1泊2日の宿泊研修が終わり、聖奈たちは星ノ谷高校へと戻ってきた。重い荷物を持った生徒たちが散らばっていく。聖奈、茜、加奈子の3人もゆっくりと駅に向かって歩いた。
「明日からまた授業かー。1日くらい休ませてくれればいいのに」
茜が不満そうに言う。
「しかも明日は負の木曜日だしね」
と言う加奈子の表情はあっさりしていた。ちなみに、木曜日は英語(リーダー)、数学、日本史、英語(グラマー)、体育、古文と何とも眠くて重い時間割になっている。しかも英語と古文は単語の小テスト付き。そういうわけで1年8組のほとんどの生徒にとって木曜日は憂鬱デーなのだ。
「私まだ数学の宿題全くやってないんだよねー」
茜の言葉で聖奈は急に足を止めた。
「聖奈どうした?」
聖奈の異変に気付いた加奈子が振り返った。
「問題集、学校だわ」
聖奈は目を閉じて少しだけ考える。
「ごめん、先帰ってて。また明日!」
早口で喋りながら聖奈はくるりと反対を向き、学校へ向かって走り出した。茜と加奈子は大荷物にも関わらず坂道をダッシュできる聖奈をポカンとした顔で見つめた。
◆◆◆◆◆
聖奈は教室の後ろ側の扉をガラリと開けて教室に足を踏み入れた。ドアを開ける音に反応した宮田くんが自席から振り返る。目があった聖奈はなにかしら挨拶するべきか1秒だけ悩んだが、結局、会釈なのかなんなのかよく分からない前屈みをしながら、小走りで自席に向かった。
窓際一番後ろの自席に到着した聖奈は、リュックを机の上におろしながらゆっくり椅子に腰かける。ドア側から2列目、前から3番目。聖奈の席から遠い位置に座っている宮田くんはもう前を向いている。聖奈は机の中に手を突っ込み教科書の束を引き出した。束を90度回転させ背表紙を確認する。数学の問題集を抜き取ったところでキーッと音がした。音で宮田くんが席を立ったのを感じた聖奈は、顔を上げることなく数学の問題集をリュックにしまう。作業に集中してる風を装った。
ファスナーを閉めようとしたときだった。リュックの上に人影が映っている。聖奈はパッと右上に顔を持ち上げた。
「金子さんのこと、覚えてるよ。ちゃんと」
リュックを背負った宮田くんが穏やかな目で見つめている。
「……そっか。よかった」
なんとなく冷静を装いたくなった聖奈は目を逸らさないように意識をした。
「それと、俺も海外研修狙いだから。ライバルだね」
宮田くんの顔がいつもの生意気っぽい表情に変わった。
「学年1位にそんなこと言っていただけるなんて、なんだか恐れ多いなあ」
聖奈も宮田くんのノリに合わせてみる。
「まあ、食べ物目当ての人には負けませんけどね」
「私は食いしん坊キャラかい!」
ふてくされたフリをする聖奈を見て満足したのか、宮田くんはいきなり「ははは!」と声を出して笑い始めた。そのまま聖奈の隣、加奈子の席の椅子をひく。腰をかけるや否や宮田くんはピタッと笑い声を止めた。
「あのさ、シュルカナイトって知ってる?」
真面目な表情で質問を投げかけた宮田くんだが、目には優しさを帯びていた。
「……石の名前?」
「へえ、知ってんだ」
自分で聞いておきながら宮田くんは聖奈の返答に正直驚いていた。シュルカナイトなんてマニアックな石を知っている人なんて、石好きかクイズ研究会の人くらいなものだ。
「うん」
聖奈の顔はキョトンとしている。
「知ってると思うけど、俺の弟はコールグリンパ症って病気で。7年前に病気が分かったとき、医者から10年生きられるかどうかって言われたんだよね」
宮田くんは淡々と語り始めた。あまりにもあっさりした話ぶりに、聖奈は胸がぎゅっと締め付けられた。
「当時まだ治療法は見つかっていなかったからね。でも、今は研究中の薬のおかげで快方に向かってる」
「え! 弟さん良くなってるの!?」
聖奈は自分のことのように嬉しくなった。そんな聖奈の笑顔に宮田くんは優しく頷いた。
