未来へのバトン

お前がこれから生きていく中で、壁にぶつかったり、誰かとすれ違ったりすることがあるかもしれない。自分が嫌になったり、孤立していると感じる夜があるかもしれない。

そんな時は、どうか思い出してほしい。

人の心を動かすのは、正しさの論理(ロジック)ではなく、相手を思いやる愛の物語(イメージ)だということを。
自分の非を認め、相手の話を聴き、小さくても温かい言葉をかけ続けること。

それが、どんな困難からもお前を守ってくれる「最強の武器」になるということを。
お父さんは、お前に立派な財産を残してあげることはできないかもしれない。

けれど、お母さんとお父さんが愛し合い、お前をどれほど待ち望み、どんな言葉で抱きしめてきたかという「物語」を残します。
不器用でもいい。上手く話せなくてもいい。

どうか、お前の大切な人に、お前の温かい心の一部を差し出すような生き方をしておくれ。

お前の生まれてきたこの世界は、お前が思うよりもずっと、言葉と愛で満ちあふれているのだから。』

健一はノートを閉じ、深く息を吸い込んだ。

リビングから、「お父さん、早くお公園行こう!」と元気な声が聞こえてくる。

「今行くよ、葵!」

健一はペンを置き、笑顔で立ち上がった。

かつて不器用だった男の胸には、もう孤独の影はなかった。

彼の手には、大切な人を守り抜くための「伝える技術」と、無限に紡がれる未来へのバトンが、しっかりと握られていたのだった。

(完)