聖奈と理玖は2人並んで宗馬さんがまとめたと思われる資料を読んでいる。現在、エグレシア王国で採掘されたシュルカナイトは、王国内でも有名な老舗ジュエリー会社「ブリリアント」を介して各国に輸出されているらしい。
「この会社、7年前に社長がアルフ・バンサリンって人に代わってから、売上絶好調だね」
聖奈は資料に目を落としたまま話し出した。
「それまでは富裕層向けの高価な宝石しか出してなかったみたいだけど、庶民向けの安価な宝石も扱うようになって成功した……って感じらしいね」
実際に理玖の言う通りである。それを1度目を通しただけで読み取れるのだから、やはり学年トップはだてじゃない。
「そういえば、アルフ・バンサリンってどこかで見たような……」
蒼は呟きながら立ち上がり、資料ファイルが並んだ棚の前に立った。そして、ファイルを出してめくって戻してを繰り返す。しかし、なかなか目的のファイルは見つからない。
そんな蒼を見ていた聖奈も棚の方へと小走りで向かった。
「これじゃない?」
聖奈は右下の方にあったファイルを引っこ抜き、1ページ目を開いた。
「そう! これ!」
蒼はそのまま座り込み資料を読み始めた。ファイルには「モリス・メリアッシュの会食記録」と記されている。
「何?」
椅子に座っていた理玖も蒼の方へと駆け寄る。
「このアルフ・バンサリンって人、モリス叔父さんと随分親しいみたい」
蒼は資料内の「アルフ・バンサリン」という文字をいくつか指さした。
「よくこんな細かいの覚えてたな」
理玖は素直に感心した。
「アルフ・バンサリンって名前、事件で亡くなった守衛さんと同じなんだ。だから印象に残ってて」
蒼は懐かしむような、でも少しだけ寂しげな目をして言った。
「そっか」
理玖は蒼に合わせるように隣に座り込んだ。
「なるほど……」
理玖と蒼は「モリス・メリアッシュの会食記録」を見ながら2人同時に呟いた。その呟きにはどことなく溜息が多く混ざっている。
何が「なるほど」なのか分かっていない聖奈は、自分用のパソコンの前に戻り、資料内に書いてあったお店の名前「ディスキプーラハウス」を検索してみた。そして、1番上に出てきたホームページをクリックする。資料内に掲載されていた店外観の写真が聖奈の目に入る。
「これか……」
そのままページを下の方にスクロールしていく。聖奈くらいの年齢の女の子の写真がたくさん……。どうやら、アルフ・バンサリンとモリス・メリアッシュは、若い女性が接客する、日本で言うところのキャバクラやガールズバーのような施設に通い詰めてるみたいだ。女の子たちの肌、髪、瞳がさまざまであることから、外国人が多いことが伺える。
「はい、おしまい」
聖奈の後ろに立った理玖は、カーソルを「戻るボタン」のところまで移動させて、クリックした。また検索結果のページに戻る。
「子ども扱いしないの!」
聖奈はわざとらしく怒った表情をつくりながら、理玖の手首を掴んで大袈裟に横にズラした。そして、聖奈は視線を再びPCに戻す。そのとき、「ディスキプーラハウス」に関するニュースが目に飛び込んできた。聖奈はニュース一覧のページを開き、そのまま、記事のリンクをクリックし、確認し……を繰り返していく。
「蒼、ちょっとこっち!」
聖奈の後ろで同じくニュースを見ていた理玖は、棚の前に座り込んでいる蒼を呼んだ。
「この店、暴力事件が多すぎないか? この3ヶ月だけで少なくとも5件」
理玖はPCを見ながら蒼に言った。
PC画面に映っているニュース記事には「ディスキプーラハウス」で働く女性従業員が、突然暴れ出して客に殴りかかり大怪我させた旨が書かれている。
「ここもか……」
蒼は深刻そうな顔をした。
「ここも……?」
聖奈は振り返り蒼の方を見る。
「最近、エグレシア王国の治安が少しずつ悪くなっているみたいなんだ、こんな感じで。今、劇団コウモリの方でもいろいろと調べてるらしいんだけど……」
蒼は険しい表情でPC画面を見つめた。
「海外研修のときは……そんな感じしなかったけど」
理玖は蒼を心配そうに見た。
「治安が悪くなったと言っても、今はまだ一部のエリアだけだから。多分まだほとんどの人は事態の深刻さに気付いていない。だけど、暴力、窃盗、薬物、性犯罪……このままだと良くない気がするんだ。」
