一花は、胸の奥底に溜まった泥のような膿をすべて吐き出すように、馨に言葉をぶつけ続けた。
「私はずっと、許せなかった……。碓氷くんの言った通りだよ……私はずっと、朔也くんが憎かった……。復讐したかった、壊したかった。パパからの愛を、あの人がずっと奪っていたから……」
溢れ出る涙が、馨の肩口を濡らしていく。一花の声は絶望に震えていた。
「もういいよ、全部バラしても……。私のやるべきことはもう……何もない。今すぐ、消えてなくなりたい……」
すべてを諦めた一花の告白を、馨は黙って受け止めていた。そして、腕の中の細い身体をさらにぎゅっと強く抱きしめる。
しばらくの沈黙の後、馨は耳元で静かに、けれど確かな熱を持って語りかけた。
「消えるなんて言わないでよ」
その声の優しさに、一花の身体がわずかに強張る。
「俺はずっと、復讐に目を向ける一花ちゃんが好きだよ。まだ何も始まってないし……終わってもないでしょ」
「え……?」
「朔也は? 朔也の本心、まだちゃんと聞いてないんじゃないの……?」
予想もしなかった馨の言葉に、一花は驚きで固まった。
そんな彼女の様子を見て、馨は「くすっ」と小さく悪戯っぽく笑った。
「何、意外だった?」
馨はそっと一花を腕から離すと、その頬に伝う涙を指先で優しく拭った。一花は瞬きをすることさえ忘れて、じっと馨の瞳を見つめ返す。
「アイツ、きっと薄々わかってるよ。一花ちゃんのこと……」
「……え」
冷え切っていた一花の瞳に、徐々に生気の光が戻ってくる。
馨は一花の濡れた髪をそっと指先ですくい上げると、愛おしそうにそこへ唇を落とした。
「遊園地のあの日、俺が学校で一花ちゃんを口説いてるのも……、一花ちゃんにキスしたことも、あいつ、全部わかってて泳がせてるような顔してた」
次の瞬間、一花は視界が大きく傾くのを感じた。気づけば、ソファの上にゆっくりと押し倒されていた。
驚きで目を見開く一花が、掠れた声でその名を呼ぶ。
「碓氷くん……?」
上から見下ろす馨の瞳は、どこか拗ねたような、熱い光を帯びていた。
「けど……俺、あの日は結構怒ってたからね。よりにもよって、復讐相手に簡単にキスされるとか、何してんだよって」
ドクン、と胸の奥で心臓が大きく跳ねた。
死んだように静まり返っていたはずの心が、馨の言葉と体温によって、再び脈打ち始めていく。
一花はその激しい鼓動から逃れるように、たまらず顔を背けた。
「……てない」
蚊の鳴くような、小さな声だった。
馨はわざとらしく眉をひそめ、顔をさらに近づけてくる。
「何? 聞こえないんだけど」
「キス、……してないから!」
顔を真っ赤に染めながら必死に否定する一花を見て、馨は満足そうに口元を綻ばせた。
「はは、何それ可愛い」
その瞬間、一花の頭を占めていた父親への絶望は、馨の強引で優しい熱によって、少しずつ上書きされていくのだった。



