夏休みに入ったが、星ノ谷高校には部活やら夏期講習やらで多くの生徒たちが登校している。聖奈は猛暑の中、遅刻坂と呼ばれる急坂を早足で上っていた。首筋はじっとりと汗ばんでいるが、夏休みのせいかいつもより足が軽い。いくつになっても夏休みはワクワクする。
校門をくぐり、日陰になっているアーケードまで辿り着いた。蒸し暑さは残るが、さすがは日陰。聖奈はここで一度足を緩め息を整える。そのままゆっくりと、身体の火照りを感じながらも歩きはじめた。
アーケード内にはいくつか絵画が飾られている。美術部の生徒が描いたものだろうか。普段あまり気に留めていなかったが、その絵画たちが聖奈の視界の中に入り込んできた。夏休みという特別感故かもしれない。
少し歩いたところで聖奈はゆっくりと立ち止まった。聖奈の目の前には大きな額縁に入った風景画が飾られている。絵の下には「鈴木悠聖 記憶」という札が貼られている。どこかの……丘?絵の奥に描かれている小さな街の風景から察するに、海外の田舎か童話の中か。どことなく懐かしい温かみを感じる。右端に描かれている、2人並んで手を繋ぐ親子のような人影が印象的な作品だ。聖奈は思わず見入ってしまった。
「この絵、好きなの?」
振り向くと藤原くんが立っていた。夏を感じさせない涼しげな笑顔に、聖奈は一瞬暑さを忘れた。
「あ、うん。なんかあったかい気持ちになるなって」
聖奈はもう一度絵画を見た。
「僕もこの絵、好きなんだ」
藤原くんは聖奈の隣に並んで絵画の方へと視線を上げる。
「美術部の人の作品?」
聖奈は隣に並んだ藤原くんの方を見た。「ここに飾られている絵は全て美術部のものだろう」というのが聖奈の予想である。そして、藤原くんは美術部に所属している。
「うん。正確にはOBの作品かな」
藤原くんと聖奈はゆっくり歩き始めた。
「そういえば、ウチの学校のOBって芸術分野で活躍してる人、意外と多いよね。例えば、あの彫刻作った人……えっと」
聖奈の視界にはアーケードの先にある女性の彫刻が見えていた。これも星ノ谷高校のOBの作品で、星ノ谷高校100周年記念パーティーの際に贈られたものらしい。両手を合わせて祈りを捧げている聖母のかたちをしている。この薄緑色をした女性の目には、本体の色味と同じ色味の石が使われているが、聖奈はときどきその目力に少しだけ怯みそうになる。
「鍵山真司?」
藤原くんは聖奈が彫刻を見ているのを横目で確認しながら答えた。
「そう! 鍵山真司だ!」
聖奈と藤原くんは冷房の効いた涼しい校舎内へと入っていった。
◆◆◆◆◆
机を教室の後方に積み上げてできあがったスペース。1年8組でも文化祭の練習が始まっている。事前に青山さんによって、部活や夏期講習など各自の予定に合わせてシーン別練習スケジュールが組まれていた。今日は午前中に人気の夏期講習があったため、学校に来ている生徒が多い。そのため大人数が参加する殺陣シーンの練習が行われることになっていた。
剣道部の後藤くんと中島くんが事前に殺陣の振り付けのようなものを用意してくれていた。聖奈と武士エキストラたちは実際にプラスチック製の刀を握り、身体の動きを覚えていく。
「一回通しでやってみる?」
黒板の前で椅子に腰掛けている監督の青山さんが提案した。
「じゃあカメラの準備するよ」
青山さんの隣に座っている演出の加奈子は三脚に練習撮影用のカメラをセットする。
「今日お休みの神田くんの役、どうしようか」
青山さんは後藤くんと中島くんの方をチラッと見た。
「じゃあ代役やるよ」
後藤くんが右手を小さく挙げた。
「まずはゆっくりで良いからね。じゃあ、菊丸が剣を構えるところから。よーいはじめ!」
青山さんの掛け声に合わせるようにカメラから「ティン!」という音が聞こえた。
菊丸(聖奈)は鞘に収めていた刀を抜くと、八の字を描くようにくるくると右手で回す。そして、顔の前で床と平行になるよう刀を両手で持った。