蒼は唇にキュッと力を入れた。
◆◆◆◆◆
再び3人はそれぞれに資料を読みはじめた。
「蒼、質問! このレンビーって宝石って人気なの? 日本じゃあんまり聞かないんだけど」
理玖は挙手をしながら蒼の方を見た。
「うん、人気だし有名だよ。でも高価。知名度とか価格とかはダイヤモンドに近い感じかな」
蒼は当たり前のように説明した。
「なるほどね。それで見た目が似ているシュルカナイトをお手頃価格で売り始めたのか」
理玖は再び資料へと視線を戻した。
レンビーという宝石はもともとマニアの中で重宝されていた宝石らしいが、およそ30年程前にエグレシア王国周辺で流行した映画『君の青い瞳』がきっかけで爆発的に人気となった。そして昨年、クルファナ王国の映画制作会社がこの映画のリメイク版を公開。クルファナ王国周辺諸国でレンビーの人気に拍車がかかったようだ。
「この『君の青い瞳』って映画、日本で見れないのかなぁ」
聖奈は理玖と蒼に聞こえる程度の声で呟いた。
「クルファナ王国のリメイク版なら宗馬が持ってたはず。ちょっと待ってて」
蒼は立ち上がり、駆け足でリビングを去っていった。そして1分もしないうちにパタパタという足音と共に戻ってきた。
「あったよ! 見てみる?」
蒼は聖奈と理玖の顔を順番に見た。
「うん」
「俺も見たい」
蒼はリビングにある大きなテレビの電源をつけた。
◆◆◆◆◆
映画のスタッフロールまできっちり見た3人はそれぞれ少し体勢を崩した。
「まあ、なんていうか、シュルカナイトが戦争してる国で人気なのも納得って感じだったね」
聖奈は率直な感想を述べた。
「相変わらず訛りが強くて聞き取れなかった部分も多いんだけど。お金持ちのお嬢様が戦争に向かう恋人にレンビーっていう宝石をお守りとして渡して。生きることを諦めそうになった恋人はそのお守りを見てお嬢様の目を思い出して。それでなんとか頑張れた……って話で合ってるよね?」
聖奈と蒼以上に疲れ切った顔をしている理玖は寝転がりながら2人を交互に見た。
「合ってる合ってる」
聖奈は頷いた。
「レンビーの代わりにお手頃価格なシュルカナイトが流行るの、なんか納得だわ。戦争のお守りになってるわけね……」
聖奈はメリアッシュ惨殺事件の真相に迫る糸口がなかなか見つからないことに対して疲弊していた。もう頭が回らない。
疲れ切っていた聖奈はぼんやりと何も考えずに、手に持っていたスマホで「戦争」と入力してみた。「戦争」という概念に関して説明するページ、最新の「戦争」に関するニュースページ、さまざまなリンクが並んでいる。何気なく下へ下へとスクロールしていく中で、どこかで耳にしたことのある文字が聖奈の目に飛び込んできた。
「あ、竹本栞菜」
聖奈は、この竹本栞菜という人のインタビュー記事をタップしてみることにした。
この人は、確か、シュルカナイトの医療活用に関する論文を、鈴木悠聖先生と共同で書いた人……のはず。同姓同名でなければ。クラスメイトの「竹本奏多」と名前が似ているため記憶に残っている。
どうやら竹本栞菜は戦争で苦しんでいる国で医者としてボランティアをしているらしい。ただ、治療するだけでなく、各国の医療体制が整うように整備する事業も手掛けているみたいだ。
◆◆◆◆◆
――竹本医師は、今までどのような国で活動されてきたのですか。
竹本:グレマレ国、セントラネス国、ヒーポット国、コンダルシェ国、ワリダラ国、オルハーレフ国、アランタ国……たくさんの国に行きました。
戦争により負傷した方を治療するのはもちろん、各国で治療に必要な物品や施設の確保を行い、医療知識を教えスタッフとして働ける人を増やし……僕がいなくなっても機能できる医療体制を目指して日々活動しています。
――危険だとは思いますが、なぜ戦地に赴き医療ボランティアとして活動しているのですか。
竹本:戦争を引き起こしているのは一部の人ですが、それにより苦しめられている人はたくさんいます。私にできることはないかと考えて……気づいたときには、もう身体が動いていました。
