次の日から、沙羅の捜索を開始することにした。
俺は探偵事務所で二人の到着を待ちながら、暇つぶしに佐々木が置いていった小説に読みふける。
推理小説だが、これがなかなか面白かった。
「お二人とも、遅いですね」
リリーがコーヒーの入ったマグカップを俺にそっと差し出す。
「ありがとう、いつものことだ」
カップを受け取り、一口飲む。
温かい液体が喉を通っていき、胃へと流れ込む感覚になんだか癒される。
俺はこの瞬間が結構快感だった。
このことを以前、桐生に言ったらすごく変な顔をされたが、絶対あいつの方が変わっている。
二人が遅刻するのは、当たり前だ。
十分、十五分なんていつものことだし、三十分、一時間遅れることだってある。
最悪な場合、約束したことを忘れていて、その日は現れない。
次の日以降、ひょっこり現れ「忘れてた」と言うのだ。
俺はもう、あいつらを待つのはやめた。
一応約束はしているが、待つんじゃなくていつも通り普通に過ごす。
これが俺の流儀だ。
「おっまたせー」
事務所の扉が勢いよく開いて、ニコニコした桐生が飛び込んできた。
「おう、今日は早かったな」
珍しく、今日の遅刻は十分だった。かなり優秀だ。
「うん、だって。楽しみにしてたから。リリー元気?」
桐生がリリーに微笑みかけた。
「はい、慶介様、今日も素敵ですね」
「リリーも可愛いよ」
リリーの頭を撫でる桐生。リリーも嬉しそうだ。
ペットか何かと勘違いしてるんじゃないのか。
「……すまない、遅れた」
開いたままの扉から静かに入ってきた佐々木がつぶやく。
「おお、おまえも今日は早いな。
それだけ早く来られるんなら、いつもそうであってほしいね」
そう言ってはみたが、二人とも人の話を聞いていない。
桐生はリリーとの話に夢中だし、佐々木は黙ってどこかあらぬ方向を見てぼーっとしている。
ほんとに勝手な奴らだ。
「じゃあ、揃ったことだし、行くか!」
俺が立ち上がると、リリーが反応した。
「ご主人様、私も行きます」
「え? なんで?」
俺の問いには答えず、リリーはもう来る気満々という顔で俺の横に並ぶ。
「主人とメイドは離れてはいけないんだよっ」
なぜか桐生が自信を持って答える。
俺は桐生をあきれた表情で見つめ、考えた。
リリーは格闘技が得意だったな、何か捜査の役に立つかもしれない。
その考えに行きついた俺は納得したように一人頷いた。
「じゃあ、皆で行くか」
俺が微笑むと、リリーが嬉しそうに微笑んだ――ような気がした。
こうして三人と一体は藤崎沙羅の捜索へと乗り出したのだった。
「おい、どうしたんだ? その姿は」
「何がだ?」
佐々木は俺を不思議そうに見つめた。
何がおかしいのかわかっていない顔だ。
「だって、おまえ、それ」
俺は佐々木を指差す。
佐々木はなぜか女装していた。
いつも手荷物のない佐々木が今日は珍しく大きなバッグを持っていたので、何か捜索に役立つ物でも持ってきたのかと期待していた。
先ほど「ちょっと着替えてくる」と言い、トイレへと駆け込んだ佐々木。
次に現れた時は、女性へと変貌していた。
黒髪のストレートロングヘアのかつらをかぶり、衣装は清楚な桜色のワンピースに淡い水色のカーディガンを上から羽織っている。
足元は女性らしい青のパンプスを履いていた。
佐々木はもともと細い体型で肩幅もないため、女装しても違和感がなかった。
顔立ちも美形なので、化粧をすると本当にどこかの綺麗な女優のようだ。
清楚なお嬢様と言われれば、そう見えてしまうほどに。
「佐々木くん、ちょー綺麗! すごいね。変装の名人だね」
佐々木の周りをぐるぐると旋回しながら、桐生がはしゃぐ。
「まあな」
佐々木もまんざらでもないように照れていた。
「……まあ、聞き込みするのに、あんまり男がぞろぞろいたら警戒されるだろうから、ちょうどいいや」
もう俺はいろんなことに免疫ができていて、あまり驚くことはなくなっていた。
「そうだろ、そう思ってやった」
佐々木が一人ほくそ笑む。
……本当かよ。
なんでこんなに、二人ともやる気満々なんだ?
