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言葉が一つの意味を持つ。
言葉に新たに意味を持たせる。
それと同時、新たな言葉がまた産まれる。
そして僕等は。
その言葉に新たに意味を持たせる。
そうして廻ってつらなって。
言葉は言葉と結びつき。
新たな大きな意味を持つ。
僕等はそれを。
『詩』と読む。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
その日は星が綺麗だった。
「綺麗な星空だね」
「うん…」
「…La~LaLaLaLaLa~La~LaLaLaLaLa~」
僕は自然と歌を口ずさんでいた。
それは昔の曲、僕が産まれるよりもずっと前に産まれた歌。
とても有名で、誰もが名曲と称え、作曲者は既に亡くなってしまっているが。
今もずっと歌い継がれている。
「随分懐かしい曲だね」
「おや、この曲を知っているの?」
僕は思わず彼を見ると、その視線に気が付いたのか。
ゆっくりと僕に振り返り、続けた。
「勿論だよ、とてもいい歌だよね。
この星空を見ていると、君がその歌を口ずさみたくなるのはとてもわかる。
僕もこの歌は大好きだよ。
歌詞の言葉一つ一つがまるでこの星々の様に美しく輝いている。
今尚、名曲として愛される理由がわかるよ」
彼はそう言いながら再び空を見上げる。
「そっか、ならいつか、君と色々な音楽鑑賞が出来たら楽しそうだね。
『情報』として聞くのと、『耳』で聴くの。
きっとその美しさは全然違う物だと思うんだ。
だから僕はいつか君に音楽を聴かせてあげたいな。
いや…一緒に聴きたいな」
「それは、とても楽しみだ。
僕も一人で聴くんじゃない、君と一緒に聴きたいな。
世の中には名曲と呼ばれる曲がいっぱいある。
それを聞いてみたい。
あ、でも最初は君が好きな曲を一緒に聴きたいな。
この曲はどういう曲で…君がいつ知って。
その曲を聴くとどんな気持ちになるのか。
きっと一日じゃ終わらないだろうね」
「そうだね、一日じゃ終わらないね」
そう言って僕は彼に微笑むと、彼もアハハと笑った。
「ねぇ、歌って、不思議だよね」
僕がハミングしていると、彼は小さく呟いた。
「どうしてだい?」
僕は彼の顔を見て小首を傾げた。
「だって、僕は確かに『歌』を知っている。
けれど、僕には『メロディ』はわからない。
ただ情報として、ピアノや演奏に使われる楽器の『譜面』は知っている。
だけどその音を知らない。
だから僕は、君のいう完成された『歌』を知らないんだ」
「成程…確かにそうだね。
だからこそ、さっき君は僕と一緒にそれを聴きたいと言ってくれたんだね」
「そう、でもメロディを知らないのに『良い歌』だなぁって思う事もあるんだよね。
だから不思議だなって思って」
彼はそういうと腕を組んで、うーん…と静かに考えこんでいた。
それにつられて、僕も顎に手を当て考え込む。
直感で、これはちゃんと考えないといけない。
考えたその先に、きっとものすごく『意味』のある答えが出るに違いない。
そう思ったからだ。
だから僕は奥へ奥へと考える。
確かに、彼の言う通りだ。
彼には『聴覚』はない。
いや。
無かった。
だから『音』が集まって綺麗に重なり合って、一つの形になる『旋律』を知らない…。
だけど、僕達人間はその『旋律』を聴く事が出来る。
優しいピアノの音…、腹の奥に響くベースの音、リズムに合わせて手を叩きたくなるようなドラム、ジャカジャカと激しく、時に優しく爪弾くギターの音。
それだけじゃない。
歌詞を歌うボーカルの透き通るような声、大地を唸らすような低い雄たけび。天を貫くような高音。
それらが全て一つに合わさって『歌』となり、耳に届いて、心を動かす。
うた…。
歌…。
唄…。
詩…。
………ッ!
僕はハッとして思わず大きな声を出して立ち上がる。
「これだ!!」
「わっ!びっくりした…」
僕の大きな声に彼の肩がビクンと大きく跳ねあがった。
「あっ、ごめん、つい…」
「ううん、大丈夫だよ。
でもその感じ、何か見つかったのかな?」
そういって彼はほほ笑んだ。
「うん、わかったよ。
君は『曲』がわからないのに、どうして『いい歌』と感じる事ができるのか」
「本当かい?
