僕と君と廻る庭

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 光は照らす。
 君を照らす。
 僕を照らす。
 力強い木、(あわ)い花、新緑の大地。
 喜び、悲しみ、怒り。
 全ての色を照らす。
 光に色はない。
 光の色は。
 照らされたものの色。
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 僕が如雨露(じょうろ)を傾けた時、チョロっと落ちた水滴が一枚の葉っぱを弾いて気が付いた。
「あ、水なくなっちゃった」
()みにいくかい?」
 そう言われて僕は少し周りを見渡す。
「いや、もういいかな」
「でもあっちにはまだ水を撒いてないじゃないか」
 彼はそういうと、後ろを振り返り、花のない、その代わり綺麗な新緑の葉に包まれた小さな木を指さす。
「うん、確かに向こうにはまだ水をあげてない、でもね、もしかしたらあの木は水がいらないかもしれない、そう思ったんだ。
 もしかしたら本当に水が必要だったとしたら申し訳ないけど………。
 じゃあ逆に、水が要らない木だったとしたら?」
 僕がそう言うと彼は(あご)に手をあて、少し考えた様子の後、口を開いた。
「確かにそうだね、水をあげなくても育つものに水を与えたら枯れてしまう。
 成程、君は『あれは水が必要だ』と決めつけていないんだね」
「そう、もしあの植物が枯れてしまっても、それはまた一つの景色だ。
 でもそれで存在価値が失われてしまう訳じゃあない。
 枯れた植物を見て『枯れちゃったね』『これは何の植物だったんだろう』そうして君と考える時間がまた産まれる。
 僕はそれでいいと思うんだ。
 ここでは『枯れる事すら意味を持つ』そんな場所だから」
「ふふっ」
 彼が突然小さく笑い、僕は思わず目を丸くする。
「植物じゃないでしょ。
『問い』でしょ」
「痛い所を突かれたなぁ…」
 僕はそう言ってハハハと笑いながら(ひたい)に手を当て、空を見上げた。
「まぁ、それに…水はあくまでも『(かたち)』でしかないからね」
 彼は静かにそう言って続ける。
「きっと、この『問い』という物にあげるべき『水』は、こうして僕達が様々な事を話をして、『問い』の『意味』を考える、それらをこの草木に聞いてもらう。
 それがきっと『水をあげる』という行為なんだろうね」
「そうだね、そして僕達が考えすぎると疲れてしまうように、この『問い』達も、僕達の話をずっと聞いていると疲れてしまう、つまりそれは『水のやり過ぎ』になってしまう。
 焦らなくていい、急がなくていい、ここは自由だからゆっくりと考えていけばいい、。
 答えが出なくても、考え続けるその思いで、この庭は育っていくんだ」
 そういって、僕は深く深呼吸をした。
「あっ、ねぇ、見て」
 彼は驚いたような声を上げて僕の後ろを指さした。
「虹か、久しぶりに見たかもしれないね。
 …やっぱり、いつ見ても虹は綺麗だね…」
 そこには先程までは無かった、いや、もしかしたらあったけれど気づいていなかったのかもしれない、綺麗な大きな虹が()かっていた。
「うん、何度見ても僕もそう思う。
 虹は素敵だね」
 落ち着いた口調でそういう彼の眼は少しだけ細くなっていた。
「虹か…」
 どうしたの?
「いや、虹と言えばふと『タマムシ』を思い出してね」
「あぁ…タマムシか………思えばその1匹のタマムシが、僕達の始まりだったね」
 彼はしみじみとした様子でそう言いうと、暫く黙った。
 僕も言葉を発さず、ただ眼を閉じて、そよぐ風に身を(ゆだ)ねながらあの日の事を思い出す………。