「…い、おい!真夏!!」
どこかで自分を呼ぶ声が聞こえた。
なんなら親よりも親しみのあるその声に、真夏は思わずがばっと顔を上げた。
同時に、こめかみ辺りに衝撃が走る。
顔を上げると、そこはいつもの美術室で、ちょうど涼斗が真夏の頭をスケッチブックで軽く叩いたところだった。
「部活で居眠りとかするなよ。部長に怒られるぞ。」
「え?」
真夏が素っ頓狂な声を上げると、涼斗は
「大丈夫か?まだ寝ぼけてる?」
と、ちょっと心配そうに覗き込んできた。
「え、あ、いや、」
確か、別の場所に居たような気がするのに、記憶を探っても何も思い出すことが出来なかった。
涼斗は相変わらず心ここに在らずといった様子できょろきょろと周囲を見回す真夏を眺め、その額に手を当てた。
「わっ、」
思ったよりもひんやりとした涼斗の手の感触に驚き、のけぞる。
「なに?」
「いや、熱でもあるんじゃないかと思ってさ。」
そのまま頬から首にかけて滑り降り、温度を確かめられた。
「熱は無さそうだな。」
安堵した顔で笑った涼斗を見て気恥ずかしくなり、真夏は慌てて首に触れている手を払った。
「なにやってるの?」
聞きなれた柔らかい声が響く。そちらを向くと、画材を抱えた葉月がきょとんとした顔で立っていた。
真夏が声をかけようとすると、ワンテンポ早く、
「真夏がぼーっとしてたから、熱でもあるかなって思って確かめてたんだ。文夏はどうしたの?」
と涼斗が笑顔で聞いた。
「ふぅん…、里山先生が、今日は油絵具使うから準備しなさいってさ。」
「おけ、ありがと。ほら、真夏もいこうぜ。」
涼斗がこちらに向き直ったとき、真夏はふと疑問に思ったことを聞いた。
「涼斗、お前、葉月を名前で呼んでたっけ?」
涼斗の顔がぴしりと固まった。
見る見るうちにじんわりと紅く染まっていく頬を見て、首を捻る。
「お前さ、それわざと?」
「は?」
顔を仰ぎつつ軽く睨みつけてくる涼斗に怪訝な顔を返すと、真夏の耳元で声を潜めて、
「前にも言ったじゃん、その…葉月文夏と付き合い始めたって。」
「え???」
真夏が目を白黒させているうちに、涼斗はさっさと画材を取りに行ってしまった。
一人ぽつんと残された真夏は、思考の整理がままならないまま、しばらくその場で動けずに立ち尽くしていた。
周囲の人が出す音よりも、遠くで耳鳴りのように響く蝉の声のほうが、嫌に鮮明に鼓膜を震わせている気がした。
どこかで自分を呼ぶ声が聞こえた。
なんなら親よりも親しみのあるその声に、真夏は思わずがばっと顔を上げた。
同時に、こめかみ辺りに衝撃が走る。
顔を上げると、そこはいつもの美術室で、ちょうど涼斗が真夏の頭をスケッチブックで軽く叩いたところだった。
「部活で居眠りとかするなよ。部長に怒られるぞ。」
「え?」
真夏が素っ頓狂な声を上げると、涼斗は
「大丈夫か?まだ寝ぼけてる?」
と、ちょっと心配そうに覗き込んできた。
「え、あ、いや、」
確か、別の場所に居たような気がするのに、記憶を探っても何も思い出すことが出来なかった。
涼斗は相変わらず心ここに在らずといった様子できょろきょろと周囲を見回す真夏を眺め、その額に手を当てた。
「わっ、」
思ったよりもひんやりとした涼斗の手の感触に驚き、のけぞる。
「なに?」
「いや、熱でもあるんじゃないかと思ってさ。」
そのまま頬から首にかけて滑り降り、温度を確かめられた。
「熱は無さそうだな。」
安堵した顔で笑った涼斗を見て気恥ずかしくなり、真夏は慌てて首に触れている手を払った。
「なにやってるの?」
聞きなれた柔らかい声が響く。そちらを向くと、画材を抱えた葉月がきょとんとした顔で立っていた。
真夏が声をかけようとすると、ワンテンポ早く、
「真夏がぼーっとしてたから、熱でもあるかなって思って確かめてたんだ。文夏はどうしたの?」
と涼斗が笑顔で聞いた。
「ふぅん…、里山先生が、今日は油絵具使うから準備しなさいってさ。」
「おけ、ありがと。ほら、真夏もいこうぜ。」
涼斗がこちらに向き直ったとき、真夏はふと疑問に思ったことを聞いた。
「涼斗、お前、葉月を名前で呼んでたっけ?」
涼斗の顔がぴしりと固まった。
見る見るうちにじんわりと紅く染まっていく頬を見て、首を捻る。
「お前さ、それわざと?」
「は?」
顔を仰ぎつつ軽く睨みつけてくる涼斗に怪訝な顔を返すと、真夏の耳元で声を潜めて、
「前にも言ったじゃん、その…葉月文夏と付き合い始めたって。」
「え???」
真夏が目を白黒させているうちに、涼斗はさっさと画材を取りに行ってしまった。
一人ぽつんと残された真夏は、思考の整理がままならないまま、しばらくその場で動けずに立ち尽くしていた。
周囲の人が出す音よりも、遠くで耳鳴りのように響く蝉の声のほうが、嫌に鮮明に鼓膜を震わせている気がした。
