始業式から一週間が経った。
週明けの月曜日、委員会を決めていたLHRで、俺は手を挙げていた。
「おー間山が立候補か。たしか一年と二年のときも美化委員じゃなかったか?」
波多野先生が俺を見て目を丸くした。あまりにも人気がない美化委員決めでは、毎回沈黙という名の押しつけ合いが始まる。
「じゃあ、あとひとりだな」
去年はあまりにも決まらなくて、くじ引きとなった。当たったのは榊で、なんだかんだ楽しい委員会活動を送ることができたから感謝している。
今年も例年通り、くじ引きが行われるのかと思っていた矢先。
「お、朝宮……と、明日見か」
朝宮が手を挙げたのが見えた直後、その後ろに座っていた明日見も挙手した。
「あれ、被った? うわぁ、まじか」
明日見のことは、同じクラスになってから一週間でなんとなく分かっていた。
端的に表すならハッピー陽キャだ。
とにかく明るく、友達も多く、明日見がいるだけで場が和むことが多い。
まさか美化委員に立候補するとは思わなくて、やりたいなら譲ろうと思ったが、すぐに朝宮のことが頭を過った。
きっと朝宮は、俺と一緒に美化委員がやりたくて立候補したのだろう。ここで俺が譲ってしまうと、おかしなことになる。
「三人か。今年の美化委員は人気だな」
先生は少し考えたあと、「うん、じゃんけんだな」と提案した。
「三人そこからじゃんけんしろ。負けたって恨みっこなしだからな」
まさかのじゃんけんに、周囲が「いけいけ」と盛り上がり始める。さっきまで、大半のクラスメイトが『俺は関係ないですよ』アピールをしていたのに、解放されてすっかり大盛り上がりだ。
「はい、じゃんけーん」
と、先生の合図で始まった美化委員争奪戦。
俺はグーを出した。すぐ朝宮を見る。チョキだ。
その隣では、俺と同じくグーを出してる明日見。
……ってことは。
「お、明日見と間山の勝ちな。ってことで美化委員はふたりに決定、と」
呆気なく決まってしまった美化委員。朝宮と一緒にできるかもしれないという淡い期待を抱いていたが、見事に打ち砕かれてしまった。
直後の休み時間、朝宮は意気消沈していた。
「……間山が取られた」
「誤解を生む……!」
相当ショックだったのか、「俺の間山が……」とその顔は悲痛に歪んでいた。
「まあ、同じクラスになれただけでも、かなり運を使ったと思うから」
四クラスもあって常川田や榊とはバラバラになったのに、なぜか俺たちは同じ教室にいることができている。
それだけでもラッキーだと思わないと、バチが当たりそうだ。
「……それもそっか」
朝宮は無理矢理納得するみたいな顔で、「分かった」と素直にうなずいた。
放課後、早速美化委員の集まりがあった。
朝宮に伝えると「教室で待ってる」と返ってきた。なんとなく、そう答えてくれると期待していたからほっとする。
「あ、間山こっちこっち」
集合場所の教室に着くと、たまたま明日見と目が合った。しかも俺を見て、隣の席を指さしている。
ちなみに話すのは初めてで、間山と気軽に呼ばれてちょっと安心した。たしかに友達が多い理由も納得できる。
「ありがとう」
「え、どういたしましてー……まっ、なんもしてないんだけど」
席は決まっていたし、と明日見は付け足した。
「声かけてくれたから?」
「あーそういうこと? いいよいいよ、俺も早く間山と話がしたかったからさ」
「え、俺と?」
「あの朝宮たちと仲いいじゃん? 俺が知ってる限り、途中から仲良くなってたイメージだから、どんな奴なのかなと思って」
なるほど。
朝宮と常川田と榊は、もともと目立っていた。顔も整っているし、何かと存在が派手だった。
そこに、いつしか俺がひょっこり入るようになって、今ではそれが当たり前になっていた。
……周りから見たら不思議だよな、それは俺も思う。
「期待に添えるような人間じゃないかも」
「なんだよそれ、ネガティブか」
はは、と笑い飛ばす明日見はなんというか、裏がないような爽やかさがあった。友達だったら一番に頼ってしまいそうだ。
「よかったら俺とも友達になってよ。はい握手」
手を差し出され、おずおずとそれを握る。
「俺でよかったら」
「おう」
明日見の屈託のない笑顔と手から伝わってくる温かさに、緊張が少し和らぐ。「明日見はさ、なんで美化委員やろうと思ったの?」
委員会は、まだ始まりそうにない。シャーペンをくるくる回していた明日見に話しかけると、明日見は「あー」と前のホワイトボードを見た。
