帰宅途中、健一はデパ地下で、麻衣が以前「高いから」と諦めていた高級アイスクリームの詰め合わせを買った。
玄関のドアを開けるとき、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
「……ただいま」
返事はない。リビングには明かりがついているが、麻衣はソファで背中を向けてスマートフォンをいじっていた。
かつての健一なら、「人が帰ってきたら返事くらいしたらどうだ」と「責める(破壊的習慣)」言葉をぶつけていただろう。あるいは「せっかくアイスを買ってきたのにその態度は何だ」と「見返りを求める(褒美で釣る)」感情を抱いていただろう。
だが、今の健一は学んでいた。
これは技術の修練なのだ。まずは「ネガティブを減らす」ことから始める。
健一はコートを脱ぎ、鞄を置くと、麻衣の視界に入る位置までゆっくり歩いた。そして、自分のスマートフォンをポケットの奥深くに仕舞い込んだ。
資料にあった「スマホを置かずに相手の目を見て聴く姿勢」を、今、自分から実践するためだ。
「麻衣」
彼女がゆっくりと顔を上げた。その目は少し赤く、昨夜泣き腫らしたことを物語っていた。
「……何?」
「これ、よかったら一緒に食べないかと思って」
アイスの箱をテーブルに置く。麻衣は一瞬、目を丸くしたが、すぐにまた冷ややかな表情に戻った。
「……また、何かの『ご機嫌取り』? 効率的に仲直りするための戦略?」
その言葉は、健一の胸に突き刺さった。自業自得だ。これまでの報いだ。
健一は、怒りを感じる代わりに、深く息を吐いた。そして、不器用に、しかしはっきりと口を開いた。
「いや……戦略じゃない。昨日、あんな言い方をして、本当に申し訳なかったと思って。君を傷つけた。僕の言葉には、君への敬意が足りなかった」
麻衣が、凍りついたように動きを止めた。
健一が「謝る」こと。それは、結婚して以来、いや、彼という人間が人生において最も苦手としてきたことだったからだ。
「謝って、どうするの? またすぐに数字やデータの話を始めるんでしょ?」
玄関のドアを開けるとき、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
「……ただいま」
返事はない。リビングには明かりがついているが、麻衣はソファで背中を向けてスマートフォンをいじっていた。
かつての健一なら、「人が帰ってきたら返事くらいしたらどうだ」と「責める(破壊的習慣)」言葉をぶつけていただろう。あるいは「せっかくアイスを買ってきたのにその態度は何だ」と「見返りを求める(褒美で釣る)」感情を抱いていただろう。
だが、今の健一は学んでいた。
これは技術の修練なのだ。まずは「ネガティブを減らす」ことから始める。
健一はコートを脱ぎ、鞄を置くと、麻衣の視界に入る位置までゆっくり歩いた。そして、自分のスマートフォンをポケットの奥深くに仕舞い込んだ。
資料にあった「スマホを置かずに相手の目を見て聴く姿勢」を、今、自分から実践するためだ。
「麻衣」
彼女がゆっくりと顔を上げた。その目は少し赤く、昨夜泣き腫らしたことを物語っていた。
「……何?」
「これ、よかったら一緒に食べないかと思って」
アイスの箱をテーブルに置く。麻衣は一瞬、目を丸くしたが、すぐにまた冷ややかな表情に戻った。
「……また、何かの『ご機嫌取り』? 効率的に仲直りするための戦略?」
その言葉は、健一の胸に突き刺さった。自業自得だ。これまでの報いだ。
健一は、怒りを感じる代わりに、深く息を吐いた。そして、不器用に、しかしはっきりと口を開いた。
「いや……戦略じゃない。昨日、あんな言い方をして、本当に申し訳なかったと思って。君を傷つけた。僕の言葉には、君への敬意が足りなかった」
麻衣が、凍りついたように動きを止めた。
健一が「謝る」こと。それは、結婚して以来、いや、彼という人間が人生において最も苦手としてきたことだったからだ。
「謝って、どうするの? またすぐに数字やデータの話を始めるんでしょ?」