「それで、その薬の材料がシュルカナイト。エグレシア王国のウェスター鉱山ってところでしか採掘されてないらしいから。行ってみたかったんだ」
ちなみに、ウェスター鉱山とはエグレシア王国ウェスター領にある国内最大の鉱山である。
「そっか……本当に良かった! じゃあ、絶対に行かなきゃね、海外研修!」
聖奈の顔はキラキラと輝いていた。その無邪気な表情を見て、宮田くんは少しだけ目を細めた。
「……それと、エグレシア王国に行ったら、会いたい人がいるんだよね」
「……?」
「エグレシア王国に住んでいた小児科医の先生なんだけど。その先生のおかげでコールグリンパ症の特効薬が間に合ったようなものだから、お礼が言いたくて」
聖奈は「エグレシア王国に住んでた」と宮田くんが過去形を用いた違和感に気付いたがなんとなくスルーした。
「ちなみにさ、この特効薬の研究をしてるの、製薬会社で働いてる俺の父さんなんだ。弟が病気を発症する前からこの研究やってたらしくて」
「え、つまり、たまたまお父さんがやってた研究が弟さんを救ってるってこと?」
「うん」
「すごい……」
「で、この研究を持ちかけてくれて、その後もいろいろ協力してくれたのが、さっき言ってた先生」
「それは、なんていうか、神様だね」
おそらくこの小児科医の先生がいなければ、宮田くんの弟さんはただひたすら死を待つことになっていたであろう。そんな現実を変えてくれた、この奇跡的な話を上手く表現できる方法が思い浮かばなかった。聖奈は、まるで何かの御伽話を聞かされたような気持ちになっていた。
「うん、本当に神様だと思うよ」
「お礼、言えるといいね」
「うん」
窓からフワッと差し込む日差しが聖奈と宮田くんを優しく包み込んだ。高校に入ってから1度も関わることのなかった宮田くんと、教室で2人きり、こんなに長く話している。この状況に聖奈の心はキュッとなった。
……と、ここで一つの疑問が浮かび上がってきた。そういえば、宮田くんと仲の良さそうな竹本くん、藤原くん、美咲は多分このことを知らない。
「そういえば、弟さんの病気が良くなってるってこと、みんなには言わないの?」
「うん、あんまり病気のことで周りにいろいろ言われたくないから。それにまだ完治したわけじゃないし」
「そっか」
宮田くんがアッサリと言った「完治したわけじゃない」という言葉が聖奈にズシリと重くのしかかる。まだまだ戦いの最中であることを忘れていた。聖奈の表情が少し強張った。
「覚えてないかもしれないけど。弟を治す薬ができるかもしれないって分かったの、あのお守りをくれた日だったんだ」
「え?」
「だから金子さんにだけ話した」
聖奈は宮田くんの方を向いたままキョトンとしている。
「お互い、海外研修行けるといいね」
宮田くんは屈託のない笑顔を見せると、スッと立ち上がり椅子を机の中にしまった。満足そうな顔をしている。
「うん」
聖奈が微笑み返すのを見るや否や、宮田くんは軽い足取りで教室を去っていった。
◆◆◆◆◆
時計の針が2本とも12の方を向いている。数学の宿題を片付け布団に入った聖奈は、夕方の宮田くんとの会話を思い出していた。弟さんの病気が良くなっているからなのか、自分のことを覚えていてくれたからなのか、誰にも話していないことを教えてくれたからなのか……。分からないけど、なぜだか嬉しくて顔が緩んでしまう。
気持ちが落ち着かなくなった聖奈は、充電器に繋がった状態のスマホに手を伸ばした。暗闇の中ボヤッと光るスマホを手に持ち、何も考えずにインターネット検索画面を開く。
検索バーの左端で点滅する縦線を見つめながら「コールグリンパ症 薬」と入力してみた。いくつかヒットしたページを漁ってみる。
「これか」
臨床試験のページに行き着いた。宮田くんの話してくれた薬はまだ開発途中のもので、3段階ある臨床試験の2ステップ目らしい。おそらく宮田くんの弟はこの臨床試験……いわゆる治験に参加しているのだろう。インターネットの情報ではあるが、聞いていた話を実際に目にすると、なんだか胸がザワザワする。