「さあ、かかってこい!」
聖奈の低く響き渡る声に合わせて野盗集団(武士エキストラ)が次々と菊丸(聖奈)に斬りかかってきた。菊丸(聖奈)は敵の刀を受け止め、避け、ときには蹴りを入れ、次々と攻撃をかわしていく。
「クソがあああ!」
「死ねえええ!」
5人の野盗集団(武士エキストラ)の攻撃は止まらない。それでも菊丸(聖奈)は仰け反ったり、一回転したり、刀をバトンのように回し、軽やかに身体を動かした。
「うっ!」
「うぁ!」
シーンの終盤。菊丸(聖奈)の刀は野盗集団たちを次々と貫き、切り裂いていく。
「がっ!」
最後の一人となった賊(森山くん)が倒れたところで菊丸(聖奈)は身体の力を抜いた。その瞬間、菊丸の身体を1本の刀が貫く。
「うっ!」
菊丸(聖奈)の身体がキュッと固まる。
「あ…」
貫かれた刀を引き抜かれた菊丸(聖奈)は天を仰ぎながら膝をついた。一人、息の根を止め損ねていたらしい。消えかかる意識の中で右胸から手裏剣を取り出すと、斬り損ねた賊(竹本くん)めがけて一直線に投げた。
「がっ!」
野盗を全員倒しきった菊丸(聖奈)はそのままうつ伏せで地面に倒れ込んだ。右手に持っていた刀の柄が「カラン」と音を立て地面に触れる。その音は菊丸(聖奈)の死を意味していた。
青山さんがムクッと椅子から立ち上がった。
「はい、OK!」
加奈子はカメラの停止ボタンを押す。
「え、めっちゃ良くない?」
青山さんが加奈子に同意を求めた。
「うん、期待以上だわ。」
加奈子は青山さんの方を見て満足そうに笑った。
「映像見せてよ!」
神田くんの代役を演じていた後藤くんが、加奈子の方に駆け寄る。加奈子の周りにキャスト陣が集まってきたところで、加奈子はついさっき撮ったばかりの映像を再生した。
「はい、OK!」
映像の中の青山さんの声と同時に映像が停止した。
「金子さん凄すぎないか?」
映像を見た森山くんが感想を述べる。後藤くんと中島くんが用意してくれた動きは剣道と似ても似つかぬものだったけれど、腕の力が強く刀を決してぶらさない聖奈の殺陣は美しい。
「さすがガチの剣豪」
根本くんが聖奈に小さく拍手を送る。
「褒められなれてない……」
聖奈は顔を両手で覆った。
「ついでに、俺たちの雑魚感が良い味を出している!」
竹本くんは自虐しながら全員を褒め称えた。
次はこの物語の終盤、黒山の乱の稽古。宮田くん演じる松永空信や藤原くん演じる紅月清貴の紅月軍が、敵対している黒山軍と戦うクライマックスシーンだ。敵である黒山軍が密かに他の家と同盟を結んだことで力を得たため、清貴率いる紅月軍は兵力も装備も圧倒的に不利な中で戦うことになってしまう。それでも城を守ろうと懸命に戦う、武士魂溢れる大事な場面だ。
「聖奈、神田くんの動き覚えて代役やってくれない?」
「分かった」
加奈子に頼まれた聖奈は、休んでいる神田くんの動きを覚え、通し練習に備えた。
「そろそろやってみる?」
良きタイミングで監督の青山さんが声を掛けてきた。
「うん、そうしよう」
中島くんの返答を聞くや否や、キャスト陣は自分の配置につく。
「準備良さそうだね。それじゃ、『清、死ぬなよ』のセリフから」
キャスト陣はそれぞれコクリと頷く。加奈子は「ティン!」と音を立ててカメラをまわし始めた。
「よーいはじめ!」
下手側。松永空信(宮田くん)と紅月清貴(藤原くん)のいる紅月軍は圧倒的不利な立場だ。松永空信(宮田くん)は上手側の黒山軍から目を逸らすことなく言い放つ。
「清、死ぬなよ」
紅月清貴(藤原くん)は頷く。清貴(藤原くん)の無言の返事を気配で感じ取ったのか、空信(宮田くん)は刀を鞘から引き抜くと黒山軍に向かって走り出した。
兵力差3倍以上。激しい乱闘が始まる。
「あー!」
「やー!」
空信(宮田くん)と清貴(藤原くん)は黒山軍と刀を交えていく。
「紅月に勝ち目はない」
敵軍、黒山家城主黒山兼忠(中島くん)の刀は空信(宮田くん)の刀を強く押している。
