未来へのバトン

その夜、寝室の灯りを落とした後、健一は横たわる麻衣の隣で、静かに口を開いた。

「麻衣。少し、話をしてもいいかな」

麻衣は、彼が何を言い出すか察しているようだった。彼女の体は、微かに強張っている。

「……うん」

健一は、暗闇の中で彼女の手をそっと握った。そして、カレンダーの数字の話をする代わりに、自分の中に浮かび上がった「光景」を語り始めた。

「さっきね、ふと考えていたんだ。……もし、僕たちの子供が生まれたら、どんな日曜日の朝を迎えるかなって」

麻衣が、意外そうに健一の方を向いたのがわかった。

「僕は、君に似た明るい声がリビングに響いているのを想像した。僕は不器用だから、たぶん子供に馬鹿にされながら、パンを焦がしたりしてね。麻衣はそれを見て笑っているんだ。……僕が死んだ後も、その子が大人になって、誰かを愛したときに、『お父さんとお母さんは、あんな風に笑い合っていたな』って思い出してくれる。そんな光景を、僕は残したいんだ」