一花は袋を握りしめたまま、混沌とする思考の中で、一つの可能性にたどり着く。
「そういえば……朔也くんのお母さんは入院してるって、言ってたっけ……?」
記憶の糸が急速に繋がり、パズルのピースが嵌まっていく。そう、朔也の母親は“安斎病院”の精神科に入院していたのだ。
不倫劇の裏に隠された複雑な事実が、彼女の中で確信へと近づいていく。けれど、一花の胸にくすぶる黒い炎は消えなかった。
「何それ……。だからって、許せないよ、私は……」
いくらあの女が心を病んで入院していようが、一花には知ったことではない。自分の家庭を壊され、父の愛を奪われた事実に変わりはないのだ。朔也に近づき、復讐すると決めたあの瞬間から、何がなんでも全てを壊すと誓ったはずだった。
なのに――。
一花は古びた薬の袋から突き放すように手を離し、埃っぽい部屋を飛び出した。
ひたひたと廊下を戻り、ゆっくりと朔也の眠る部屋へと足を運ぶ。
ソファーの上、薬の力で未だに起きる気配のない朔也。一花は音を立てずに彼へと近づき、その無防備な寝顔を見下ろした。
(もし……もし、あなたも、私と同じように、違う何かに囚われて苦しんでいるのだとしたら……。そしたら私は…、あの人を許さなければならないの……?)
そんな弱気な考えが脳裏を過る。完璧な悪魔になりきれず、復讐の刃を鈍らせてしまう自分自身に、猛烈な怒りと腹立たしさが湧き上がってきた。許してたまるものか。パパを返して。パパの愛を返して。
一花は焦点の合わない虚ろな目で、愛憎の対象である彼を見下ろした。
「いっそ、あなたが消えてなくなれば……私は、救われたかもしれないのに……」
呟きと共に、一花はゆっくりと朔也に顔を近づけた。そして、彼の細い首筋へと、自らの両手を音もなく忍ばせる。
手のひらに伝わる、朔也の一定で穏やかな脈拍。ゆっくりと息を吐き、息を吸う彼の生そのものに、一花はありったけの憎しみを込めた。
このまま力を込めれば、全てが終わる。
一花は首を締め付けようと、その指先にぐっと力を込めようとした。
その時―――――。