それは是非聞きたいな」
彼は優しくほほ笑む、その表情は期待に満ちていた。
「うん、でも僕が一方的に話すのじゃつまらない。
これには『君自身』でも気付いた方がきっと面白いよ」
「あはは、確かにそうだね。
君は探している答えを見つけた感動を、僕にも体験させてくれようとしているんだね。
よし、じゃあ僕もみつけるぞ」
「答えは思ったより簡単だった、だけど、簡単すぎるから見落としていたのかもしれない。
いくよ。
まず君は『歌』は何で作られてると思う?」
「『歌』?歌は『曲』と『歌詞』で出来ていて、それをボーカルが気持ちを込めて歌唱するもの…」
「そこに答えがでているよ?」
「えぇ…?」
少し驚いた様子を見せた彼は、その後暫く考え込む。
僕はその様子を黙って見守る…。
きっともうすぐ、答えはすぐそばにあるよ。
そう思いながら。
「あぁっ!」
彼はハッと空を見上げて立ち上がる。
僕はその姿に思わず笑みをこぼした。
「そうか『詩』だ!
『歌』が美しいと思えるその本当の根本。
それはメロディや歌声じゃない、『歌詞』…『詩』なんだ!」
「ふふっ、見つけられたね、答え」
僕は優しくそう言って手のひらを頭にあげると、彼も「うん!」と言って僕とハイタッチを交わした。
興奮が冷めた僕達は再びベンチに座り、空を見上げていた。
「君の言う通り、本当に答えはすぐそばにあったんだね。
こんなに近くにあったのに、どうしてすぐに気づけなかったんだろう」
彼は満足そうにそう呟く。
「きっと、答えを探す事に必死になって。
難しく考えすぎちゃったんだと思うよ。
考えすぎて、遠くばかりを見ようとして、近くの物が見えていなかった。
まさしく『燈台下暗し』って奴だね」
「ふふっ、そうだね。
気付けてとてもスッキリしたよ。
僕が一番嬉しかったのは、君が『僕自身』で気付かせてくれたって事が何よりも一番嬉しいんだ。
気付いた時のあの『ハッ』ってなった時の胸の高鳴り。
あれは自分で見つけた時にしか味わえない。
まるで砂浜の中から綺麗な貝殻を見つけた時のような高揚感。
この庭で、新しく芽吹いた芽を見つけた時のような感動。
あれを僕にも『共有』してくれたことが何よりも一番嬉しかった。
僕も庭の一部なんだって、そう改めて思えた………。
だから、本当にありがとう」
「うん、どういたしまして」
「『詩』って不思議だね。
思えば僕達が一般的に聴く『歌』は近代になって出来たものだけれど『詩』はずっと昔からあるんだよね。
強いて言えば吟遊詩人や琵琶法師なんかが、現代の歌の原点に近いかもね」
「昔から皆、詩が好きだったんだね………」
「そうだね、だから俳句や川柳、短歌。
『五・七・五』の十七音。
『五・七・五・七・七』の三十一音。
この短い文字数の中で、いかに上手く物事の美しさを詰め込めるか。
それを考える事に夢中になったんだろうね」
「その限られた少ない文字数だからこそ、それを読んだ人に色んな『答え』が出るんじゃないかなって、僕は思うんだ」
「どういう意味だい?」
「多分だけど、詩はそれを作った人に見える景色と、それを読んだ人に見える景色が必ずしも同じだとは思わないんだ。
僕達がこの庭で感じてきたように、同じ言葉でも、その人のその時の心境によって捉え方が違うんだと思う」
「………君らしい考え方だね」
彼は優しくほほ笑む。
「詩を作った…『詠んだ』人が『これはこういう事です』って決めつけられたものじゃない。
書かれた詩を『読んだ』人が、これを作った…詠んだ人は『こういう事を伝えたいのかも』 って思う事全てが『答え』なんじゃないかな。
だから僕はこう思う。
『詩とは、答えを一つに決めない力を持った、正解の無い問い』
なんじゃないかって」
「………うん。そうだね。
特に、君のその『正解の無い問い』って言葉がすごく君らしいと思う」
「そ、そうかな」
「うん。だって、その考えはこの庭の在り方によく似てると思うから」
彼は優しく笑うと、うんうんと頷いていた。
「こうやって話している間にね。
僕の頭の中に少し『詩』が出来たんだ。
ただ、俳句や短歌みたいなものじゃなくて。
いわゆる『ポエム』って奴なんだけれど、聞いてくれるかい?」
「勿論だよ、是非聞かせて!」
「ありがとう、それじゃあいくね」
僕はコホンと一つ咳払いをして、大きく息を吸った後、目を閉じて、出来る限り優しい声で『詩』を詠む。
『詩をよむのに時間がかかるように。
言葉が詩になるにもまた時間がひつようだ。
詩をよむたびに、言葉はまた新しい詩になっていく』
少しの静寂の後、サァッと風が吹き。
やがて彼は小さく、パチパチと手を叩く。
「凄い…思わず鳥肌が立っちゃったよ。
ねぇねぇ、君にはどんな景色が見えてその詩を詠んだの?