「やるつもりなかったんだけど、立候補してる間山を見てびっくりして」
「え」
「美化委員なんて外れくじじゃん? 誰もやりたくねーのに、それを率先してやる奴がいて、なんか黙って見てるの嫌だなみたいな」
「それで手挙げてくれたんだ」
明日見もやりたいのかな、と思っていた予想は外れていたらしい。
「まさか朝宮も立候補するとは思わなかったけどな」
「そのタイミングで辞退は考えなかったの?」
「だって、じゃんけんとか言われたらなんか燃えるじゃん? 勝ちたくなるし」
本当に勝つとは思わなかったけどさ、と明日見は快活に笑った。
「で、間山は? 去年も一昨年も美化委員って担任言ってたけど」
「あー……うん。誰もやらないなら俺がやっておこうかな、みたいな」
「え、いい人。こんな人実在すんの?」
「ふつうにいるから。別にいい人ってわけでもないし」
「えー神様じゃん。朝宮たちと仲いい理由が分かったわ。人間的にできた奴だったんだな」
まじまじと見つめられて、照れくさくなる。
「朝宮たちがいい奴なんだよ。俺と仲良くしてくれてるから」
そう、朝宮がすごいんだ。
俺を好きになってくれて、想いを伝えてくれて、今では恋人として付き合ってくれている。
朝宮がいなかったら、俺の高校生活はここまで楽しいものにならなかったはずだ。
「俺からしたら、ふたりともすげーけどな」
そう思ってくれる明日見もすごい。
「そういえば、間山って大学決まってんの?」
「あー……K大学を目指そうかなと」
「ガチで!? あそこすげえハイレベじゃん」
俺もそう思う。ハイレベすぎて、名前を出すのも気が引ける。
「明日見は?」
「俺は行きたい大学あったんだけど、レベルが高すぎるっていうか」
「そうなんだ?」
「ギリギリ行ける学部があったとしても、学びたいことじゃなかったら、無理して目指すことないんかなって。それなら興味がある学部に行ってみたいし」
明日見って、そんなところまで考えていたのか。
俺は、そこまで考えられてなかった。
「まっ、そもそも俺が狙える大学あるんかって話だけど」
「明日見、ちなみに成績って」
「毎回赤点ギリギリ。その時点で進学とか夢のまた夢なんだろうけどさ。でも、波多野先生がいろいろ大学教えてくれて、俺の成績でもG大学とかI大学なら行けんじゃないかって」
いずれも、初めて聞くような大学だった。けれど、成績でいえば俺も明日見と同じようなものだ。
「間山は? 成績どんな感じ?」
「俺も赤点ギリギリっていうか……赤点取ることもある、かな」
「まじで? それでK大目指すってすごくね? 行きたい学部とかあんの?」
「いや、学部ってよりかは……」
朝宮が行くから、俺も決めたようなものだ。
改めて考え直すと、俺がK大を目指すなんてやっぱり無謀なんじゃないか。
朝宮は一緒に行こうと言ってくれたけど、今の話を聞いていたら行ける気がしない。
「まあ、行けたらいいなって感じで」
「そっかあ……たしかに行けたらいいよな」
明日見は、俺の話を笑うこともなく真面目に聞いてくれた。
「あ、先生来たわ」
美化委員担当の先生がやってきたことで、会話は終了した。
……なんか、明日見っていい奴。
じゃんけんで決まった美化委員だったけど、なんだかんだ楽しくやれそうだ。
委員会が思ったよりも長引いた。
朝宮が待ってくれているから早く行かないと、と慌てて席を立ち上がる。
教室を出たところで、「間山」と呼ばれる。声がしたほうに視線を向けると、廊下にもたれていた朝宮がいた。
「え、もしかして迎えに来てくれた?」
「うん、遅いからちょっと心配したのもあったけど」
「ごめん、ありが――」
「間山!」
そのとき、後ろから呼ばれたとともに肩に軽く衝撃があった。
「明日見?」
「帰るんだろ? 一緒に帰ろ」
肩を組まれて笑顔を向けられる。陽キャらしい笑みだ。
ふと、朝宮を見た。さっき浮かべていた穏やかな笑みから一転、険しい顔つきで明日見を見ている。
「あの! ごめん、朝宮と約束してて」
すかさず朝宮の元へと駆け寄る。
「あ、そうなん?」
明日見は、あっさりした様子で俺たちを見ている。
すると、今度は朝宮から肩を組まれた。
「間山は俺と帰るから」
「ん? ああ、今聞いたよ」
「うん、俺と約束あるから」
「おう?」
これ、地味に牽制してないか?
