薄暗い気持ちで学校に着くと、何やら朝から教室内は騒がしかった。
「えっ!綾乃、花火大会一緒に行けないの!?」
「うん、まぁ。彼氏と行く事になったから、私はパスで。」
「はぁー!?何それ!彼氏って、他校の小泉くん!?いつからそんな事になってんの!」
「普通に昨日。」
「展開早いわ!」
「マジで果歩には悪いと思ってるってー。」
「本当かよ…」
いつものように教室の中心で、果歩と綾乃が話しをしている。
彼女たちの話題は、おそらく以前哲也が提案してきた花火大会のことだろう。
哲也と帰り道で遭遇した時に、彼が一番最初に私に向かって提案してきた夏のイベントだ。果歩と綾乃からハブられなければ、きっと私も一緒に花火大会に行けたのかもしれないが、今となってはもうどうしようもない。
花火大会の話しを哲也にされた時は嬉しかったけれど、肝心な哲也は私のことなんて果歩と綾乃の付属品くらいにしか思っておらず、彼女たちにハブられて一人になった私には一切声を掛けて来ることも無かった。
あの時は哲也のことが気になっていたけれど、会話もしなくなった今では彼への好感度は無に等しい。
果歩と綾乃からハブられた当初は、彼の目に自分がどう映るのか怖くて情けなくて仕方なかったけれど、毎日一人で孤独に戦っていかなければならない学校生活を送るうちに嫌でも気持ちの整理はついてしまった。
そんな嫌な思い出しかない花火大会の話しなんて、正直聞きたくもないのが本音だ。
「綾乃が来れないんじゃあ、私女子一人ってこと!?」
「そうだね。」
「ちょっと!それは勘弁してよ!男子三人と女子一人ってバランス可笑しすぎるでしょ!?」
「果歩なら問題ないでしょー。」
「あるわ!」
大袈裟に頭を抱える果歩を、綾乃はクスクスと面白そうに見ては笑っている。クラスの中心でやり取りをする二人の声は、教室全体に響いていた。
彼女たちは二人で楽しげに話す度に、私がどんな気持ちでいるのか考えたこともないのだろう。
冷めた感情で果歩と綾乃の話しを聞いていれば、ドスドスと足音を立てて一人の男子が彼女たちに近付いて行った。
「いや、男子四人な。彼女に振られたから、俺もお前らと花火大会行くし!」
「はぁー!?嘘でしょ!?」
そう極めて明るく声を掛けたのは、クラスのムードメーカー的な存在の光太だった。
光太と言えば、哲也と仲が良くていつも一緒の男子グループに居る印象がある。まだ哲也と話す機会があった頃は、会話中に彼の口から『光太』という名前が度々登場していた程だ。
「もー!これから夏休みっていうのに、振られた可哀想な俺を慰めてくれよ!色々デートの計画も立ててたのに!」
「それはドンマイ。」
「いや!それよりも私、男子四人の女子一人で行くの!?」
光太が彼女たちに加わったことにより、一層教室内は騒がしくなった。
そんな彼等に便乗するように、周囲に居たクラスメイトたちも夏休みの予定ついてワイワイと話し始める。
「こうなったら、誰か一緒に行ってくれる女子を誘うしかないかぁー。」
机に項垂れるように頭を下げて言った果歩は、片手でスマホを弄り始める。その様子に光太が「じゃあその女子、俺に紹介して!」とテンション高く言った。
楽しげな会話が飛び交う賑やかな教室は、酷く居心地が悪い。
そのうち哲也も登校して来たら、きっとあの果歩たちの集団に加わるのだろうと容易に想像が出来て無性に苛々した。
終業式を終えたら当分はこの場所に来なくて済むのに、あと少しが長い。居心地が悪いと、時間が経つのがやけに遅く感じるのだ。
私は教室から逃げ出して、いつものように女子トイレへ避難する。
最近はこうやって一人になれる時間が無いと、正気で居られなくなりそうになる。
そう足早に女子トイレへと向かう私には、もう既に教室で話す彼等の会話は聞こえていなかった。
「てか、あの子呼べば?お前ら前まで一緒に居たじゃん!」
「…あー、夏希?」
「そう!それが一番手っ取り早くね?クラスメイトだし?」
「えー、夏希かぁー。」
「てか、お前さ。皆で花火大会とか言ってたけど、どうせ哲也目当てなんだろ?」
「…!」
「俺が上手く二人きりに誘導してやろうか?」
「そんなこと出来るの?」
「まぁな。でも、正直あの子だったら何でも言うことを聞いてくれそうだし、他の奴らと一緒に誘導しやすそうじゃんね。」
「……」