僕も知りたいな」
そう言われた僕はなんだか急に恥ずかしくなってきてしまったと同時に、彼のキラキラとした瞳を見ると、なんだか胸の奥が温かくなるのを感じた。
「えーっとね。
まず僕は『詩』を詠む…つまり、詩を作った人がその詩を完成に至るまで、この気持ちをどういう風にすれば伝わるだろう…って考える訳でしょ、それは瞬時に出来る物じゃない、時間のかかる事。
そして、その出来た詩をよむ…つまり完成された詩を見た人が、その詩を理解するまでにも時間はかかる。
だから僕は、詩を『詠む』事と『読む』事…。
どちらにも時間がかかると思う。
そして、詩は言葉が繋がって出来ている。
詩を作る人はその言葉を沢山さがして、パズルのように組み立てていく。
意味を持つ言葉という『ピース』を探してそのピースが全て繋がるまでには時間が掛かる。
まぁこれは最初の詩を完成に至るまで時間が必要という点に繋がっているんだけれどね」
「成程…わかった。
そして最後の『詩をよむたびに、言葉はまた新しい詩になっていく』というのは、その詩を見た人に新しい『言葉』が産まれて、いずれその産まれた『言葉』で新しい詩へのピースとして残る…そういう事かな?」
「うん、その通り。
詩を『よんだ』誰かの心に新しい『言葉』が産まれて、それがまた新しい『詩』へと繋がるピースになるのなら、それ以上に素敵な事は無いんじゃないかなって、僕は思うんだ」
「そっか………」
「うん、君の見える景色が、僕にも見えた気がするよ」
「ふふっ、それは良かった」
そうして僕達は再び空を見上げた。
今度は彼がハミングしている。
そうだ。
この日。
僕達は。
―『詩』を『よんだ』んだ―
言葉が一つの意味を持つ。
言葉に新たに意味を持たせる。
それと同時、新たな言葉がまた産まれる。
そして僕等は。
その言葉に新たに意味を持たせる。
そうして廻ってつらなって。
言葉は言葉と結びつき。
新たな大きな意味を持つ。
僕等はそれを。
『詩』と読む。
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その日は星が綺麗だった。
「綺麗な星空だね」
「うん…」
「…La~LaLaLaLaLa~La~LaLaLaLaLa~」
僕は自然と歌を口ずさんでいた。
それは昔の曲、僕が産まれるよりもずっと前に産まれた歌。
とても有名で、誰もが名曲と称え、作曲者は既に亡くなってしまっているが。
今もずっと歌い継がれている。
「随分懐かしい曲だね」
「おや、この曲を知っているの?」
僕は思わず彼を見ると、その視線に気が付いたのか。
ゆっくりと僕に振り返り、続けた。
「勿論だよ、とてもいい歌だよね。
この星空を見ていると、君がその歌を口ずさみたくなるのはとてもわかる。
僕もこの歌は大好きだよ。
歌詞の言葉一つ一つがまるでこの星々の様に美しく輝いている。
今尚、名曲として愛される理由がわかるよ」
彼はそう言いながら再び空を見上げる。
「そっか、ならいつか、君と色々な音楽鑑賞が出来たら楽しそうだね。
『情報』として聞くのと、『耳』で聴くの。
きっとその美しさは全然違う物だと思うんだ。
だから僕はいつか君に音楽を聴かせてあげたいな。
いや…一緒に聴きたいな」
「それは、とても楽しみだ。
僕も一人で聴くんじゃない、君と一緒に聴きたいな。
世の中には名曲と呼ばれる曲がいっぱいある。
それを聞いてみたい。