「黙れ」
空信(宮田くん)は兼忠(中島くん)の刀を払い除けながら言い放つ。
「お前の首は私が頂こう」
空信(宮田くん)の背後では、黒山兼忠(中島くん)の息子である黒山兼定(後藤くん)が刀を両手で持ち、構えの姿勢を見せながら清貴(藤原くん)と睨み合っていた。
「僕、死ねないんだよね、約束だから」
清貴(藤原くん)は笑顔を見せた。
その余裕そうな表情にイラつきを見せる兼定(後藤くん)を中心に、黒山軍武士(竹本くん、根本くん、聖奈※代役)が清貴(藤原くん)めがけて襲いかかる。その攻撃を清貴(藤原くん)はなんとかギリギリのところでかわしていく。
黒山軍の武士(聖奈※代役)の攻撃が清貴(藤原くん)に止められたそのときだった。「トスっ!」という鈍い小さな音が聖奈の耳に微かに入ってきた。
「あっ!」
武士エキストラ演じる飯島くんの声が思わず漏れる。と同時に背後に近付いてくる刀の気配を感じた聖奈は瞬時に振り向き、飛んできた刀を自分の持っていた刀で床に叩きつけた。
目の前で起きた一連の出来事……正確には聖奈を見ていた藤原くんは青白い顔で固まった。その表情は、ただの「驚き」とはほど遠く、まるで絶望的な光景を目の当たりにしたかのようだった。
青山さんがすぐさま立ち上がる。
「ストップ!ストップ!」
キャスト陣の動きがピタッと止まった。
「ごめん、ちゃんと握ってなかった、大丈夫?」
稽古の中断と同時に飯島くんが聖奈のところへ駆け寄った。
「うん、私は大丈夫。でも、刀変形させちゃった、ごめん。」
聖奈は床に叩きつけてしまったプラスチック製の刀を拾い上げ、飯島くんに渡した。
「ごめん、俺がミスった」
宮田くんが申し訳なさそうに聖奈の方を見た。どうやら宮田くんが動きを間違えて、飯島くんの刀を横方向に弾き飛ばしてしまったらしい。
「ちゃんと避けたから問題なし」
聖奈は左手でOKマークを作るとニコッと笑った。宮田くんも合わせるように笑顔を作ったが、どこかぎこちなかった。
「よし、とりあえず10分くらい休憩にしよう」
青山さんが声をかけた。
校門をくぐり、日陰になっているアーケードまで辿り着いた。蒸し暑さは残るが、さすがは日陰。聖奈はここで一度足を緩め息を整える。そのままゆっくりと、身体の火照りを感じながらも歩きはじめた。
アーケード内にはいくつか絵画が飾られている。美術部の生徒が描いたものだろうか。普段あまり気に留めていなかったが、その絵画たちが聖奈の視界の中に入り込んできた。夏休みという特別感故かもしれない。
少し歩いたところで聖奈はゆっくりと立ち止まった。聖奈の目の前には大きな額縁に入った風景画が飾られている。絵の下には「鈴木悠聖 記憶」という札が貼られている。どこかの……丘?絵の奥に描かれている小さな街の風景から察するに、海外の田舎か童話の中か。どことなく懐かしい温かみを感じる。右端に描かれている、2人並んで手を繋ぐ親子のような人影が印象的な作品だ。聖奈は思わず見入ってしまった。
「この絵、好きなの?」
振り向くと藤原くんが立っていた。夏を感じさせない涼しげな笑顔に、聖奈は一瞬暑さを忘れた。
「あ、うん。なんかあったかい気持ちになるなって」
聖奈はもう一度絵画を見た。
「僕もこの絵、好きなんだ」
藤原くんは聖奈の隣に並んで絵画の方へと視線を上げる。
「美術部の人の作品?」
聖奈は隣に並んだ藤原くんの方を見た。「ここに飾られている絵は全て美術部のものだろう」というのが聖奈の予想である。そして、藤原くんは美術部に所属している。
「うん。正確にはOBの作品かな」
藤原くんと聖奈はゆっくり歩き始めた。
「そういえば、ウチの学校のOBって芸術分野で活躍してる人、意外と多いよね。例えば、あの彫刻作った人……えっと」