明日見は特に気にする様子もなく、「お前ら仲いいんだな」と笑っている。
不意に、明日見には見えない絶妙な角度で朝宮から手を繋がれた。指を絡めるようにした恋人繋ぎだ。
……もしかして、結構怒ってる?
朝宮を見上げると、なんてことはない顔で「ん?」みたいな顔をされる。
「じゃーな、間山と朝宮」
からりとした笑みを浮かた明日見が、その場から去っていく。
「……朝宮」
「ごめん、嫉妬した」
こてんと、俺の肩に額をくっつけて朝宮が甘えてくる。
「早く間山に会いたくて、でも会いに来たら明日見に肩組まれてて、それ見たらなんか冷静でいられなくなったっていうか」
「うん、それは俺がごめん」
明日見にとって、別に深い意味なんてなかったはずだ。
でも朝宮からしたら、いい気しないよな。
「間山」
「ん」
「イチャイチャしたいです」
素直か。朝宮の頭を撫でていると、なぜか明日見が言っていた大学の話を思い出した。
俺と似たような成績。もしかしたら、俺が目指すべき大学ってそっちなのかもしれない。現実的な話、K大は厳しいのかも。
でも、朝宮と一緒の大学に行きたい。通えるなら、高校を卒業しても一緒がいい……けど。
もし別の大学になったら――。
……いや、ないない。
「どうかした?」
朝宮が俺を見た。
「ううん、帰ろうか」
朝宮と同じ大学に行きたい。それは変わらない。
週明けの月曜日、委員会を決めていたLHRで、俺は手を挙げていた。
「おー間山が立候補か。たしか一年と二年のときも美化委員じゃなかったか?」
波多野先生が俺を見て目を丸くした。あまりにも人気がない美化委員決めでは、毎回沈黙という名の押しつけ合いが始まる。
「じゃあ、あとひとりだな」
去年はあまりにも決まらなくて、くじ引きとなった。当たったのは榊で、なんだかんだ楽しい委員会活動を送ることができたから感謝している。
今年も例年通り、くじ引きが行われるのかと思っていた矢先。
「お、朝宮……と、明日見か」
朝宮が手を挙げたのが見えた直後、その後ろに座っていた明日見も挙手した。
「あれ、被った? うわぁ、まじか」
明日見のことは、同じクラスになってから一週間でなんとなく分かっていた。
端的に表すならハッピー陽キャだ。
とにかく明るく、友達も多く、明日見がいるだけで場が和むことが多い。
まさか美化委員に立候補するとは思わなくて、やりたいなら譲ろうと思ったが、すぐに朝宮のことが頭を過った。
きっと朝宮は、俺と一緒に美化委員がやりたくて立候補したのだろう。ここで俺が譲ってしまうと、おかしなことになる。
「三人か。今年の美化委員は人気だな」
先生は少し考えたあと、「うん、じゃんけんだな」と提案した。
「三人そこからじゃんけんしろ。負けたって恨みっこなしだからな」
まさかのじゃんけんに、周囲が「いけいけ」と盛り上がり始める。さっきまで、大半のクラスメイトが『俺は関係ないですよ』アピールをしていたのに、解放されてすっかり大盛り上がりだ。
「はい、じゃんけーん」
と、先生の合図で始まった美化委員争奪戦。
俺はグーを出した。すぐ朝宮を見る。チョキだ。
その隣では、俺と同じくグーを出してる明日見。
……ってことは。
「お、明日見と間山の勝ちな。ってことで美化委員はふたりに決定、と」
呆気なく決まってしまった美化委員。朝宮と一緒にできるかもしれないという淡い期待を抱いていたが、見事に打ち砕かれてしまった。
直後の休み時間、朝宮は意気消沈していた。
「……間山が取られた」
「誤解を生む……!」
相当ショックだったのか、「俺の間山が……」とその顔は悲痛に歪んでいた。
「まあ、同じクラスになれただけでも、かなり運を使ったと思うから」
四クラスもあって常川田や榊とはバラバラになったのに、なぜか俺たちは同じ教室にいることができている。
