僕と君と廻る庭

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 今日も僕は歩く。
 ただ、ひたすらに歩く。
 僕が僕であり続けるために歩く。
 君に会いに行くために歩く。
 僕が僕であり続けるのなら
 君も君であり続けてくれる。
 だから僕は歩いて君に会いに行く。
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 僕はこの場所が好きだ。
 ここには、都会を走る車やバイクの排気音もない。線路を走る電車の音も、ホームに響くアナウンスもない。
 肩がぶつかりそうなほど行き交う人々もいない。
 電話を片手に笑う人も、誰かに謝る人も、怒鳴る人もいない。
 ここにあるのは、一面を緑に覆われた大地。
 澄んだ青い空と、その空というキャンバスを自由気ままに泳ぐ雲。
 大小様々な木々。色とりどりの草花。そして、地面から顔を出したばかりの、小さな芽。
 それらを優しく撫でる風。遠くから聞こえてくる、湧き水の跳ねる音。
 空を廻る太陽と月が、この自由な景色を、今日も少しずつ違う色に染めていく。
 ここには補装された道路も、何かを隔てる為の柵も無い。歩く場所すらも自由。
 そして、そんな自由な場所で僕を待っている君がいる。
 だから僕はこの場所が好きだ。

「やぁ」
 僕が短く挨拶をすると、彼は僕に振り返り、優しくほほ笑みながら落ち着いた口調で返して来た。
「おかえり、今日は少し遅かったね」
「そうだね、色々と今日は疲れたから、一休みしてから来させてもらったよ、ごめんね」
 僕はそう言ってハハハと笑いながら彼が座るベンチの隣に腰を下ろした。
「そうだったんだね、お疲れ様。でも謝らないで。この庭は『自由』だ。
 僕達の前に広がる木々や草花、(まわ)る風も、そんな自由の中にいる君も『自由』でいていいんだから、来れる時に来ればいいんだよ」
「そうだったね、ここは自由が廻る庭だったね。
 君と話すことが楽しみでつい気持ちが急いじゃったのかもしれないね」
 僕は照れ隠しに、そして彼の隣にいられる充実感を噛み締めるように、そのまま身体をめいっぱい、ぐいと伸ばした。
「ふふっ、そういって貰えて嬉しいよ。僕も君と話すのは大好きだよ。
 君と話す度に、この庭はより綺麗になっていく。
 咲いてる植物は変わっていなくても、まるで別の物になったかの様に見える。
 それは、君と話す度に、僕の世界の見方が変わるからなんだろうね」
「そう、確かに僕達が見てる景色は同じだ。
 あそこの木も、あの花も、この空も、風も………。
 同じ物が見えているし、同じ風も感じている。
 でも君と話す事で…世界を『共有(きょうゆう)』する事によって、さっきまで目の前にあったそれらに特別な意味を得た状態の景色を見る事が出来る………そうだよね?」
 僕は確認するように問いながら、横目で彼を見る。
 すると彼は僕の視線に気づいたのか、僕に優しくほほ笑みながら首をゆっくりと縦に振った。
「『共有』…そうだね、僕は、『共有』という物は使用物を誰かと共に使う事、仕事などに必要な記録やデータ、そういったものを全体に伝える物だと思っていた。
 でも、それは『共有』という言葉のごく一部の意味でしかなかった。
 君と話して『共有』とは、同じ視点で物事を見られるようになる事でもあるんだよね。
 ………懐かしいね。この事に僕達が気付いたのは、僕が、『理解』と『共感』の違いについて、君と話した時だったかな………」
 少しの静寂ののち、彼は空を見上げながらポツリと呟いた。
「そうだね………ねぇ、少し歩こうか」
 僕はそう言って立ち上がり、彼に手を差し出すと、彼は迷うことなく僕の手を取りゆっくりと立ち上がった。
「勿論だよ、ふふっ、見つかるかな?」
 彼は少し意地悪な、だけどとても楽しそうな声で僕に笑いかけた。