静まり返った部屋に、テレビの音声だけが虚しく響いていた。
「一花……? ……あれ、」
ソファの上で、朔也は重い瞼を持ち上げた。まだ眠気の残る声で愛しい人の名を呼ぶ。しかし、返ってくるはずの声はない。あたりを見渡しても、そこに一花の姿はなかった。
不意に、開け放たれたままの玄関のドアが目に入る。冷たい外気が、室内の淀んだ空気をかき乱していた。
(一花が、いない……?)
胸を突く不安に突き動かされるように視線を巡らせた瞬間、テレビの画面が朔也の意識を強烈に引きつけた。画面に映し出されているのは、一花が飛び出していくきっかけとなった、あのニュースだ。キャスターが「朝霧青紫」の名を冷徹に読み上げている。
その名前を目にした瞬間、朔也の目は限界まで大きく見開かれた。
顔から血の気が引き、呼吸が止まる。
「……っ」
怒りと恐怖、そして絶望が一気に押し寄せ、朔也はソファの布地を狂暴な力で掴んだ。ギリッ、と繊維がきしむ鈍い音が静かな部屋に鳴り響く。指先が白くなるほどに拳を握りしめ、彼は画面を凝視し続けた。
やがて、その瞳から光が完全に消え失せる。
焦点の合わない虚ろな目で、天井のどこか一点を見つめながら、朔也は力なく呟いた。
「母さん……、またアイツが……帰ってきた」
喉の奥から漏れ出た声は、あまりにも小さく、震えていた。
「俺をひとりにしないで……」
すがりつくような、子供のような懇求。一花が去った無人の部屋で、朔也の言葉は誰に届くこともなく、ただ暗闇の中に溶けて消えていった。



