未来へのバトン

その後の時間は、これまで健一が経験してきた「営み」とは、全く質の異なるものになった。

これまでは、どこか「作業」だった。最短距離でゴールを目指し、確実に「射精」というタスクを完了させること。それが50代の自分に課せられた責任だと思い込んでいた。

だが、今夜の健一は違った。

彼は「貢献心(相手を喜ばせたいという愛)」に集中した。

資料にあった「相手の立場(価値観の眼鏡)を理解しようとする姿勢」。それは、肉体的なコミュニケーションにおいても同じだった。

麻衣がどこで呼吸を乱し、どこで安らぎを感じているのか。
自分の指先が、言葉以上に麻衣の心に触れていることを意識した。

「愛している」「綺麗だ」

これまで気恥ずかしくて飲み込んできた言葉が、自然と溢れ出した。
健一自身の不安も、不思議と消えていた。

「完璧でなければならない」という呪縛から解き放たれ、ただ目の前の愛する人を慈しむことに全神経を注ぐ。
すると、衰えを感じていたはずの肉体に、かつてないほどの熱が宿った。