聖奈は表示されているページの戻るボタンを押して、今度は検索バーに「ウェスター鉱山」と入力した。なんとなく、海外研修で訪問予定の場所を見ることで自分の士気を高めたかったんだと思う。
小児科医になりたくて、医学部に入るために偏差値の高い高校を選んだ聖奈だったが、いくつかある進学校の中で星ノ谷高校を志望したのはやはりこの海外研修の存在が大きい。医学分野に特化した研修内容というわけではないが、理系分野ではかなり優れていると言われているエグレシア王国の、さまざまな研究機関を見ることができる。かなり魅力的だ。というのは表向きの理由で、本当は直感だったりする。聖奈はエグレシア王国にどこか惹かれていた。
ウェスター鉱山のホームページらしきものを開いてみる。敷き詰められた英単語たちの中に混じっている現地の写真をぼーっと見ながらスクロールしていく。
スクロールバーが1番下まで辿り着いた。
「……」
聖奈は戻るボタンを押す。心臓の鼓動が速く大きくなっているのを感じる。
深く息を吸った聖奈は、「ウェスター鉱山」と入力された検索バーを見つめると画像検索ボタンをタップした。
やっぱり…聖奈はこの場所を知っている。テレビや雑誌の特集で見たなんてレベルではない。行ったことがある、と思う。
例えば、一般見学エリアに置かれたこの作業員風の人形。本物の人間だと思いながら近付いて……でも動く気配がないから死体なんじゃないかと怖くなった記憶がある。この鉱山博物館横に置かれているトロッコ。中に入って遊んでいたら白い服が汚れてしまい「どうしようか」と焦った記憶がある。とは言え、聖奈は日本から出たことが今まで一度もない。日本のどこかに似た施設があるのだろうか。
薄暗い部屋で1人。聖奈は到底説明のつかない自分自身に不安を感じた。
「エグレシア王国に行けば、このモヤモヤの正体が分かるのかな……」
「明日からまた授業かー。1日くらい休ませてくれればいいのに」
茜が不満そうに言う。
「しかも明日は負の木曜日だしね」
と言う加奈子の表情はあっさりしていた。ちなみに、木曜日は英語(リーダー)、数学、日本史、英語(グラマー)、体育、古文と何とも眠くて重い時間割になっている。しかも英語と古文は単語の小テスト付き。そういうわけで1年8組のほとんどの生徒にとって木曜日は憂鬱デーなのだ。
「私まだ数学の宿題全くやってないんだよねー」
茜の言葉で聖奈は急に足を止めた。
「聖奈どうした?」
聖奈の異変に気付いた加奈子が振り返った。
「問題集、学校だわ」
聖奈は目を閉じて少しだけ考える。
「ごめん、先帰ってて。また明日!」
早口で喋りながら聖奈はくるりと反対を向き、学校へ向かって走り出した。茜と加奈子は大荷物にも関わらず坂道をダッシュできる聖奈をポカンとした顔で見つめた。
◆◆◆◆◆
聖奈は教室の後ろ側の扉をガラリと開けて教室に足を踏み入れた。ドアを開ける音に反応した宮田くんが自席から振り返る。目があった聖奈はなにかしら挨拶するべきか1秒だけ悩んだが、結局、会釈なのかなんなのかよく分からない前屈みをしながら、小走りで自席に向かった。
窓際一番後ろの自席に到着した聖奈は、リュックを机の上におろしながらゆっくり椅子に腰かける。ドア側から2列目、前から3番目。聖奈の席から遠い位置に座っている宮田くんはもう前を向いている。聖奈は机の中に手を突っ込み教科書の束を引き出した。束を90度回転させ背表紙を確認する。数学の問題集を抜き取ったところでキーッと音がした。音で宮田くんが席を立ったのを感じた聖奈は、顔を上げることなく数学の問題集をリュックにしまう。作業に集中してる風を装った。
ファスナーを閉めようとしたときだった。リュックの上に人影が映っている。聖奈はパッと右上に顔を持ち上げた。