それだけでもラッキーだと思わないと、バチが当たりそうだ。
「……それもそっか」
朝宮は無理矢理納得するみたいな顔で、「分かった」と素直にうなずいた。
放課後、早速美化委員の集まりがあった。
朝宮に伝えると「教室で待ってる」と返ってきた。なんとなく、そう答えてくれると期待していたからほっとする。
「あ、間山こっちこっち」
集合場所の教室に着くと、たまたま明日見と目が合った。しかも俺を見て、隣の席を指さしている。
ちなみに話すのは初めてで、間山と気軽に呼ばれてちょっと安心した。たしかに友達が多い理由も納得できる。
「ありがとう」
「え、どういたしましてー……まっ、なんもしてないんだけど」
席は決まっていたし、と明日見は付け足した。
「声かけてくれたから?」
「あーそういうこと? いいよいいよ、俺も早く間山と話がしたかったからさ」
「え、俺と?」
「あの朝宮たちと仲いいじゃん? 俺が知ってる限り、途中から仲良くなってたイメージだから、どんな奴なのかなと思って」
なるほど。
朝宮と常川田と榊は、もともと目立っていた。顔も整っているし、何かと存在が派手だった。
そこに、いつしか俺がひょっこり入るようになって、今ではそれが当たり前になっていた。
……周りから見たら不思議だよな、それは俺も思う。
「期待に添えるような人間じゃないかも」
「なんだよそれ、ネガティブか」
はは、と笑い飛ばす明日見はなんというか、裏がないような爽やかさがあった。友達だったら一番に頼ってしまいそうだ。
「よかったら俺とも友達になってよ。はい握手」
手を差し出され、おずおずとそれを握る。
「俺でよかったら」
「おう」
明日見の屈託のない笑顔と手から伝わってくる温かさに、緊張が少し和らぐ。「明日見はさ、なんで美化委員やろうと思ったの?」
委員会は、まだ始まりそうにない。シャーペンをくるくる回していた明日見に話しかけると、明日見は「あー」と前のホワイトボードを見た。
「やるつもりなかったんだけど、立候補してる間山を見てびっくりして」
「え」
「美化委員なんて外れくじじゃん? 誰もやりたくねーのに、それを率先してやる奴がいて、なんか黙って見てるの嫌だなみたいな」
「それで手挙げてくれたんだ」
明日見もやりたいのかな、と思っていた予想は外れていたらしい。
「まさか朝宮も立候補するとは思わなかったけどな」
「そのタイミングで辞退は考えなかったの?」
「だって、じゃんけんとか言われたらなんか燃えるじゃん? 勝ちたくなるし」
本当に勝つとは思わなかったけどさ、と明日見は快活に笑った。
「で、間山は? 去年も一昨年も美化委員って担任言ってたけど」
「あー……うん。誰もやらないなら俺がやっておこうかな、みたいな」
「え、いい人。こんな人実在すんの?」
「ふつうにいるから。別にいい人ってわけでもないし」
「えー神様じゃん。朝宮たちと仲いい理由が分かったわ。人間的にできた奴だったんだな」
まじまじと見つめられて、照れくさくなる。
「朝宮たちがいい奴なんだよ。俺と仲良くしてくれてるから」
そう、朝宮がすごいんだ。
俺を好きになってくれて、想いを伝えてくれて、今では恋人として付き合ってくれている。
朝宮がいなかったら、俺の高校生活はここまで楽しいものにならなかったはずだ。
「俺からしたら、ふたりともすげーけどな」
そう思ってくれる明日見もすごい。
「そういえば、間山って大学決まってんの?」
「あー……K大学を目指そうかなと」
「ガチで!? あそこすげえハイレベじゃん」
俺もそう思う。ハイレベすぎて、名前を出すのも気が引ける。
「明日見は?」
「俺は行きたい大学あったんだけど、レベルが高すぎるっていうか」
「そうなんだ?」
「ギリギリ行ける学部があったとしても、学びたいことじゃなかったら、無理して目指すことないんかなって。それなら興味がある学部に行ってみたいし」