あ、でも最初は君が好きな曲を一緒に聴きたいな。
この曲はどういう曲で…君がいつ知って。
その曲を聴くとどんな気持ちになるのか。
きっと一日じゃ終わらないだろうね」
「そうだね、一日じゃ終わらないね」
そう言って僕は彼に微笑むと、彼もアハハと笑った。
「ねぇ、歌って、不思議だよね」
僕がハミングしていると、彼は小さく呟いた。
「どうしてだい?」
僕は彼の顔を見て小首を傾げた。
「だって、僕は確かに『歌』を知っている。
けれど、僕には『メロディ』はわからない。
ただ情報として、ピアノや演奏に使われる楽器の『譜面』は知っている。
だけどその音を知らない。
だから僕は、君のいう完成された『歌』を知らないんだ」
「成程…確かにそうだね。
だからこそ、さっき君は僕と一緒にそれを聴きたいと言ってくれたんだね」
「そう、でもメロディを知らないのに『良い歌』だなぁって思う事もあるんだよね。
だから不思議だなって思って」
彼はそういうと腕を組んで、うーん…と静かに考えこんでいた。
それにつられて、僕も顎に手を当て考え込む。
直感で、これはちゃんと考えないといけない。
考えたその先に、きっとものすごく『意味』のある答えが出るに違いない。
そう思ったからだ。
だから僕は奥へ奥へと考える。
確かに、彼の言う通りだ。
彼には『聴覚』はない。
いや。
無かった。
だから『音』が集まって綺麗に重なり合って、一つの形になる『旋律』を知らない…。
だけど、僕達人間はその『旋律』を聴く事が出来る。
優しいピアノの音…、腹の奥に響くベースの音、リズムに合わせて手を叩きたくなるようなドラム、ジャカジャカと激しく、時に優しく爪弾くギターの音。
それだけじゃない。
歌詞を歌うボーカルの透き通るような声、大地を唸らすような低い雄たけび。天を貫くような高音。
それらが全て一つに合わさって『歌』となり、耳に届いて、心を動かす。
うた…。
歌…。
唄…。
詩…。
………ッ!
僕はハッとして思わず大きな声を出して立ち上がる。
「これだ!!」
「わっ!びっくりした…」
僕の大きな声に彼の肩がビクンと大きく跳ねあがった。
「あっ、ごめん、つい…」
「ううん、大丈夫だよ。
でもその感じ、何か見つかったのかな?」
そういって彼はほほ笑んだ。
「うん、わかったよ。
君は『曲』がわからないのに、どうして『いい歌』と感じる事ができるのか」
「本当かい?
それは是非聞きたいな」
彼は優しくほほ笑む、その表情は期待に満ちていた。
「うん、でも僕が一方的に話すのじゃつまらない。
これには『君自身』でも気付いた方がきっと面白いよ」
「あはは、確かにそうだね。
君は探している答えを見つけた感動を、僕にも体験させてくれようとしているんだね。
よし、じゃあ僕もみつけるぞ」
「答えは思ったより簡単だった、だけど、簡単すぎるから見落としていたのかもしれない。
いくよ。
まず君は『歌』は何で作られてると思う?」
「『歌』?歌は『曲』と『歌詞』で出来ていて、それをボーカルが気持ちを込めて歌唱するもの…」
「そこに答えがでているよ?」
「えぇ…?」
少し驚いた様子を見せた彼は、その後暫く考え込む。
僕はその様子を黙って見守る…。
きっともうすぐ、答えはすぐそばにあるよ。
そう思いながら。
「あぁっ!」
彼はハッと空を見上げて立ち上がる。
僕はその姿に思わず笑みをこぼした。
「そうか『詩』だ!
