ある日、部活動後の片付けの最中に、真夏は唐突に2年の男子の佐藤先輩からがばっと肩を組まれた。
佐藤先輩は、部活の参加率はまぁまぁなお調子者の先輩だ。
元々は野球部に所属していたようで、一年生の終わりごろに怪我をして続けられなくなり、その後美術部に転部したと言っていた。
それを聞いたときにはどんな顔をしていいか分からなかったが、当の本人はあっけらかんと語っていたので、もう吹っ切れているようだった。
文化部は大人しめな人が多いけど、佐藤先輩はノリが体育会系というのか、妙に距離が近い。
真夏が肩に急激に来た重さに目を白黒させていると、先輩はよく通る声で、
「おい、おまえら、水臭いじゃないか。付き合ってるなら言ってくれよ!!」
と言ってきた。
真夏は、さっと顔から血の気が引いた。
佐藤先輩に余計なことを言われないように嗜めようとしたが、その前に噂好きな女子の鈴木先輩が、
「なになに?どうしたの⁉」
とつっ込んできてしまった。
佐藤先輩はニヤニヤ笑いながら、
「俺、ちょっと前に見たんだ、駅前のカフェでこいつと、同じ一年の葉月ちゃんがデートしてるとこ。」
と言った。
「え、うそ!」とか、「マジ⁉」という、主に女子の先輩方の声が上がる。
確かに、前の日曜日に真夏は葉月と2人でデートに行っていた。
カフェでお茶をしてちょっと喋ったくらいだったが、まさか佐藤先輩に見られてたとは思わなかった。
てか、佐藤先輩カフェとかいくんだな⁉と思いながらも、
「あの雰囲気は、絶対付き合ってたって。」
とさらに捲し立てる佐藤先輩に何とか弁解しようとしたが、いい言い訳は何も思い浮かばなかった。
葉月の方を見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
それを見て、さらに女子の先輩たちがきゃーきゃー言っている。
「え、ほんとに付き合ってたの⁉」
「言ってよ~!!」
「お似合いじゃん~!!」
そんな言葉が耳に入ってくる。
真夏はそっと涼斗の方を見ると、涼斗はその騒ぎに背を向けて美術室を出るところだった。
真夏は慌てて、
「ちょっと、すみません‼」
と謝り、画材をさっと片して慌てて荷物を纏めると、涼斗を追って美術室を飛び出した。
涼斗が出てから数分もしないうちに出たのに、歩くのも速い涼斗は既に下駄箱で靴を履いていた。
真夏の姿を見止めると、涼斗は靴紐を急いで結んで行こうとした。
真夏は小走りでなんとか追いつき、その腕を引っ掴んで咄嗟に引き留めた。
「待って‼」
涼斗は、ピタッと止まり、ため息を吐いた。
「なんだよ?」
涼斗の声は、いつもより低くて温度が無かった。
「えっと、その…」
真夏が、何をどう話そうか迷ってもごもごしていると、涼斗はもう一度大きくため息を吐いた。
「逃げないから一旦靴履けよ。帰れねぇじゃん。」
真夏は、慌てて下駄箱から靴を出して履いた。
涼斗とは違い、真夏は靴の紐を毎回結び直したりしないから、一分もかからずに履けた。
もし涼斗もこのタイプだったら、きっと追いつけなかっただろう。
真夏の準備が整ったのを悟ると、涼斗は無言で歩き出した。
真夏は、明らかに機嫌が悪い涼斗になんて話しかけようか、校門を出るまで悩んだ。
弁解をしようか、謝罪をしようか、ぐるぐると迷い、ようやく口を開いたとき、
「なぁ、いつからだ?」
「へ?」
涼斗が一瞬早く言葉を発したため、真夏は面食らって固まった。
「だから、葉月といつ付き合ったのかって。」
「…原画展に行った日。」
「ふーん。」
涼斗は、まだ温度の無い声色をしていた。
涼斗は割と感情を表に出すタイプで、怒っていればすぐわかる。
だけど、今の涼斗の感情は読めなかった。
「ずっと言ってなくてごめん。あと、よりによって涼斗が行けなかった日に告っちゃって、ごめん。なんかズルかったよな…本当は、あの日に言うつもりなかったんだ。」
真夏が謝り、弁明すると、
「いいじゃん、おめでとう。」
涼斗は唐突に笑顔になって、真夏の方を向き直り、肩に手を置いてそう言った。
「え…」
もちろん、涼斗の顔は一見笑っていたが、心の底からの笑顔ではないことは明らかだった。
声も、明らかに無理やりに明るく出したような不自然な声色で、不気味で思わず身震いをした。
涼斗は、それだけ言うと、そのまま走り出した。
「え、ちょ、ちょっと涼斗!!」
真夏は涼斗を追いかけ、走り出した。
「ごめん、ほんとごめん!」
真夏は涼斗のバッグを掴もうとしたが、その前にスピードを上げられてしまい、手が空を切った。
よろけてたたらを踏み、立て直した頃には、もう既に全速力で走っても追いつけない距離に居た。
「くそ…」
諦めて息を整えながら、真夏は先ほどの涼斗の顔を思い出し、胸がぎゅっと締め付けられるような苦い気持ちを嚙み締めていた。
