未来へのバトン

だが、平穏な日々に、再び「試練の時」が訪れた。

スマートフォンのカレンダーが、無情にも通知を鳴らす。――「排卵予定日」。

その通知を見た瞬間、健一の体に緊張が走った。

これまでこの通知は、彼にとって「ミッションの開始合図」だった。しかし、今は違う。麻衣を傷つけ、関係を壊しかけた、呪わしい記号のように思えた。

(今夜、誘わなければならない。だが、どう伝えればいい?)

また「データによると今夜だ」と言えば、これまでの積み立てがすべて台無しになるだろう。かといって、何も言わずにやり過ごすこともできない。54歳の彼にとって、チャンスの一回一回は、若い世代のそれとは比較にならないほど重い。