「金子さんのこと、覚えてるよ。ちゃんと」
リュックを背負った宮田くんが穏やかな目で見つめている。
「……そっか。よかった」
なんとなく冷静を装いたくなった聖奈は目を逸らさないように意識をした。
「それと、俺も海外研修狙いだから。ライバルだね」
宮田くんの顔がいつもの生意気っぽい表情に変わった。
「学年1位にそんなこと言っていただけるなんて、なんだか恐れ多いなあ」
聖奈も宮田くんのノリに合わせてみる。
「まあ、食べ物目当ての人には負けませんけどね」
「私は食いしん坊キャラかい!」
ふてくされたフリをする聖奈を見て満足したのか、宮田くんはいきなり「ははは!」と声を出して笑い始めた。そのまま聖奈の隣、加奈子の席の椅子をひく。腰をかけるや否や宮田くんはピタッと笑い声を止めた。
「あのさ、シュルカナイトって知ってる?」
真面目な表情で質問を投げかけた宮田くんだが、目には優しさを帯びていた。
「……石の名前?」
「へえ、知ってんだ」
自分で聞いておきながら宮田くんは聖奈の返答に正直驚いていた。シュルカナイトなんてマニアックな石を知っている人なんて、石好きかクイズ研究会の人くらいなものだ。
「うん」
聖奈の顔はキョトンとしている。
「知ってると思うけど、俺の弟はコールグリンパ症って病気で。7年前に病気が分かったとき、医者から10年生きられるかどうかって言われたんだよね」
宮田くんは淡々と語り始めた。あまりにもあっさりした話ぶりに、聖奈は胸がぎゅっと締め付けられた。
「当時まだ治療法は見つかっていなかったからね。でも、今は研究中の薬のおかげで快方に向かってる」
「え! 弟さん良くなってるの!?」
聖奈は自分のことのように嬉しくなった。そんな聖奈の笑顔に宮田くんは優しく頷いた。
「それで、その薬の材料がシュルカナイト。エグレシア王国のウェスター鉱山ってところでしか採掘されてないらしいから。行ってみたかったんだ」
ちなみに、ウェスター鉱山とはエグレシア王国ウェスター領にある国内最大の鉱山である。
「そっか……本当に良かった! じゃあ、絶対に行かなきゃね、海外研修!」
聖奈の顔はキラキラと輝いていた。その無邪気な表情を見て、宮田くんは少しだけ目を細めた。
「……それと、エグレシア王国に行ったら、会いたい人がいるんだよね」
「……?」
「エグレシア王国に住んでいた小児科医の先生なんだけど。その先生のおかげでコールグリンパ症の特効薬が間に合ったようなものだから、お礼が言いたくて」
聖奈は「エグレシア王国に住んでた」と宮田くんが過去形を用いた違和感に気付いたがなんとなくスルーした。
「ちなみにさ、この特効薬の研究をしてるの、製薬会社で働いてる俺の父さんなんだ。弟が病気を発症する前からこの研究やってたらしくて」
「え、つまり、たまたまお父さんがやってた研究が弟さんを救ってるってこと?」
「うん」
「すごい……」
「で、この研究を持ちかけてくれて、その後もいろいろ協力してくれたのが、さっき言ってた先生」
「それは、なんていうか、神様だね」
おそらくこの小児科医の先生がいなければ、宮田くんの弟さんはただひたすら死を待つことになっていたであろう。そんな現実を変えてくれた、この奇跡的な話を上手く表現できる方法が思い浮かばなかった。聖奈は、まるで何かの御伽話を聞かされたような気持ちになっていた。
「うん、本当に神様だと思うよ」
「お礼、言えるといいね」
「うん」
窓からフワッと差し込む日差しが聖奈と宮田くんを優しく包み込んだ。高校に入ってから1度も関わることのなかった宮田くんと、教室で2人きり、こんなに長く話している。この状況に聖奈の心はキュッとなった。
……と、ここで一つの疑問が浮かび上がってきた。そういえば、宮田くんと仲の良さそうな竹本くん、藤原くん、美咲は多分このことを知らない。
