strawberry * strawberry




体育祭が終わると、最初のホームルームで席替えがあった。

前に席替えをした時は、一翔くんがちょっとしたズルをして、隣の席になった。

今回も席替えはクジだったけれど、前と違って教卓に置かれた箱の中のクジを引いたらその場で開けて、席に移動するというものだった。

わたしの席は真ん中の前から2番目で、一翔くんは同じ列の3つ後ろになった。
だからわたしからは、後ろを振り向いても一翔くんが見えなくなってしまった。

隣の席が当たり前みたいになってたから、たったそれだけの距離でも落ち込んでしまう。
もっと遠く離れたらどうなるんだろう?



席替えの後は文化祭の出し物の話し合いになり、多数決でお化け屋敷をすることが決まった。

教室の中を真っ暗にして、迷路のようにするために、大量の段ボールを黒く塗る。そのため、汚れても良い服を持って来ることになった。


次の日の放課後から文化祭の準備が始まった。

ホームルームで決まった役割分担通り、服を着替えて、全員でひたすら段ボールを塗っていく。
全員と言っても、部活で抜ける人や塾など習い事で途中帰っていく人もいたから、人数は時間によって違った。
文化祭の準備期間はいつもより下校時間が1時間遅くなっていたけれど、あっという間に時間が立ってしまう。



「こんなんで間に合うのかなぁ」
「朝も早く来てやる?」

そんな話をしながら教室で着替え、廊下に出ると、教室が空くのを待っていたはずの男子は着替え終わっていた。

「どこで着替えたの?」
「廊下」
「うわぁ?、ないわぁー」
「待ってたら遅いし!」

そんな会話がとびかいながらも、みんなで揃って校舎を出ると、外はもう真っ暗だった。


高校に入る前、「青葉の子はよく男女が一緒に帰ってる」という話を聞いたことがあったけど、きっとこういうことだ。
女子が一人にならないよう、自然と男子が囲み、方向が同じ者同士が当たり前のように一緒に帰る。


瑛里華と話しながら駅まで向かった。

「瑛里華、家遠いけど大丈夫?」
「家は遠いけど、バスを降りたらすぐ目の前が家だから」
「そうなの? いいなぁ」
「真優の家は?」
「駅から遠いよ。バスもないから歩くしかない」
「危ないね。迎えとか頼めないの?」
「大丈夫だよ。瑛里華じゃないんだからぁ。それより、文化祭の後のこと、どうだった?」
「うちはOKだったよ。本当にいいの?」
「もちろん!」
「楽しみぃ」
「楽しみだね」


駅前でバラバラとみんなが別れて、電車に乗った。

乗り換えの駅で降り、ひとりで別のホームに向かおうとしたところを、さっき他の子と一緒にバイバイを言ったのに、一翔くんが追いかけてきた。

「暗いから送ってく」
「え?」
「真優の家、駅から遠いって言ってたじゃん」
「いいよぉ。リレーの練習の時もこのくらいの時間に帰ってたし」
「あの時は夏だったから外が明るかった」
「でも、一翔くんの家と方向も違うし、瑛里華ならわかるけど、わたしなんて――」
「真優、自分がかわいいって自覚して」


か、か、かわ……
そんなこと言ってくれるのは、一翔くんだけだって自覚して。
結局、家まで送ってもらうことになり、駅からの道を2人で並んで歩いた。
いつも通ってる同じ道なのに、一翔くんが一緒というだけで、全然別の場所を歩いているみたい。

「ニチカくんのお迎え大丈夫?」
「母さんしばらく早番だから大丈夫」
「もう、すぐそこだから、ここでいいよ」
「玄関入るところまで見届ける。心配だから」

わわわ……

家の前まで着いて「ここが家です」と言ったところで、「真優?」という声がした。
門の向こう側に、回覧板を持ったお母さんが立っている。

「あ、葉月くんだ」

お母さんにいきなり名前を呼ばれ、一翔くんは驚いたようだった。

「は、初めまして。まゆゆさんとお付き合いさせてもらってます、葉月一翔です」
「まゆゆ……」
「あ、いえ……」
「送ってきてくれたの? ありがとう。ご飯食べてく?」
「ありがとうございます。でも、家で弟が待っているので帰ります」

お母さんは、「じゃあ、先に家に入ってます」と言うと、ボソっと「まゆゆ……」と呟いて中に入って行った。

お母さんが家の中に入ると、一翔くんはその場にしゃがみ込んだ。

「いきなり名前呼ばれてテンパった……『まゆゆ』って何だよ……なんで『まゆゆ』って言ったんだろ……」
「笑ってたから、気にしなくても大丈夫だよ」
「恥ずい……」

一翔くんの前に自分もしゃがんだ。

「じゃあ、今度、一翔くんのお母さんに会ったら、一翔くんのことカズカズって呼ぶよ。そしたら恥ずかしいの同じになるでしょ?」

じっと顔を見られた。

「やっぱ、俺、真優のこと好きだ」
「ええっ?」

「はぁ」と大きくため息をつくと、一翔くんは立ち上がり、手を差し出してくれた。
その手を掴んで立ったわたしに、一翔くんが言った。

「家まで送ったのは、心配だったのもあるけど、今日は2人だけで話せなかったから」

なんてことを!

「家に入って。真優が入ったら帰る」
「お、送ってくれてありがとう」
「じゃあ、また明日」
「また明日……ね」



一翔くんは、文化祭の準備の間、毎日家まで送ってくれた。

お母さんがしばらくの間、「まゆゆ」と呟いては笑っていたことは、内緒にしておこうと思った。