりは結ばれないんだった。
あの時、ペアにならなければ良かったのかなぁ……
ずっと、ずっと、片思いのままでいれば、こんなに悲しくなることもなかったね。
自分の胸にかかっている、一翔くんからもらったクローバーのネックスレスをぎゅっと握った。
言わなくちゃいけないことをずっとずっと、言えなくて、クリスマスになってしまった。
言えないままお別れになってしまうなんて思ってもいなかったけれど、顔を見たら泣いちゃうし、これで良かったのかもしれない。
2人の写真、もっと撮っておけばよかった。2人だけで撮った写真は、あの夏祭りのものしかない。
ううん。写真なんかなくても、それ以上に思い出はいっぱいあって、例え形になくても、これからも絶対に忘れない。
どうか、一翔くんが幸せでありますように。
「今日はいつもより遅くまで一緒にいられたんだけどなぁ」
誰に言うわけでもなくつぶやいた。
お母さんにもう帰るって電話しよぉ……
カバンからスマホを取り出そうとして、落っことしてしまった。
拾おうとして手を伸ばしたら、先に拾う手があった。
「遅くってどのくらい?」
一翔くんが、わたしの落としたスマホを手に持っていた。
「……なんでいるの? 間に合わなかった?」
「途中まで追いかけて戻って来た」
「どうして?」
「さっきは、後悔するって言葉に、ちょっと冷静じゃなくて、間違えるとこだった」
「間違えるって何を?」
「会ってどうしたいのか考えたら、会う必要がないって気が付いた」
「でも……」
「終わってることだから」
「でも……」
「確かに中学の頃好きだったけど、今は違う。話すことなんてない。だから、会う理由がないんだ。それより、そんなことを真優に言わせてしまったことの方が最悪で、そんなふうに泣きそうな顔をさせてる自分が今は許せない」
「泣きそう」って言われたけど……泣いてた。
「泣かせるようなことしてごめん。許して」
頭を下げたままでいる一翔くんに、クリスマス柄の手提げ袋を押し付けるように渡した。
「これ……クリスマスプレゼント」
「……ありがとう」
次にリボンのかかった包みを渡した。
「それで、これはバレンタインのチョコ。初めて作ったからまたまた不恰好だけど、味は美味しかったよ」
「何で?」
「それで……こっちは……誕生日プレゼント」
「何で……」
顔を見ることができなくて、俯いたまま話しつづけた。
「あのね……言わないと……いけないことがある……」
下を向いているせいで、涙がこぼれ落ちる。
「いつも大切なことを後回しにしちゃう……今頃になって言うなんて……最悪だよね。でも、言ったら……終わりになると思ったら……怖くて……言えなくて……」
ぽろぽろと溢れる涙をそのまま放っておいて、一人で話し続けた。
「わたしね……」
ゆっくりと、初めて抱きしめられた。
ふわって、軽く。
一翔くんにしがみつくように泣き続けた。
わたしたちに「来年」はやって来なかった。
お父さんのイギリス転勤が正式に決まり、高校生だったわたしにはついて行く選択肢しかなかった。
簡単に会える距離ではなかったから、クリスマスの日が2人で会える最後の日だった。