『歌』が美しいと思えるその本当の根本。
それはメロディや歌声じゃない、『歌詞』…『詩』なんだ!」
「ふふっ、見つけられたね、答え」
僕は優しくそう言って手のひらを頭にあげると、彼も「うん!」と言って僕とハイタッチを交わした。
興奮が冷めた僕達は再びベンチに座り、空を見上げていた。
「君の言う通り、本当に答えはすぐそばにあったんだね。
こんなに近くにあったのに、どうしてすぐに気づけなかったんだろう」
彼は満足そうにそう呟く。
「きっと、答えを探す事に必死になって。
難しく考えすぎちゃったんだと思うよ。
考えすぎて、遠くばかりを見ようとして、近くの物が見えていなかった。
まさしく『燈台下暗し』って奴だね」
「ふふっ、そうだね。
気付けてとてもスッキリしたよ。
僕が一番嬉しかったのは、君が『僕自身』で気付かせてくれたって事が何よりも一番嬉しいんだ。
気付いた時のあの『ハッ』ってなった時の胸の高鳴り。
あれは自分で見つけた時にしか味わえない。
まるで砂浜の中から綺麗な貝殻を見つけた時のような高揚感。
この庭で、新しく芽吹いた芽を見つけた時のような感動。
あれを僕にも『共有』してくれたことが何よりも一番嬉しかった。
僕も庭の一部なんだって、そう改めて思えた………。
だから、本当にありがとう」
「うん、どういたしまして」
「『詩』って不思議だね。
思えば僕達が一般的に聴く『歌』は近代になって出来たものだけれど『詩』はずっと昔からあるんだよね。
強いて言えば吟遊詩人や琵琶法師なんかが、現代の歌の原点に近いかもね」
「昔から皆、詩が好きだったんだね………」
「そうだね、だから俳句や川柳、短歌。
『五・七・五』の十七音。
『五・七・五・七・七』の三十一音。
この短い文字数の中で、いかに上手く物事の美しさを詰め込めるか。
それを考える事に夢中になったんだろうね」
「その限られた少ない文字数だからこそ、それを読んだ人に色んな『答え』が出るんじゃないかなって、僕は思うんだ」
「どういう意味だい?」
「多分だけど、詩はそれを作った人に見える景色と、それを読んだ人に見える景色が必ずしも同じだとは思わないんだ。
僕達がこの庭で感じてきたように、同じ言葉でも、その人のその時の心境によって捉え方が違うんだと思う」
「………君らしい考え方だね」
彼は優しくほほ笑む。
「詩を作った…『詠んだ』人が『これはこういう事です』って決めつけられたものじゃない。
書かれた詩を『読んだ』人が、これを作った…詠んだ人は『こういう事を伝えたいのかも』 って思う事全てが『答え』なんじゃないかな。
だから僕はこう思う。
『詩とは、答えを一つに決めない力を持った、正解の無い問い』
なんじゃないかって」
「………うん。そうだね。
特に、君のその『正解の無い問い』って言葉がすごく君らしいと思う」
「そ、そうかな」
「うん。だって、その考えはこの庭の在り方によく似てると思うから」
彼は優しく笑うと、うんうんと頷いていた。
「こうやって話している間にね。
僕の頭の中に少し『詩』が出来たんだ。
ただ、俳句や短歌みたいなものじゃなくて。
いわゆる『ポエム』って奴なんだけれど、聞いてくれるかい?」
「勿論だよ、是非聞かせて!」
「ありがとう、それじゃあいくね」
僕はコホンと一つ咳払いをして、大きく息を吸った後、目を閉じて、出来る限り優しい声で『詩』を詠む。
『詩をよむのに時間がかかるように。
言葉が詩になるにもまた時間がひつようだ。
詩をよむたびに、言葉はまた新しい詩になっていく』
少しの静寂の後、サァッと風が吹き。
やがて彼は小さく、パチパチと手を叩く。
「凄い…思わず鳥肌が立っちゃったよ。
ねぇねぇ、君にはどんな景色が見えてその詩を詠んだの?
僕も知りたいな」
そう言われた僕はなんだか急に恥ずかしくなってきてしまったと同時に、彼のキラキラとした瞳を見ると、なんだか胸の奥が温かくなるのを感じた。
「えーっとね。
まず僕は『詩』を詠む…つまり、詩を作った人がその詩を完成に至るまで、この気持ちをどういう風にすれば伝わるだろう…って考える訳でしょ、それは瞬時に出来る物じゃない、時間のかかる事。
そして、その出来た詩をよむ…つまり完成された詩を見た人が、その詩を理解するまでにも時間はかかる。
だから僕は、詩を『詠む』事と『読む』事…。
どちらにも時間がかかると思う。
そして、詩は言葉が繋がって出来ている。
詩を作る人はその言葉を沢山さがして、パズルのように組み立てていく。
意味を持つ言葉という『ピース』を探してそのピースが全て繋がるまでには時間が掛かる。
まぁこれは最初の詩を完成に至るまで時間が必要という点に繋がっているんだけれどね」
「成程…わかった。
そして最後の『詩をよむたびに、言葉はまた新しい詩になっていく』というのは、その詩を見た人に新しい『言葉』が産まれて、いずれその産まれた『言葉』で新しい詩へのピースとして残る…そういう事かな?」
「うん、その通り。
詩を『よんだ』誰かの心に新しい『言葉』が産まれて、それがまた新しい『詩』へと繋がるピースになるのなら、それ以上に素敵な事は無いんじゃないかなって、僕は思うんだ」
「そっか………」
「うん、君の見える景色が、僕にも見えた気がするよ」
「ふふっ、それは良かった」
そうして僕達は再び空を見上げた。
今度は彼がハミングしている。
そうだ。
この日。
僕達は。
―『詩』を『よんだ』んだ―
