拝啓、17の絶望。


「ねぇ!夏休みどうする!?」

「とりあえず、海と祭りは行くでしょ!」

「絶対行く〜!メンバーは誰呼ぶ?てか、いつ行く!?」

「ミホとアカリと…あっ!サナ発見!ちょっ、声掛けに行こう!」

「あっ!待って!?足速いって!」

「サナーっ!」

 スカート揺らして、元気良く走っていく女子たちの後ろ姿を意味も無く眺める。

 友達同士でキャハハッと笑い合う彼女たちが眩しくて、なんだか苛々した。

 まだ朝にも関わらずキラキラと照り付ける日差しに、額からは汗が流れる。何処から聞こえて来る蝉の声がより一層、夏の暑さを感じさせているように思えた。

 期末テストも一週間前に終わり、今日の終業式を終えれば待ちに待った夏休みに入る。

 とは言っても、私は先程の女子たちのように夏休みにやりたい事なんて一つもないのだ。

 私にとっては、夏休みで学校なんかに通わなくて済むことだけで本当に大きな救いだった。

 明日から夏休みが始まることを学生たちは、意識せずには居られないのだろう。

 朝の気怠い通学路でさえも、何処か皆浮かれたような雰囲気が漂っていた。
 
 そんな学生たちの群れの中を一人歩いていれば、見知った二人を見つけた。

 背筋を曲げて歩く竹本さんと寝癖が付いた頭の山田くんが、今日も二人仲良く登校している。

 以前、竹本さんと山田くんの二人と一緒に登校した時から、彼女とは授業でグループを作らなければならない時だけ協力し合うような微妙な距離感を保っていた。

 必要以上に仲良くするわけでも、全く関わらないわけでもない距離感が竹本さん相手には楽なのかもしれないと思ってしまったのだ。

 それはきっと竹本さんも一緒で、お互いに同じようなことを感じ取ったのかもしれない。

 視線の先に居る竹本さんは相変わらず背中を丸めて歩くけれど、時折背の高い山田くんに視線を向けようとして顔を上げている。

 その横顔は重たい前髪に半分隠れているにも関わらず、とても穏やかで幸せそうに見えた。

 そりゃ、そうだ。

 私が竹本さんと一緒に居ることに対して、今まで一人で過ごしていた彼女の立場を思い「都合が良い」と言い放つことが出来る彼氏が、彼女には居るのだから。

 私は肩を寄せ合い歩く二人を見ながら、途方も無い虚無感に襲われた。

 私と同じように教室で一人きりの竹本さんは、スクールカースト上位層の果歩や綾乃から「ああいう人」と差別されるくらいに普通ではないとずっと思っていた。

 それなのに何で、あんな普通に幸せそうなんだろう。

 きっと竹本さんには山田くんが居るから、こんな惨めな日々に耐えられているのだ。

 いや、そもそも竹本さんには私のこの生きづらさなんて分かるはずもない。私と竹本さんとは根本的な考え方が違うのだから。

 そうだ。

 皆人それぞれ違うはずなのに、何でいつも私だけがこう(・・)なのだろう。

 果歩と綾乃からハブれて随分経ったけど、私は今だに友達一人作れずに教室でひとりぼっちだ。

 気になっていた哲也は私のことなんて眼中にないし、友達からハブれた私がどんな惨めな思いで彼と同じ教室に居たか知りもしないだろう。

 新たに友達を作ろうと竹本さんに声を掛けても上手くいかず、クラスメイトたちには噂されて、挙句の果てには嫌な過去の記憶まで全部思い出した。

 大嫌いな父の言ったことを無意識に今まで従い続けていたことも、幼い頃から何も変わらずに周囲に馴染めないまま、また同じを過ちを繰り返し続けていることも。

 どんどん自分のことが嫌いになるくらいに、良いことなんて一つもない。どうして私だけが辛いのだと、真っ黒に燃えた感情が私の中で渦巻いていく。

 そして気付けば、夢の中で未来の私が私のことを普通だと言っていたことも、卒業まで学校に通えるから大丈夫と言っていた三択のことも頭の隅に追いやって、どうにも出来ない現実の日々を抜け殻のように過ごしていた。

 どれだけ嫌なことに傷付いていても、時間は止まってくれずに今日も望んでもいない朝がやって来る。

 胸の内に溜まった淀みを吐き出すように、深く息を吐いた。

 視界には今だに騒がしい学生の群れの中を、肩をぶつけながら寄り添って歩く竹本さんと山田くんが入って来る。

 竹本さんのように、私にも自分のことを好きだと言ってくれる誰かが居たら少しは何かがマシになるのかな。

 ぼんやりと、そんなことを思った。

 自分を肯定してくれる誰かの存在で、私はこの生きづらさが解消されるような気がするのだ。

 そしたら、こんな『ちゃんと普通であること』に囚われなくても、周囲に馴染めないひとりぼっちの自分にこれ以上絶望しなくても済むのではないか。

 誰かに認めてもらえたら、私はようやくまともになれるのかもしれない。

 まるで現実逃避のように、自分を許してくれる救いのような誰かの存在を夢に見る。

 そうでもしないと、この身に降りかかる虚しさを直視出来なかったのだ。