午後になってから図書館を出て、2人で駅まで歩いた。
朝から暑かったけれど、昼間はもっと暑い。
それでも一翔くんは暑そうに見えない。
「ちっとも暑そうに見えないね」
「暑いとは思ってるけど、慣れかもしれない。去年までは夏も一日中野球やってたから」
野球の話が出ると、少し戸惑ってしまう。
どこまで踏み込んでいいのか自信がない。
「誕生日は、遊びに行けるといいんだけど」
「夏休みは遊ぼうって話してたのにごめんね」
「謝ることじゃないよ。俺もバイト入れちゃったから」
夏休みになったら、2人で遊びに行くはずだった。
でも、不測の事態というやつが起きてしまった。
8月に入って、お母さんの妹の睦美おばさんが、階段から落ちて右手首を骨折した。
おじさんが長期の出張でいない時と重なってしまい、睦美おばさんは3歳になったばかりのきららちゃんのお世話に困って、うちに泊まりに来ている。
お母さんは午後からパートがあるため、その間はわたしが睦美おばさんのお手伝いをしている。
「目的は宿題だけど、学校行ってる時より話してる気がする」
「宿題も進んでるよね? こんなに早く終わりそうなの初めて」
2人で顔を見合わせる。
話をしていたら、ドラッグストアを通り過ぎそうになった。
「あ! お母さんから『ストロー買って帰って』って頼まれたから、ドラッグストアに寄らないといけないんだった」
「俺もついて行ってもいい?」
「時間大丈夫?」
「大丈夫」
一翔くんと一緒にドラッグストアに入ると、お店の中はひんやりしていて気持ち良かった。
「冷房気持ちいいね」
「一番暑い時間に外歩いてたから」
「そう言われたらそうだね」
ストローを買うために紙皿や紙コップの置いてある棚へ行こうとしたら、一翔くんに声をかけられた。
「何に使うストロー?」
「これに使うやつ。洗った後、間違えて捨てちゃったんだって」
お母さんに送られてきた写真を見せた。
「それだったら、こっち」
一翔くんはベビーコーナーへ行くと、目的の物をすぐに見つけてわたしに渡してくれた。
「そのコップ専用のストローじゃないとダメなはず」
「どうして知ってるの?」
「ニチカも使ってたから」
「ありがとう。一翔くんがいてくれて良かった」
おかしなことを言ったつもりはなかったのに、一翔くんが笑った。
「何かおかしかった?」
「おかしかったんじゃなくて、ストロー見つけたくらいで喜ばれたから、かわいいって思っただけ」
「そ、それは口に出して言わなくていいやつ」
「そう?」
「そうです」
変なことを言ったつもりはなかったのに、店を出てもしばらく笑われていた。
家に帰ると、入れ替わりでお母さんが出て行ったので、買って帰ったストローを洗ってきららちゃんのコップにつけた。
両手に持ち手がついたそのコップには蓋がついていて、蓋を開けるとストローが出て来る仕組みになっている。
麦茶を入れて、きららちゃんに渡すと、両手でコップを持って飲んでくれた。
それをずっと見ていると、「どーぞ」と言ってコップを渡された。
「わたしにもくれるの? 嬉しい」
受取ったコップで飲むふりをして、またきららちゃんに返した。
「美味しかったよ! ありがとー!」
きららちゃんが満足そうな顔をしたので、それを見て嬉しくなった。


