仁木さんと谷さんには言わなかったけど、オリエンテーションの時、パーカーにバッタがくっついているのに気が付いて、怖くて固まってしまった。
その時、周りには誰もいなくて、バッタは服の上で動くし、どうしたらいいのかわからなくて、じっと立ったままでいた。
そこへちょうど新庄くんが通りかかって、わたしに気が付いた。
「なんかあった?」
「……バッタ……」
「バッタ? 怖いの?」
わたしが動くとバッタも動くから、静かにうなづくと、新庄くんはバッタをひょいと掴んで遠くへ投げた。
すると、投げた拍子にこっちへ向かってバッタが飛んで来て、わたしは「やだっ」としゃがみこんでしまった。
「向こうへ飛んでったけど? 虫、怖いんだ」
虫というか、バッタ限定なんだけど……
お礼を言うと、新庄くんは「おうっ」と短く返事をして行ってしまった。
新庄くんと会話っぽいのをしたのはそれが初めてだった。
わたしがバッタを怖いのは、バッタに噛まれるとめちゃくちゃ痛いことを知ってしまったから。
昔は怖くなくて普通に捕まえたりしてたんだけど、一度噛まれて、それが激痛なんてもんじゃなくて、以来バッタが怖い。
基本、虫は大丈夫で、怖いのはバッタ限定。
席に戻ったわたしに、葉月くんが話しかけてきた。
「さっき、何話してた?」
さっき?
「オリエンテーションの時、服にバッタがついた時の話をしてたんだけど、何?」
「そっちじゃなくて」
「どっち?」
「なんでもない。気にしないで」
葉月くんはわたしの持っているノートをじっと見ていたけど、そのうち前を向いてしまった。
新庄くんもよくわからない人だけど、一番わからないのは葉月くんかもしれない。
そんなことを思いながら葉月くんの横側を見ていたら、前髪が少し伸びているのに気が付いた。
まつげ、長い……
そのうち葉月くんは下を向いてしまった。
眠いのかな。
先生が入って来て、騒がしかった教室の中が静かになる。
わたしも前を向いた。