「そういえば、弟さんの病気が良くなってるってこと、みんなには言わないの?」
「うん、あんまり病気のことで周りにいろいろ言われたくないから。それにまだ完治したわけじゃないし」
「そっか」
宮田くんがアッサリと言った「完治したわけじゃない」という言葉が聖奈にズシリと重くのしかかる。まだまだ戦いの最中であることを忘れていた。聖奈の表情が少し強張った。
「覚えてないかもしれないけど。弟を治す薬ができるかもしれないって分かったの、あのお守りをくれた日だったんだ」
「え?」
「だから金子さんにだけ話した」
聖奈は宮田くんの方を向いたままキョトンとしている。
「お互い、海外研修行けるといいね」
宮田くんは屈託のない笑顔を見せると、スッと立ち上がり椅子を机の中にしまった。満足そうな顔をしている。
「うん」
聖奈が微笑み返すのを見るや否や、宮田くんは軽い足取りで教室を去っていった。
◆◆◆◆◆
時計の針が2本とも12の方を向いている。数学の宿題を片付け布団に入った聖奈は、夕方の宮田くんとの会話を思い出していた。弟さんの病気が良くなっているからなのか、自分のことを覚えていてくれたからなのか、誰にも話していないことを教えてくれたからなのか……。分からないけど、なぜだか嬉しくて顔が緩んでしまう。
気持ちが落ち着かなくなった聖奈は、充電器に繋がった状態のスマホに手を伸ばした。暗闇の中ボヤッと光るスマホを手に持ち、何も考えずにインターネット検索画面を開く。
検索バーの左端で点滅する縦線を見つめながら「コールグリンパ症 薬」と入力してみた。いくつかヒットしたページを漁ってみる。
「これか」
臨床試験のページに行き着いた。宮田くんの話してくれた薬はまだ開発途中のもので、3段階ある臨床試験の2ステップ目らしい。おそらく宮田くんの弟はこの臨床試験……いわゆる治験に参加しているのだろう。インターネットの情報ではあるが、聞いていた話を実際に目にすると、なんだか胸がザワザワする。
聖奈は表示されているページの戻るボタンを押して、今度は検索バーに「ウェスター鉱山」と入力した。なんとなく、海外研修で訪問予定の場所を見ることで自分の士気を高めたかったんだと思う。
小児科医になりたくて、医学部に入るために偏差値の高い高校を選んだ聖奈だったが、いくつかある進学校の中で星ノ谷高校を志望したのはやはりこの海外研修の存在が大きい。医学分野に特化した研修内容というわけではないが、理系分野ではかなり優れていると言われているエグレシア王国の、さまざまな研究機関を見ることができる。かなり魅力的だ。というのは表向きの理由で、本当は直感だったりする。聖奈はエグレシア王国にどこか惹かれていた。
ウェスター鉱山のホームページらしきものを開いてみる。敷き詰められた英単語たちの中に混じっている現地の写真をぼーっと見ながらスクロールしていく。
スクロールバーが1番下まで辿り着いた。
「……」
聖奈は戻るボタンを押す。心臓の鼓動が速く大きくなっているのを感じる。
深く息を吸った聖奈は、「ウェスター鉱山」と入力された検索バーを見つめると画像検索ボタンをタップした。
やっぱり…聖奈はこの場所を知っている。テレビや雑誌の特集で見たなんてレベルではない。行ったことがある、と思う。
例えば、一般見学エリアに置かれたこの作業員風の人形。本物の人間だと思いながら近付いて……でも動く気配がないから死体なんじゃないかと怖くなった記憶がある。この鉱山博物館横に置かれているトロッコ。中に入って遊んでいたら白い服が汚れてしまい「どうしようか」と焦った記憶がある。とは言え、聖奈は日本から出たことが今まで一度もない。日本のどこかに似た施設があるのだろうか。
薄暗い部屋で1人。聖奈は到底説明のつかない自分自身に不安を感じた。
「エグレシア王国に行けば、このモヤモヤの正体が分かるのかな……」