明日見って、そんなところまで考えていたのか。
俺は、そこまで考えられてなかった。
「まっ、そもそも俺が狙える大学あるんかって話だけど」
「明日見、ちなみに成績って」
「毎回赤点ギリギリ。その時点で進学とか夢のまた夢なんだろうけどさ。でも、波多野先生がいろいろ大学教えてくれて、俺の成績でもG大学とかI大学なら行けんじゃないかって」
いずれも、初めて聞くような大学だった。けれど、成績でいえば俺も明日見と同じようなものだ。
「間山は? 成績どんな感じ?」
「俺も赤点ギリギリっていうか……赤点取ることもある、かな」
「まじで? それでK大目指すってすごくね? 行きたい学部とかあんの?」
「いや、学部ってよりかは……」
朝宮が行くから、俺も決めたようなものだ。
改めて考え直すと、俺がK大を目指すなんてやっぱり無謀なんじゃないか。
朝宮は一緒に行こうと言ってくれたけど、今の話を聞いていたら行ける気がしない。
「まあ、行けたらいいなって感じで」
「そっかあ……たしかに行けたらいいよな」
明日見は、俺の話を笑うこともなく真面目に聞いてくれた。
「あ、先生来たわ」
美化委員担当の先生がやってきたことで、会話は終了した。
……なんか、明日見っていい奴。
じゃんけんで決まった美化委員だったけど、なんだかんだ楽しくやれそうだ。
委員会が思ったよりも長引いた。
朝宮が待ってくれているから早く行かないと、と慌てて席を立ち上がる。
教室を出たところで、「間山」と呼ばれる。声がしたほうに視線を向けると、廊下にもたれていた朝宮がいた。
「え、もしかして迎えに来てくれた?」
「うん、遅いからちょっと心配したのもあったけど」
「ごめん、ありが――」
「間山!」
そのとき、後ろから呼ばれたとともに肩に軽く衝撃があった。
「明日見?」
「帰るんだろ? 一緒に帰ろ」
肩を組まれて笑顔を向けられる。陽キャらしい笑みだ。
ふと、朝宮を見た。さっき浮かべていた穏やかな笑みから一転、険しい顔つきで明日見を見ている。
「あの! ごめん、朝宮と約束してて」
すかさず朝宮の元へと駆け寄る。
「あ、そうなん?」
明日見は、あっさりした様子で俺たちを見ている。
すると、今度は朝宮から肩を組まれた。
「間山は俺と帰るから」
「ん? ああ、今聞いたよ」
「うん、俺と約束あるから」
「おう?」
これ、地味に牽制してないか?
明日見は特に気にする様子もなく、「お前ら仲いいんだな」と笑っている。
不意に、明日見には見えない絶妙な角度で朝宮から手を繋がれた。指を絡めるようにした恋人繋ぎだ。
……もしかして、結構怒ってる?
朝宮を見上げると、なんてことはない顔で「ん?」みたいな顔をされる。
「じゃーな、間山と朝宮」
からりとした笑みを浮かた明日見が、その場から去っていく。
「……朝宮」
「ごめん、嫉妬した」
こてんと、俺の肩に額をくっつけて朝宮が甘えてくる。
「早く間山に会いたくて、でも会いに来たら明日見に肩組まれてて、それ見たらなんか冷静でいられなくなったっていうか」
「うん、それは俺がごめん」
明日見にとって、別に深い意味なんてなかったはずだ。
でも朝宮からしたら、いい気しないよな。
「間山」
「ん」
「イチャイチャしたいです」
素直か。朝宮の頭を撫でていると、なぜか明日見が言っていた大学の話を思い出した。
俺と似たような成績。もしかしたら、俺が目指すべき大学ってそっちなのかもしれない。現実的な話、K大は厳しいのかも。
でも、朝宮と一緒の大学に行きたい。通えるなら、高校を卒業しても一緒がいい……けど。
もし別の大学になったら――。
……いや、ないない。
「どうかした?」
朝宮が俺を見た。
「ううん、帰ろうか」
朝宮と同じ大学に行きたい。それは変わらない。



