あの朝から数日が経った。
一花は、朔也から入った連絡に応じて、デートの待ち合わせ場所へと向かっていた。
週末の駅前。待ち交う大勢の人混みの中に、見慣れた後ろ姿を見つける。一花は少し歩調を速め、朔也の元へと駆け寄った。
一花の姿を捉えた瞬間、朔也の顔にパッと華やかな笑顔が咲く。
「一花! 待ってたよ」
「ご、ごめんね、遅くなっちゃって……っ」
少し息を切らしながら謝る一花。しかし、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、朔也は長い腕を伸ばし、一花の身体をゆっくりと優しく抱き締めた。
「……っ」
突然の温もりに、一花の身体が瞬間的に硬直する。驚きで顔がこわばり、心臓が嫌な音を立てて脈打ち始めた。
いつもなら、人前でこんな風に大胆に抱きついてくるような人ではない。電話の向こうで見せた不気味な底知れなさと、目の前にいるいつになく優しい朔也。そのあまりのギャップに、一花の胸の奥で、じわじわと形のない恐怖が膨らんでいく。
一花は必死に声を絞り出し、朔也の胸を少し押し返そうとした。
「え、朔也くん……? ちょっと、恥ずかしいよ」
その言葉に、朔也は無理に引き止めることもせず、ゆっくりと一花の身体を離した。
けれど、その視線はまっすぐに一花を射抜いたままだ。
「だって、一花に会いたくてたまらなかったんだ。……充電させてよ」
そう言って、朔也は子供のように無邪気に笑った。
一花は、その笑顔をじっと見つめることしかできなかった。
いつもの、優しくて大好きな恋人の笑顔。それなのに、今の彼女には、その笑顔の裏にある彼の『本心』が全く見えなかった。本当に自分を愛してくれているのか、それともすべてを知った上で自分を試しているのか――。
晴れない疑問と不安を胸に抱えたまま、一花は朔也に手を引かれ、賑やかな街へと歩き出した。



