高校に入ってまだほんの少ししか経ってないのに、もう既にいろんなことがあった気がする。
中学は、ほとんどが小学校から知ってる子ばかりで、なんとなくどんな子なのかわかってたから人間関係で困ったことなんてなかった。
でも、高校に入ったら、知ってる子はほとんどいなくて、今まで知らなかった感情を知ってしまったりして、ついていくのが精一杯だったりする。
「中間試験」って呼んでいたものがいきなり「中間考査」って名前に変わって、それだけで試験がすごいことになった気もしてる。(実際、テスト範囲がすごいことになってるけど)
末田さん曰く「レアなキーチェーン」を葉月くんがくれた理由もわからないままで……
でも、瑛里華の言ってくれたことで、勇気を出してみることにした。
それで、放課後、帰ろうとしてる葉月くんに声をかけた。
「葉月くん、あのね」
呼び止めたところで、なぜか新庄くんがやって来た。
「ふ、藤代、あのさぁ」
だから、新庄くん、「ふ」が多いんだってば。
それにタイミングが!
「オレ、数学が得意だったりするんだ。英語も悪くない。この間の数学の小テスト、計算ミスで1問間違いになったけど、それ以外は正解だった」
「すごいね」
葉月くんが帰っちゃう……
「藤代、数学は?」
「あんまり得意じゃない。って言うより……苦手」
「放課後残って試験勉強するっていうのはどう? オレ数学教えるから。妹にいつも宿題教えてるから、教えるのはヘタじゃないと思う」
「あのね、今ちょっと――」
その時、葉月くんが新庄くんとわたしの間に立った。
「藤代はもう他で約束があるから」
「葉月?」
葉月くん?
葉月くんちょっと……機嫌が悪い?
「だから、新庄には悪いけど」
「お、おぅ」
「藤代、行くよ」
い、行く?
えっ?
約束って? 何か約束した?
あの日、初めて葉月くんに会った日みたいに、葉月くんはわたしの手を掴んで……
「早く」
「あ、うん」
ぼーっと立っている新庄くんをその場に残して、どこに行くのかわかんなかったけど、葉月くんに引っ張られて歩いた。
葉月くんが入って行ったのは化学室だった。
きょろきょろしてると、ようやく手を離してくれて、葉月くんは大きくため息をついた。
「ごめん。俺、余裕なさすぎ」
何が?
「なんか藤代のことになると全然だめで……俺があげたうまい棒は食べてくれてなかったのに、新庄のは食べてるから勝手に拗ねたり……自分で言おうと思ってたこと谷に指摘されて動揺したり、今も新庄が2人で勉強しようとか誘ってるのを……ムカついて……」
「2人で」とは言われてなかったけど……
でも……でも……でも……
さっきからわたしの心臓は体育で全力疾走した後みたいになってて……
今しかない!って思って、気になってたことを口に出した。
「肝試しの後、瑛里華といい感じの雰囲気で一緒にいるとこ見たよ」
葉月くんは驚いた顔をしてわたしを見た。
「肝試しの後?」
「わたしには内緒って話してたの聞いた」
「それ、堀北にもうバラしていいって言われたから言うけど、あの日堀北が3組の女子に、新見に気のある素振りを見せたとかなんとか言われてるのを聞いて……」
あの子たちだ。
誰が瑛里華にそんなこと言っていたのかわかってしまった。
「それで、一方的に堀北が責められ始めて、止めに入ったんだけど、あいつらひどいこと言ってて……堀北は……俺が聞いたことを藤代に知られたくないから黙っててほしいって。藤代が知ったら相手に言い返して、今度は藤代がいじめられることを心配してた」
「わたし、葉月くんと瑛里華はあの頃から付き合ってるんじゃないかって思ってた」
「それはない! それに堀北は……」
「瑛里華が何?」
「……知ってたから。ずっと前から。前に朝、一緒になった時に指摘された。その話してる時に藤代がすぐ後ろにいるのに気が付いて動揺したけど、聞いてなかったみたいで、ほっとして……」
「それ、何の話?」
「なんかもっと……かっこよく言いたかったんだけど……」
葉月くんはわたしを見て言った。
「俺が好きなのは藤代」
その言葉の破壊力に、へなへなとその場に座り込んでしまった。
そんなわたしの前に、葉月くんもしゃがんだ。
「藤代真優さん、付き合ってくれませんか?」
葉月くんがわたしに向かって手を差し出した。
嘘っ!!!!!
心臓がバクバクいって、頭の中はパニックで、手を……葉月くんの手を掴みたいんだけど、掴んでいいのか、でもその手を掴もうとした瞬間――
「お前ら、いつまでそんなことやってんの?」
振り向くとドアの所から池田くんが顔を覗かせていた。
葉月くんを見ると、ムッとした顔をしていて、池田くんに向かって言った。
「あのさー、今、大事なとこなんだけど?」
それを聞いた池田くんが笑った。
「もういいじゃん。2人は付き合うってことで」
「そうだよー。証人はわたしたち2人ということで」
池田くんの後ろから、瑛里華まで顔を出した。
「待て、勇、いつからそこにいた?」
「あー……お前が新庄にヤキモチ焼いてたってとこから」
「まじか……」
「葉月くん、最初から何かと真優にちょっかい出してたもんねー。すぐにわかっちゃった」
「だから、カッコよく見せよーとかしなくていいじゃん、ってオレ言ったのに」
葉月くんを見ると、がっくりと頭を落とした感じになっている。
「一翔のやつ、藤代のために朝から並んでテーマパークのお土産買ったんだってさ」
「猫が好きみたいって教えたのはわたし?」
葉月くんがボソッと「全部バラすなよ……」と呟いた。
それで、葉月くんの制服の袖をつんっと引っ張って、ずっと思ってたことを、葉月くんにだけ聞こえるような小さな声で言った。
「好き」
それで葉月くんは、ばっと顔をあげた。


