8時を過ぎて、きららちゃんを寝かせつけた睦美おばさんが、わたしのとこへ来た。
手首を骨折したと聞いたけれど、ギプスは肘の辺りから手の平まであって、右手は全く使えない。だからとても大変そう。
「ごめんね。せっかくの夏休みなのに迷惑かけて。真優ちゃんにもいろいろ予定があったでしょ?」
「わたしのことは気にしなくていいよ」
「20日に弘道さんが帰って来たら、すぐに家へ帰るからね」
「気にしないでってば。妹が出来たみたいで楽しいんだから」
睦美おばさんは、わたしを見て微笑んだ。
「真優ちゃんって、モテるでしょ?」
「全然!」
「そぅお? 真優ちゃんの言葉、本心から言ってくれてるって、すごく伝わって来るから」
「えー? そんな理由で?」
「真優ちゃんが『嬉しい』っていう時は本当に嬉しいんだってわかるし、きららの話にすごく真面目にリアクションしてるのがかわいかった」
「身内の欲目ってやつだね」
「違う違う。いつだったか、まだ中学生の時、男の子と2人でいるの見たことあるけど、あの子は絶対、真優ちゃんのこと好きだったよ」
「それは気のせいだよ」
「ううん、わかる!」
「……睦美おばさん、どうしたらそんなふうに相手の気持ちに気づけるようになれるの?」
「えっ? そんな難しいこと聞かれても……でも、そうねぇ……相手の言葉だけじゃなくて、その時の表情に気をつけるとかかな」
「表情?」
「怒ってるように見えても目が優しかったり、言葉では親切なことを言ってても、目が笑ってない人とかいるから」
「難しいね……」
「真優ちゃんは真っ直ぐに人の言うこと信じるから。ねぇ、きららが粗相しちゃった時、すぐに気づくのはどうして?」
「えっと、なんとなく気まずそうな雰囲気だから」
「それと似てるんじゃないかな。真優ちゃんはちゃんと気づけると思うよ?」
睦美おばさんが微笑んでくれた。
「真優ーっ、お風呂入っちゃいなさい!」
お母さんの大きな声が聞こえて、「お風呂入っておいで。今日もありがと」
と睦美おばさんにお礼を言われた。
部屋に戻ると、スマホが鳴っていて、慌てて出ると日和からだった。
メッセージじゃなくてわざわざ電話ってめずらしい。
「ごめんね、お風呂に入ってた」
「いいよー。ねぇ、毎日会ってるの?」
「誰と?」
「相変わらずだねー。葉月くんだよ」
「毎日は会ってないよ~。か、葉月くんバイト始めたから」
思わず「一翔くん」と呼びそうになって、慌てて訂正。
日和の前で言うのはまだ恥ずかしい。
「バイトってどこで?」
「家の近くのファミレスだって」
「へぇ」
「そ、そういうの聞くための電話?」
「違うよぉ。夏休みに、中学の時のクラスで集まろうって話、8月25日になったから言おうと思って」
「8月25日?」
「真優、誕生日でしょ?」
「う……ん」
「なんかさ、山岸くんの高校、甲子園出場するまでは毎日練習で時間ないみたいで。甲子園始まったら、今度は毎年最後の方まで残るから、閉会式まで時間ないって。で、甲子園終わって部活が休みになって、夏休みの間ってなったら25日しかないらしい」
「そっか……日和は?」
「わたしは参加する。でね、吉崎さんがそれに合わせて帰って来るって」
「吉崎」という名前を聞いて、無意識に本棚を見た。
「吉崎さんも来るの?」
「らしいよ。真優、話したいでしょ?」
「教えてくれてありがとう」
「まだ時間あるからどうするか考える? また細かいこと決まったら連絡するね」
「うん」
「じゃあ、明日も早朝から部活だから、もう寝る。おやすみー」
「おやすみ」
電話を切ってから、本棚の中の小さなアルバムを取り出した。
吉崎さんは中学の同級生で、中2の冬に九州の方へ転校してしまって、それ以来会っていない。
誰も吉崎さんの連絡先を知らなかったから、最後に……ケンカみたいになっちゃったのにそのままになってしまった。
もう一度話すことがあったらあの時のことを謝りたいと、ずっと思ってた。