実は私の祖母はクルファナ人で、幼少期に戦争を経験しました。昔、祖母から当時の話を聞いたことがあります。その追体験が今の私の土台になっているのかもしれません。
「この会社、7年前に社長がアルフ・バンサリンって人に代わってから、売上絶好調だね」
聖奈は資料に目を落としたまま話し出した。
「それまでは富裕層向けの高価な宝石しか出してなかったみたいだけど、庶民向けの安価な宝石も扱うようになって成功した……って感じらしいね」
実際に理玖の言う通りである。それを1度目を通しただけで読み取れるのだから、やはり学年トップはだてじゃない。
「そういえば、アルフ・バンサリンってどこかで見たような……」
蒼は呟きながら立ち上がり、資料ファイルが並んだ棚の前に立った。そして、ファイルを出してめくって戻してを繰り返す。しかし、なかなか目的のファイルは見つからない。
そんな蒼を見ていた聖奈も棚の方へと小走りで向かった。
「これじゃない?」
聖奈は右下の方にあったファイルを引っこ抜き、1ページ目を開いた。
「そう! これ!」
蒼はそのまま座り込み資料を読み始めた。ファイルには「モリス・メリアッシュの会食記録」と記されている。
「何?」
椅子に座っていた理玖も蒼の方へと駆け寄る。
「このアルフ・バンサリンって人、モリス叔父さんと随分親しいみたい」
蒼は資料内の「アルフ・バンサリン」という文字をいくつか指さした。
「よくこんな細かいの覚えてたな」
理玖は素直に感心した。
「アルフ・バンサリンって名前、事件で亡くなった守衛さんと同じなんだ。だから印象に残ってて」
蒼は懐かしむような、でも少しだけ寂しげな目をして言った。
「そっか」
理玖は蒼に合わせるように隣に座り込んだ。
「なるほど……」
理玖と蒼は「モリス・メリアッシュの会食記録」を見ながら2人同時に呟いた。その呟きにはどことなく溜息が多く混ざっている。
何が「なるほど」なのか分かっていない聖奈は、自分用のパソコンの前に戻り、資料内に書いてあったお店の名前「ディスキプーラハウス」を検索してみた。そして、1番上に出てきたホームページをクリックする。資料内に掲載されていた店外観の写真が聖奈の目に入る。
「これか……」
そのままページを下の方にスクロールしていく。聖奈くらいの年齢の女の子の写真がたくさん……。どうやら、アルフ・バンサリンとモリス・メリアッシュは、若い女性が接客する、日本で言うところのキャバクラやガールズバーのような施設に通い詰めてるみたいだ。女の子たちの肌、髪、瞳がさまざまであることから、外国人が多いことが伺える。
「はい、おしまい」
聖奈の後ろに立った理玖は、カーソルを「戻るボタン」のところまで移動させて、クリックした。また検索結果のページに戻る。
「子ども扱いしないの!」
聖奈はわざとらしく怒った表情をつくりながら、理玖の手首を掴んで大袈裟に横にズラした。そして、聖奈は視線を再びPCに戻す。そのとき、「ディスキプーラハウス」に関するニュースが目に飛び込んできた。聖奈はニュース一覧のページを開き、そのまま、記事のリンクをクリックし、確認し……を繰り返していく。
「蒼、ちょっとこっち!」
聖奈の後ろで同じくニュースを見ていた理玖は、棚の前に座り込んでいる蒼を呼んだ。
「この店、暴力事件が多すぎないか? この3ヶ月だけで少なくとも5件」
理玖はPCを見ながら蒼に言った。
PC画面に映っているニュース記事には「ディスキプーラハウス」で働く女性従業員が、突然暴れ出して客に殴りかかり大怪我させた旨が書かれている。
「ここもか……」
蒼は深刻そうな顔をした。
「ここも……?」
聖奈は振り返り蒼の方を見る。
「最近、エグレシア王国の治安が少しずつ悪くなっているみたいなんだ、こんな感じで。今、劇団コウモリの方でもいろいろと調べてるらしいんだけど……」
蒼は険しい表情でPC画面を見つめた。
「海外研修のときは……そんな感じしなかったけど」
理玖は蒼を心配そうに見た。
「治安が悪くなったと言っても、今はまだ一部のエリアだけだから。多分まだほとんどの人は事態の深刻さに気付いていない。だけど、暴力、窃盗、薬物、性犯罪……このままだと良くない気がするんだ。」
蒼は唇にキュッと力を入れた。