まあ、一人でやっていた頃よりは、賑やかで退屈しないからいいけど。
俺もなんだかんだで、この二人といることに楽しみを見出している自分がいた。
「じゃあ、聞き込みするぞ」
こうして、二人のおじさんと、変装した美女とメイド姿のアンドロイドという、謎の一団の長い一日が幕を開けたのだった。
俺は探偵事務所で二人の到着を待ちながら、暇つぶしに佐々木が置いていった小説に読みふける。
推理小説だが、これがなかなか面白かった。
「お二人とも、遅いですね」
リリーがコーヒーの入ったマグカップを俺にそっと差し出す。
「ありがとう、いつものことだ」
カップを受け取り、一口飲む。
温かい液体が喉を通っていき、胃へと流れ込む感覚になんだか癒される。
俺はこの瞬間が結構快感だった。
このことを以前、桐生に言ったらすごく変な顔をされたが、絶対あいつの方が変わっている。
二人が遅刻するのは、当たり前だ。
十分、十五分なんていつものことだし、三十分、一時間遅れることだってある。
最悪な場合、約束したことを忘れていて、その日は現れない。
次の日以降、ひょっこり現れ「忘れてた」と言うのだ。
俺はもう、あいつらを待つのはやめた。
一応約束はしているが、待つんじゃなくていつも通り普通に過ごす。
これが俺の流儀だ。
「おっまたせー」
事務所の扉が勢いよく開いて、ニコニコした桐生が飛び込んできた。
「おう、今日は早かったな」
珍しく、今日の遅刻は十分だった。かなり優秀だ。
「うん、だって。楽しみにしてたから。リリー元気?」
桐生がリリーに微笑みかけた。
「はい、慶介様、今日も素敵ですね」
「リリーも可愛いよ」
リリーの頭を撫でる桐生。リリーも嬉しそうだ。
ペットか何かと勘違いしてるんじゃないのか。
「……すまない、遅れた」
開いたままの扉から静かに入ってきた佐々木がつぶやく。
「おお、おまえも今日は早いな。
それだけ早く来られるんなら、いつもそうであってほしいね」
そう言ってはみたが、二人とも人の話を聞いていない。
桐生はリリーとの話に夢中だし、佐々木は黙ってどこかあらぬ方向を見てぼーっとしている。
ほんとに勝手な奴らだ。
「じゃあ、揃ったことだし、行くか!」
俺が立ち上がると、リリーが反応した。
「ご主人様、私も行きます」
「え? なんで?」
俺の問いには答えず、リリーはもう来る気満々という顔で俺の横に並ぶ。
「主人とメイドは離れてはいけないんだよっ」
なぜか桐生が自信を持って答える。
俺は桐生をあきれた表情で見つめ、考えた。
リリーは格闘技が得意だったな、何か捜査の役に立つかもしれない。
その考えに行きついた俺は納得したように一人頷いた。
「じゃあ、皆で行くか」
俺が微笑むと、リリーが嬉しそうに微笑んだ――ような気がした。
こうして三人と一体は藤崎沙羅の捜索へと乗り出したのだった。
「おい、どうしたんだ? その姿は」
「何がだ?」
佐々木は俺を不思議そうに見つめた。
何がおかしいのかわかっていない顔だ。
「だって、おまえ、それ」
俺は佐々木を指差す。
佐々木はなぜか女装していた。
いつも手荷物のない佐々木が今日は珍しく大きなバッグを持っていたので、何か捜索に役立つ物でも持ってきたのかと期待していた。
先ほど「ちょっと着替えてくる」と言い、トイレへと駆け込んだ佐々木。
次に現れた時は、女性へと変貌していた。
黒髪のストレートロングヘアのかつらをかぶり、衣装は清楚な桜色のワンピースに淡い水色のカーディガンを上から羽織っている。
足元は女性らしい青のパンプスを履いていた。
佐々木はもともと細い体型で肩幅もないため、女装しても違和感がなかった。
顔立ちも美形なので、化粧をすると本当にどこかの綺麗な女優のようだ。
清楚なお嬢様と言われれば、そう見えてしまうほどに。
「佐々木くん、ちょー綺麗! すごいね。変装の名人だね」
佐々木の周りをぐるぐると旋回しながら、桐生がはしゃぐ。
「まあな」
佐々木もまんざらでもないように照れていた。
「……まあ、聞き込みするのに、あんまり男がぞろぞろいたら警戒されるだろうから、ちょうどいいや」
もう俺はいろんなことに免疫ができていて、あまり驚くことはなくなっていた。
「そうだろ、そう思ってやった」
佐々木が一人ほくそ笑む。
……本当かよ。
なんでこんなに、二人ともやる気満々なんだ?
まあ、一人でやっていた頃よりは、賑やかで退屈しないからいいけど。
俺もなんだかんだで、この二人といることに楽しみを見出している自分がいた。
「じゃあ、聞き込みするぞ」
こうして、二人のおじさんと、変装した美女とメイド姿のアンドロイドという、謎の一団の長い一日が幕を開けたのだった。



