僕と君と廻る庭

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 広がる。
 広がる大地。
 広がる空。
 広がる風。
 広がる草花。
 広がる庭。
 円を描き、広がり続ける。
 そこに終わりはない。
 僕達が、考える限り。
 僕達が、歩き続ける限り。
 終わりが無い訳じゃない。
 円の始めが終わりであり。
 円の終わりが始まり。
 円は広がる。
 (まわ)り続ける限り。
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「結構歩いたね」
 僕達は今日はいつもよりもより遠くへ歩いていた。
 天気も(もう)し分ない。
 風も(おだ)やか。
 遠くへ歩くのにはうってつけの日だ。
「少し休むかい?」
 彼は足を止め、僕にそう聞いてきた。
「僕は平気だけど、君は?」
「実はちょっと疲れちゃった」
「だったら最初から素直にそう言えばいいのに……」
 僕が大げさに(あき)れたように、やれやれと首を振ると、彼は少し()ねた様子を見せた。
「君はもう少し『気を(つか)う』事を覚えた方が良いと思うよ」
 そう言って彼は木陰(こかげ)に腰を下ろした。
「はいはい、君はもう少し素直になった方が良いと思うよー」
 僕がそう返すと彼は僕を(にら)む。
 勿論、怒っている訳ではない。
 軽口を言い合って、笑いあう。
 最近の僕達のブームだ。
「ところで、こっちの方まで来たのは随分(ずいぶん)と久しぶりだよね。いったいどうしたんだい」
 彼は不思議そうな顔で僕に問いかける。
「うーん……別に特に理由はないかな。ただ久々にすっごい遠くまで歩きたいなーって。そう思ってさ」
「なんだ、つまりいつもの気まぐれか」
「そうそう、別に今に始まった事じゃないだろう?」
「……少し皮肉っぽく言ったつもりだったんだけど」
「残念、事実をいう事は皮肉とは言わないのさ」
 僕は開き直ったようにガハハと笑って見せる。
「そうだね。いっつも君は『無計画』で『自分勝手』で『後先考えず』に勝手に――」
「ちょ、言い過ぎ言い過ぎ……」
 僕が彼を止めると今度は彼が勝ち誇ったようにフフンと鼻を鳴らした。
「はぁ、なんでこんなに頑固になっちゃったんだろうねぇ……」
「なんか言った?」
「何も……。さて、冗談はほどほどにして。君が休んだら次はどのあたりまで歩いて行こうか。右、左、まっすぐ。どこでもいいよ」
 僕がそう言うと、彼は立ち上がって、その辺に落ちていた木の枝を拾い上げると僕の隣へと歩いてきた。
「ん、休憩はもういいの?」
「うん、もう大丈夫だよ
「そっか、それで――その枝をどうするのさ」
 僕がそう言うと彼は枝を地面の上に垂直に立てるようにして、指で支えた。
「これが倒れた方向へ向かう」
 彼は少しドヤ顔で僕に言う。
「なんか古臭いやり方だね……」
「いちいち君は何か言わないと気が済まないのかい?」
「悪かったよ……」
「じゃあ倒すよー」
「おう!」
 ポス
 枝は僕達の右斜め前に向かって倒れた。
「よし、決まりだね」


 それから僕達は再び歩き続けた。
 距離にしたら相当歩いているだろう。
 それでもあちらこちらに木は生え、所々に花も咲いている。
「もうこれだけ広いと、どれがいつ撒いた、何の種かわからないや」
「そうだね。僕達は随分長い事この庭と時間を過ごした。それだけ色々話したって事だね」
 彼は懐かしむような瞳で先を見ている。
「どんな事を話したのかすらも、今となっては覚えていないよ」
「そうだね、もしかしたらいつかまた同じ『問い』について考えるかもしれない……」
「でも、もしその時が来ても、過去に僕達が出した答えとは、きっと違う答えが出てくるんだろうね」
 僕がそう言うと、彼も「確かにそうだね」と言って頷いた。
「成長するにつれて、新しい景色を見る事が増える。それと同時に、今まで自分が感じていた物事の見え方――視点も変わってくるから」
「でも、その同じ問いでも、そこに見つけた意味が違うのなら。それはまた違う花を咲かせる。そうしてどんどん廻って廻って。この庭は無限に大きくなる……」
「そう考えると、いつかは一日かけてもこの庭を廻りきれるかわからないね」
 そう言って僕は思わず笑ってしまった。
「そうだね。あっ、でもそれはそれでさ、キャンプ道具とか色々持って、旅に出るのとかどうかな?」
 彼は楽しそうに言う。
 その瞳はとても綺麗に輝いていた。
「あっ、それはいい考えだ!名付けて『ぐるり庭一周旅』!」
「そのまんまじゃん……」
「じゃあ君が考えて」
「うーん……『くるりん庭の旅』?」
「一緒じゃん」
「違うよ!」
 そう言って僕達はまた大きく笑いながら歩き続ける。
 
 それから暫く歩いた時だった。
「あっ!」
 僕はある物を発見してそこに指を指す。
「ねぇあれ!」
「あぁ、あれは――」
 僕達が見つけたもの、それはある日庭の中に突如として現れた、『(なぞ)庭園(ていえん)
「懐かしいね、ちょっと近くに行って見てみようよ」
 彼は少し興奮気味に駆け出した。
「おいおい、気を付けてね」
 僕も急いで彼を追いかける。
 そこには庭園――と言っても、今はもうツタに(おお)われていて見る影もない。
 入口だったと思われる場所も、大きなツルが絡みつき、中に入る事もままならなさそうで、僕達は少し離れた場所からそこを眺める事しか出来なかった。
「うーん……中に入るのは無理そうだね……」
 僕は腕を組んでそう呟いた。
「そうだね。なんであそこだけあんなにツタやツルまみれになってるんだろう……」
「元々不思議な場所だったし。なんかこう、エネルギーが強い場所なんじゃない?」
「なんのエネルギー?」
 彼にそう言われて僕は少しだけ考える。
「うーん……生命(せいめい)エネルギー?」
「あー……」
「突っ込まないの?」
 僕はてっきり「また変な事を」と言われるかと思っていたので、少しだけ拍子抜けした。
「いやまぁ、あながち間違いじゃないのかなって。生命力に(あふ)れてるって言われると、なんか妙に納得できるような気がしてさ……君は適当に言ったつもりだったのかい?」
 彼がそう問いかけると僕は静かに首を横に振った。
「実は僕も真面目にそんな気がしたんだ。あの場所は――なんていうか『(たましい)』が宿ってた。
 そう、まるで『生きている』のかなーって。とにかくなんか、不思議な場所だったね……」
「うん……というか、初めてこの庭園が出てきた時って、こんな遠くじゃなかったような気がするんだけど……」
 彼に言われて、僕は改めて実感した。
「確かに。そもそも、庭自体もこんなに広くなかったもんね」
 そう、前はここまで庭は広くなかった。
 それなのに、昔見た景色がこんなに遠くにある。
 この庭は本当に不思議だ。
「ところでさ……そろそろ戻らない?」
 彼はとても疲れた様子だった。
 今度ばかりはそろそろ帰ろう。
 流石に彼が可哀そうだ。
「そうだね、そろそろ戻ろうか」
 そう言って踵を返したその時だった。

 ガサッ……。
 
 庭園の方から物音が聞こえが気がした。
 僕は思わず再び庭園の方へ向き直って目を()らす。
 しかし、相変らずツタだらけで何もない。
「気のせいか……」
「なにしてんの?帰ろうよー」
「わかってるって」
 そう言って僕はその場を後にした。