◆◆◆◆◆
再び3人はそれぞれに資料を読みはじめた。
「蒼、質問! このレンビーって宝石って人気なの? 日本じゃあんまり聞かないんだけど」
理玖は挙手をしながら蒼の方を見た。
「うん、人気だし有名だよ。でも高価。知名度とか価格とかはダイヤモンドに近い感じかな」
蒼は当たり前のように説明した。
「なるほどね。それで見た目が似ているシュルカナイトをお手頃価格で売り始めたのか」
理玖は再び資料へと視線を戻した。
レンビーという宝石はもともとマニアの中で重宝されていた宝石らしいが、およそ30年程前にエグレシア王国周辺で流行した映画『君の青い瞳』がきっかけで爆発的に人気となった。そして昨年、クルファナ王国の映画制作会社がこの映画のリメイク版を公開。クルファナ王国周辺諸国でレンビーの人気に拍車がかかったようだ。
「この『君の青い瞳』って映画、日本で見れないのかなぁ」
聖奈は理玖と蒼に聞こえる程度の声で呟いた。
「クルファナ王国のリメイク版なら宗馬が持ってたはず。ちょっと待ってて」
蒼は立ち上がり、駆け足でリビングを去っていった。そして1分もしないうちにパタパタという足音と共に戻ってきた。
「あったよ! 見てみる?」
蒼は聖奈と理玖の顔を順番に見た。
「うん」
「俺も見たい」
蒼はリビングにある大きなテレビの電源をつけた。
◆◆◆◆◆
映画のスタッフロールまできっちり見た3人はそれぞれ少し体勢を崩した。
「まあ、なんていうか、シュルカナイトが戦争してる国で人気なのも納得って感じだったね」
聖奈は率直な感想を述べた。
「相変わらず訛りが強くて聞き取れなかった部分も多いんだけど。お金持ちのお嬢様が戦争に向かう恋人にレンビーっていう宝石をお守りとして渡して。生きることを諦めそうになった恋人はそのお守りを見てお嬢様の目を思い出して。それでなんとか頑張れた……って話で合ってるよね?」
聖奈と蒼以上に疲れ切った顔をしている理玖は寝転がりながら2人を交互に見た。
「合ってる合ってる」
聖奈は頷いた。
「レンビーの代わりにお手頃価格なシュルカナイトが流行るの、なんか納得だわ。戦争のお守りになってるわけね……」
聖奈はメリアッシュ惨殺事件の真相に迫る糸口がなかなか見つからないことに対して疲弊していた。もう頭が回らない。
疲れ切っていた聖奈はぼんやりと何も考えずに、手に持っていたスマホで「戦争」と入力してみた。「戦争」という概念に関して説明するページ、最新の「戦争」に関するニュースページ、さまざまなリンクが並んでいる。何気なく下へ下へとスクロールしていく中で、どこかで耳にしたことのある文字が聖奈の目に飛び込んできた。
「あ、竹本栞菜」
聖奈は、この竹本栞菜という人のインタビュー記事をタップしてみることにした。
この人は、確か、シュルカナイトの医療活用に関する論文を、鈴木悠聖先生と共同で書いた人……のはず。同姓同名でなければ。クラスメイトの「竹本奏多」と名前が似ているため記憶に残っている。
どうやら竹本栞菜は戦争で苦しんでいる国で医者としてボランティアをしているらしい。ただ、治療するだけでなく、各国の医療体制が整うように整備する事業も手掛けているみたいだ。
◆◆◆◆◆
――竹本医師は、今までどのような国で活動されてきたのですか。
竹本:グレマレ国、セントラネス国、ヒーポット国、コンダルシェ国、ワリダラ国、オルハーレフ国、アランタ国……たくさんの国に行きました。
戦争により負傷した方を治療するのはもちろん、各国で治療に必要な物品や施設の確保を行い、医療知識を教えスタッフとして働ける人を増やし……僕がいなくなっても機能できる医療体制を目指して日々活動しています。
――危険だとは思いますが、なぜ戦地に赴き医療ボランティアとして活動しているのですか。
竹本:戦争を引き起こしているのは一部の人ですが、それにより苦しめられている人はたくさんいます。私にできることはないかと考えて……気づいたときには、もう身体が動いていました。
実は私の祖母はクルファナ人で、幼少期に戦争を経験しました。昔、祖母から当時の話を聞いたことがあります。その追体験が今の私の土台になっているのかもしれません。