佐藤先輩は、部活の参加率はまぁまぁなお調子者の先輩だ。
元々は野球部に所属していたようで、一年生の終わりごろに怪我をして続けられなくなり、その後美術部に転部したと言っていた。
それを聞いたときにはどんな顔をしていいか分からなかったが、当の本人はあっけらかんと語っていたので、もう吹っ切れているようだった。
文化部は大人しめな人が多いけど、佐藤先輩はノリが体育会系というのか、妙に距離が近い。
真夏が肩に急激に来た重さに目を白黒させていると、先輩はよく通る声で、
「おい、おまえら、水臭いじゃないか。付き合ってるなら言ってくれよ!!」
と言ってきた。
真夏は、さっと顔から血の気が引いた。
佐藤先輩に余計なことを言われないように嗜めようとしたが、その前に噂好きな女子の鈴木先輩が、
「なになに?どうしたの⁉」
とつっ込んできてしまった。
佐藤先輩はニヤニヤ笑いながら、
「俺、ちょっと前に見たんだ、駅前のカフェでこいつと、同じ一年の葉月ちゃんがデートしてるとこ。」
と言った。
「え、うそ!」とか、「マジ⁉」という、主に女子の先輩方の声が上がる。
確かに、前の日曜日に真夏は葉月と2人でデートに行っていた。
カフェでお茶をしてちょっと喋ったくらいだったが、まさか佐藤先輩に見られてたとは思わなかった。
てか、佐藤先輩カフェとかいくんだな⁉と思いながらも、
「あの雰囲気は、絶対付き合ってたって。」
とさらに捲し立てる佐藤先輩に何とか弁解しようとしたが、いい言い訳は何も思い浮かばなかった。
葉月の方を見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
それを見て、さらに女子の先輩たちがきゃーきゃー言っている。
「え、ほんとに付き合ってたの⁉」
「言ってよ~!!」
「お似合いじゃん~!!」
そんな言葉が耳に入ってくる。
真夏はそっと涼斗の方を見ると、涼斗はその騒ぎに背を向けて美術室を出るところだった。
真夏は慌てて、
「ちょっと、すみません‼」
と謝り、画材をさっと片して慌てて荷物を纏めると、涼斗を追って美術室を飛び出した。
涼斗が出てから数分もしないうちに出たのに、歩くのも速い涼斗は既に下駄箱で靴を履いていた。
真夏の姿を見止めると、涼斗は靴紐を急いで結んで行こうとした。
真夏は小走りでなんとか追いつき、その腕を引っ掴んで咄嗟に引き留めた。
「待って‼」
涼斗は、ピタッと止まり、ため息を吐いた。
「なんだよ?」
涼斗の声は、いつもより低くて温度が無かった。
「えっと、その…」
真夏が、何をどう話そうか迷ってもごもごしていると、涼斗はもう一度大きくため息を吐いた。
「逃げないから一旦靴履けよ。帰れねぇじゃん。」
真夏は、慌てて下駄箱から靴を出して履いた。
涼斗とは違い、真夏は靴の紐を毎回結び直したりしないから、一分もかからずに履けた。
もし涼斗もこのタイプだったら、きっと追いつけなかっただろう。
真夏の準備が整ったのを悟ると、涼斗は無言で歩き出した。
真夏は、明らかに機嫌が悪い涼斗になんて話しかけようか、校門を出るまで悩んだ。
弁解をしようか、謝罪をしようか、ぐるぐると迷い、ようやく口を開いたとき、
「なぁ、いつからだ?」
「へ?」
涼斗が一瞬早く言葉を発したため、真夏は面食らって固まった。
「だから、葉月といつ付き合ったのかって。」
「…原画展に行った日。」
「ふーん。」
涼斗は、まだ温度の無い声色をしていた。
涼斗は割と感情を表に出すタイプで、怒っていればすぐわかる。
だけど、今の涼斗の感情は読めなかった。
「ずっと言ってなくてごめん。あと、よりによって涼斗が行けなかった日に告っちゃって、ごめん。なんかズルかったよな…本当は、あの日に言うつもりなかったんだ。」
真夏が謝り、弁明すると、
「いいじゃん、おめでとう。」
涼斗は唐突に笑顔になって、真夏の方を向き直り、肩に手を置いてそう言った。
「え…」
もちろん、涼斗の顔は一見笑っていたが、心の底からの笑顔ではないことは明らかだった。
声も、明らかに無理やりに明るく出したような不自然な声色で、不気味で思わず身震いをした。
涼斗は、それだけ言うと、そのまま走り出した。
「え、ちょ、ちょっと涼斗!!」
真夏は涼斗を追いかけ、走り出した。
「ごめん、ほんとごめん!」
真夏は涼斗のバッグを掴もうとしたが、その前にスピードを上げられてしまい、手が空を切った。
よろけてたたらを踏み、立て直した頃には、もう既に全速力で走っても追いつけない距離に居た。
「くそ…」
諦めて息を整えながら、真夏は先ほどの涼斗の顔を思い出し、胸がぎゅっと締め付けられるような苦い気持ちを嚙み締めていた。
