夏休みの最終日、お父さんは長い北海道の出張から帰って来たけれど、ホタテとエビを忘れていたので、お母さんと2人で怒った。
そうしたら、代わりに回らないお寿司屋さんに連れて行ってくれた。
帰って来てからのお父さんは、急に教育パパに変身したのか、「真優、これから英語が必要になるから英会話に行きなさい」と言い出して、英会話を習うことになった。
今まで勉強のことなんてうるさく言わなかったのに。
しばらくは家族3人の暮らしに戻ったけれど、9月の中間考査が始まる前に、「今回は前より長いと思う」と言って、お父さんはまた出張に行ってしまった。
お母さんに「出張増えたね」と言うと、「部署が変わったからねー」と教えてくれた。
そんなふうに、家の中にも変化が訪れた。
朝、ホームで電車を待っていると、肩を叩かれ、振り向くと日和が立っていた。
同じ時間の電車に乗るのはめずらしい。
「真優っ、おはよ!」
「おはよー」
「同じ高校で、同じ駅使ってても試験期間中くらいしか会わないもんだねー」
「日和は部活入ってるから」
日和がいつも利用する時間帯より、きっとだいぶ遅い時間のホームは、学生や会社員でごったがえしている。
「人多いね……あ! 英育の生徒」
その言葉に下を向いてしまった。
「真優、クラス会の時、山岸くんとずっと話してたね」
「そうかなぁ」
「ついに告られた?」
ぶんぶんと頭を振る。
「でも、その様子は……気づいたんだ」
今度は小さくうなづいた。
「……わたし、自分が鈍感で……嫌になった。だから、今は相手の態度を見て、色々考えて行動するようにしてるんだけど……」
「つまんなーい」
「えっ?」
「だってぇ、真優が気が付いてないから、匂わせして反応見るのが楽しかったのにー」
「ひどいぃ」
「周りのことばかり考えてたら疲れちゃうよ?」
「……うん」
日和は隣に立つと、反対側のホームを見たまま言った。
「中学の時さぁ、クラスの女子が塾があるとか言って、真優に掃除当番押し付けてた時があったでしょ?」
「そんなことあった?」
「真優は、それ全部に『大変だね、頑張ってね』って疑いもせずに代わってあげてた」
「覚えてないよー。そんなことあった?」
わたしは笑ったけれど、日和は笑わなかった。
「真優が騙されてるの知ってたけど、嘘つかれてるの知ったら傷つくと思って言えなかった。でも真優が、いっつもその子たちの言うこと信じるから、悪いと思ったんだろうね。そのうちみんな嘘つかなくなった。真優がその子たちを変えたんだよ。だから、真優は真優のままでいい」
「でも……」
「全員の人の気持ち考えてたら頭がパンクするよ? 葉月くんのことだけ集中して心配してなよ」
ホームに電車が到着する音楽が流れて、話が中断した。
電車のドアが開いて、乗っている人たちが降りる中、日和が小さな声で言った。
「今まで……黙っててごめんね」
「日和は、わたしが掃除してたら、いつも一緒に掃除してくれてたよね」
「そうだっけ?」
「うん。そのことはよく覚えてる」
日和の腕を引っ張って電車に乗った。
「ありがとう」
そう言うと、日和はわたしを見て笑ってくれた。


