「じゃあ、次はクラス対抗リレーなんですけど、誰か立候補いますか?」
嫌ーっな中間考査が終わるとすぐに体育祭で、クラス毎に個人でいくつか出る種目についてホームルームで話し合うことになった。
木崎先生は教室の隅っこに座ったままで、その日の日直が司会みたいなことをやっている。
教室内がざわざわする中、誰かが言った。
「練習って、あるんですか?」
「放課後残って練習がありまーす」
「塾あるやつとか無理じゃん」
日直の子が先生に聞いた。
「練習は毎日ですか?」
「やってもやんなくても自由だけど、まぁ、どこのクラスも毎日やってるかな」
中学までの体育祭は、何度も入退場の練習があったけれど、高校生だからなのか、青葉だからなのかそんな練習はなくて、全員参加の種目も、体育の時に「出場する種目の2つ前になったら、ここに並んで、こっから入って、ここから出ます」くらいの簡単な説明があっただけ。
後は超簡易リハーサルが、前日にあるくらい。
だから、練習っぽい練習はリレーしかないことになる。
「池田は? 足早いじゃん」
「オレ無理。部活対抗リレーに出るから。クラス対抗リレーのすぐ後で、準備がある」
「葉月がいるじゃん! 運動神経いいよな!」
その言葉に隣を見ると、一翔くんの顔が一瞬曇った。
ニチカくんのお迎えがあるから?
でも、放課後の学校周りの清掃は自分から立候補していたし、校庭の芝生の草抜きも自分から手伝っていた。
一翔くんが運動神経いいのはみんな知っている。それに野球をやっていたなら――
前にケガをしたと言っていた。
それが何か、関係ある?
一翔くんが何か言おうとしたので、それを遮るように、手を上げた。
「や、やります! わたし出ます!」
わたしがそう言うと、瑛里華が「わたしも出まーす」と声をあげてくれた。
瑛里華が出ると言ったから、男子も数人立候補した。
他にも女子が手を上げてくれて、結局枠以上の人数が立候補することになったので、誰が足が速いかという話合いになった。
結果、わたしを入れた女子4人と男子1人がリレーを走ることになり、「このクラスの女子は速い子が多いんだ」と先生は笑っていた。
ホームルームが終わった後、新庄くんが「体育祭の日、アジリティの大会と被ってて、内緒だけど休むんだ。ごめん」と、こっそり言いに来た。
アジリティの大会が優先なことにちょっと驚いた。
「今日からもう練習始めるって言われたから、一緒に帰れなくなっちゃった」
放課後、一翔くんにそう言うと、ちょっと寂しそうな顔をされた。
一瞬、「一緒に帰れないから?」と思って、すぐにそれを否定した。
きっとそうじゃない。
「ありがとう」
「何が?」
「リレーのこと」
「わたし、足が速かったみたいだね!」
「速いと思うよ。初めて会った時、一緒に走ったから知ってる」
「でも、あの時はひっぱってもらったし、電車に乗った後は息切れすごくて死ぬかと思った」
「左膝関節前十字靭帯再建術と左膝関節外側半月板縫合術」
「難しくて覚えられなかったよ?」
「覚えなくていよ。これは……野球が出来なくなる呪文だから。この2つの手術をしたんだ。それで、週2回の体育くらいならいいんだけど……毎日全力で走るとかは……怖い。もう治ってるんだけど。あの頃、家族に八つ当たりみたいなのしたし……」
やっぱり……
さっきの表情は、本当は言いたくないのに、ちゃんと伝えよう思ってくれたからだ。
「リレーの選手になってみたかったから、立候補したんだよ? 初めて選ばれて嬉しい。期待しててよ!」
「うん。期待してる」
「寂しいと思うけどぉ、ひとりで帰ってねぇー」
上から目線みたいな言い方をしてみたら、苦笑いみたいなのだったけど、一翔くんは笑ってくれた。
「それ、誰のマネ?」
「え? 前にテレビで見たドラマで、クラスでも人気の女子が言ってた」
「かわいくないよ?」
「えーっ。じゃあ、もう一回チャンスをちょうだい」
「何のチャンス? チャンスは一人一回までだよ?」
「敗者復活戦っ」