聖奈の視界にはアーケードの先にある女性の彫刻が見えていた。これも星ノ谷高校のOBの作品で、星ノ谷高校100周年記念パーティーの際に贈られたものらしい。両手を合わせて祈りを捧げている聖母のかたちをしている。この薄緑色をした女性の目には、本体の色味と同じ色味の石が使われているが、聖奈はときどきその目力に少しだけ怯みそうになる。
「鍵山真司?」
藤原くんは聖奈が彫刻を見ているのを横目で確認しながら答えた。
「そう! 鍵山真司だ!」
聖奈と藤原くんは冷房の効いた涼しい校舎内へと入っていった。
◆◆◆◆◆
机を教室の後方に積み上げてできあがったスペース。1年8組でも文化祭の練習が始まっている。事前に青山さんによって、部活や夏期講習など各自の予定に合わせてシーン別練習スケジュールが組まれていた。今日は午前中に人気の夏期講習があったため、学校に来ている生徒が多い。そのため大人数が参加する殺陣シーンの練習が行われることになっていた。
剣道部の後藤くんと中島くんが事前に殺陣の振り付けのようなものを用意してくれていた。聖奈と武士エキストラたちは実際にプラスチック製の刀を握り、身体の動きを覚えていく。
「一回通しでやってみる?」
黒板の前で椅子に腰掛けている監督の青山さんが提案した。
「じゃあカメラの準備するよ」
青山さんの隣に座っている演出の加奈子は三脚に練習撮影用のカメラをセットする。
「今日お休みの神田くんの役、どうしようか」
青山さんは後藤くんと中島くんの方をチラッと見た。
「じゃあ代役やるよ」
後藤くんが右手を小さく挙げた。
「まずはゆっくりで良いからね。じゃあ、菊丸が剣を構えるところから。よーいはじめ!」
青山さんの掛け声に合わせるようにカメラから「ティン!」という音が聞こえた。
菊丸(聖奈)は鞘に収めていた刀を抜くと、八の字を描くようにくるくると右手で回す。そして、顔の前で床と平行になるよう刀を両手で持った。
「さあ、かかってこい!」
聖奈の低く響き渡る声に合わせて野盗集団(武士エキストラ)が次々と菊丸(聖奈)に斬りかかってきた。菊丸(聖奈)は敵の刀を受け止め、避け、ときには蹴りを入れ、次々と攻撃をかわしていく。
「クソがあああ!」
「死ねえええ!」
5人の野盗集団(武士エキストラ)の攻撃は止まらない。それでも菊丸(聖奈)は仰け反ったり、一回転したり、刀をバトンのように回し、軽やかに身体を動かした。
「うっ!」
「うぁ!」
シーンの終盤。菊丸(聖奈)の刀は野盗集団たちを次々と貫き、切り裂いていく。
「がっ!」
最後の一人となった賊(森山くん)が倒れたところで菊丸(聖奈)は身体の力を抜いた。その瞬間、菊丸の身体を1本の刀が貫く。
「うっ!」
菊丸(聖奈)の身体がキュッと固まる。
「あ…」
貫かれた刀を引き抜かれた菊丸(聖奈)は天を仰ぎながら膝をついた。一人、息の根を止め損ねていたらしい。消えかかる意識の中で右胸から手裏剣を取り出すと、斬り損ねた賊(竹本くん)めがけて一直線に投げた。
「がっ!」
野盗を全員倒しきった菊丸(聖奈)はそのままうつ伏せで地面に倒れ込んだ。右手に持っていた刀の柄が「カラン」と音を立て地面に触れる。その音は菊丸(聖奈)の死を意味していた。
青山さんがムクッと椅子から立ち上がった。
「はい、OK!」
加奈子はカメラの停止ボタンを押す。
「え、めっちゃ良くない?」
青山さんが加奈子に同意を求めた。
「うん、期待以上だわ。」
加奈子は青山さんの方を見て満足そうに笑った。
「映像見せてよ!」
神田くんの代役を演じていた後藤くんが、加奈子の方に駆け寄る。加奈子の周りにキャスト陣が集まってきたところで、加奈子はついさっき撮ったばかりの映像を再生した。
「はい、OK!」
映像の中の青山さんの声と同時に映像が停止した。
「金子さん凄すぎないか?」
映像を見た森山くんが感想を述べる。後藤くんと中島くんが用意してくれた動きは剣道と似ても似つかぬものだったけれど、腕の力が強く刀を決してぶらさない聖奈の殺陣は美しい。
「さすがガチの剣豪」
根本くんが聖奈に小さく拍手を送る。
「褒められなれてない……」
聖奈は顔を両手で覆った。
「ついでに、俺たちの雑魚感が良い味を出している!」
竹本くんは自虐しながら全員を褒め称えた。
次はこの物語の終盤、黒山の乱の稽古。宮田くん演じる松永空信や藤原くん演じる紅月清貴の紅月軍が、敵対している黒山軍と戦うクライマックスシーンだ。敵である黒山軍が密かに他の家と同盟を結んだことで力を得たため、清貴率いる紅月軍は兵力も装備も圧倒的に不利な中で戦うことになってしまう。それでも城を守ろうと懸命に戦う、武士魂溢れる大事な場面だ。
「聖奈、神田くんの動き覚えて代役やってくれない?」
「分かった」
加奈子に頼まれた聖奈は、休んでいる神田くんの動きを覚え、通し練習に備えた。
「そろそろやってみる?」
良きタイミングで監督の青山さんが声を掛けてきた。
「うん、そうしよう」
中島くんの返答を聞くや否や、キャスト陣は自分の配置につく。
「準備良さそうだね。それじゃ、『清、死ぬなよ』のセリフから」
キャスト陣はそれぞれコクリと頷く。加奈子は「ティン!」と音を立ててカメラをまわし始めた。
「よーいはじめ!」
下手側。松永空信(宮田くん)と紅月清貴(藤原くん)のいる紅月軍は圧倒的不利な立場だ。松永空信(宮田くん)は上手側の黒山軍から目を逸らすことなく言い放つ。
「清、死ぬなよ」
紅月清貴(藤原くん)は頷く。清貴(藤原くん)の無言の返事を気配で感じ取ったのか、空信(宮田くん)は刀を鞘から引き抜くと黒山軍に向かって走り出した。
兵力差3倍以上。激しい乱闘が始まる。
「あー!」
「やー!」
空信(宮田くん)と清貴(藤原くん)は黒山軍と刀を交えていく。
「紅月に勝ち目はない」
敵軍、黒山家城主黒山兼忠(中島くん)の刀は空信(宮田くん)の刀を強く押している。
「黙れ」
空信(宮田くん)は兼忠(中島くん)の刀を払い除けながら言い放つ。
「お前の首は私が頂こう」
空信(宮田くん)の背後では、黒山兼忠(中島くん)の息子である黒山兼定(後藤くん)が刀を両手で持ち、構えの姿勢を見せながら清貴(藤原くん)と睨み合っていた。
「僕、死ねないんだよね、約束だから」
清貴(藤原くん)は笑顔を見せた。
その余裕そうな表情にイラつきを見せる兼定(後藤くん)を中心に、黒山軍武士(竹本くん、根本くん、聖奈※代役)が清貴(藤原くん)めがけて襲いかかる。その攻撃を清貴(藤原くん)はなんとかギリギリのところでかわしていく。
黒山軍の武士(聖奈※代役)の攻撃が清貴(藤原くん)に止められたそのときだった。「トスっ!」という鈍い小さな音が聖奈の耳に微かに入ってきた。
「あっ!」
武士エキストラ演じる飯島くんの声が思わず漏れる。と同時に背後に近付いてくる刀の気配を感じた聖奈は瞬時に振り向き、飛んできた刀を自分の持っていた刀で床に叩きつけた。
目の前で起きた一連の出来事……正確には聖奈を見ていた藤原くんは青白い顔で固まった。その表情は、ただの「驚き」とはほど遠く、まるで絶望的な光景を目の当たりにしたかのようだった。
青山さんがすぐさま立ち上がる。
「ストップ!ストップ!」
キャスト陣の動きがピタッと止まった。
「ごめん、ちゃんと握ってなかった、大丈夫?」
稽古の中断と同時に飯島くんが聖奈のところへ駆け寄った。
「うん、私は大丈夫。でも、刀変形させちゃった、ごめん。」
聖奈は床に叩きつけてしまったプラスチック製の刀を拾い上げ、飯島くんに渡した。
「ごめん、俺がミスった」
宮田くんが申し訳なさそうに聖奈の方を見た。どうやら宮田くんが動きを間違えて、飯島くんの刀を横方向に弾き飛ばしてしまったらしい。
「ちゃんと避けたから問題なし」
聖奈は左手でOKマークを作るとニコッと笑った。宮田くんも合わせるように笑顔を作ったが、どこかぎこちなかった。
「よし、とりあえず10分くらい休憩にしよう」
青山さんが声をかけた。
